② 回想
「千津さんから少しは聞いたのですが、先生、何故ここで隠居生活をしているのですか?」
と雫ちゃんが訊いた。
「只野君から聞いていないのか?」
「はい、何も。
只野警視総監も関係されているのですか?」
「ああ、ここは只野君の親戚が大家さんなんだ。
親からの遺産だそうだが、東京の官庁勤務で、誰もここに住む者が居ないので、わしが留守番することになったんだ。
隠居生活には持ってこいの場所だよ。
温泉はあるし、水も良質な山水だし、空気は良いし、景色もよく、朝陽も夕陽もよく見えて、最高だよ!」
「そうでしたか。でもここ雷山は赤目牛の本拠地ではなかったんですか?」
「最悪の神縁地も一皮剥けば、最良の神縁地に変わるのが不思議だな!
もう、この雷山神社(いかづちじんじゃ)のタテカエは終わったんだよ。」
「先生、その神業のことを話して下さいよ!」
「この神業のことを話すと、沢山な関連神業があるので長くなるから、またの機会にして、今日はせっかく美味しい肴が沢山あるので、酒を楽しもうよ。」
「それでは、雷山神社のタテカエは済んでもう、心配事は無いのですね!」
と真ちゃんが念を押した。
糸島市 雷山神社 (いかづちじんじゃ)
「ああ、雷山に関しては、もう大丈夫だが、赤目牛の発生の因についてのタテカエが残っているんだ。
たぶん、阿蘇の日乃出生魂(ひのでいくたま)No.0様や、根元怒りの現場等との関係も出て来ていて、完全なるタテカエにはまだまだ神業と時間がかかるようだな!」
「そうですか。」
「先生が隠居されたと千津ちゃんから聞いて、どうされたのかと心配していたのですが、御元気そうで安心しました。」
とジミーが言った。
「そうですよ、先生が隠居する等と言われて、急に神霊捜査課を辞められて、私達は頼れるところが無くて寂しい思いをしたんですよ!」
と雫ちゃんが五島を睨んだ。
「実のところは、私は元々、天民武盛の国家権力の加担をすることは嫌いだったんだが、友人の誠ちゃん、すまん、武井元警視総監の頼みだったし、我々の神業の残りによる現界反映となる事件が頻繁に起こっていたので、東京の警視庁本部内にスサナル捜査部を設置して、雫ちゃんやジミー君達の力を借りて、やれることだけはやったつもりだったが、政府の政権交代で誠ちゃんが警視総監を辞任したので、一応の区切りをつけて、スサナル捜査部を廃部としたのだよ。
それで私は晴耕雨読の生活に戻れたのだが、また政権交代が起こり元の政権が戻ったら、驚いたことにスサナル捜査部の部長だった只野君が出世して、警視総監になって、昔の自分の部署の復活の為に試験的に特別に福岡県警の隅に神霊捜査課を立ち上げるので、協力してほしいとの意向だったので、嘱託として課の体制が整うまでという約束で手伝いしていただけなんだよ。
それに、雫ちゃんも千津ちゃんも、ちゃんと神通可能な能力開発をしているのだし、解決の方法も出来るスタッフの養成も出来たので、安心して隠居したんだ。
もう私も74歳だからね。」
「スサナル捜査部が廃部となって私は閑職に回されて、当時の只野部長から、何時か必ずスサナル捜査部の復活をするから、それまで我慢していてほしいと言われていたのです
と、雫ちゃんが言った。
「只野君はスサナル捜査部の復活をまだしないのかい。」
「はい、それが先生、今度捜査一課の外郭課として、真ちゃん、上野真係長で、神霊捜査課が発足する事となりました。
只野警視総監から、いずれ独立した課に昇格させるからとのお墨付きを貰って、私もそこに配属されました。」
「そうだったのか、良かったね。
また神様と仕事が出来そうだね。」
「ジミー君はどうしてる?昔の国連の訓練調査研究所の副所長のままかね?」
「はい、お陰様で所長を拝命しております。」
「そうか、それは良かった。
それでひとつ聞きたいことがあるのだが、以前に鳥取出身の桃谷美子という美人を君に紹介したが、その後、彼女はどうしている?」
「はい、報告が遅れましてすいません。
ニューヨークの国連本部の私の部所で速記通訳として働いて貰っています。とても優秀な娘(こ)でして、助かっております。」
「そうでしたか? 市川君、振られたな!」
「先生、この真ちゃんも、係長になったんですよ。」
と雫ちゃんが言った。
「そうかい、それはおめでとう。
江崎真司係長殿!」
「ところで、東京オリンピック開催まで、あと少しに迫ってきたが、無事開催出来るのかな?」
「東京では大変な警備隊体制が敷かれていますよ。
テロの噂が多いものですから、警視庁内もピリピリしています。」
と千津ちゃんが言った。
「世界が東京オリンピックの危険性はテロと地震に放射能と言われています。」
とジミーが言った。
「なるほど、テロは離れ眷族、思凝霊、赤目牛との対応で、原発は人間が神の領域に手をつけた反動、地震は地球再生の為の神界の動きだから、とても心配だな。」
楽しい夜の空には、満月が輝いていたのでした。
(つづく)