③  顛末

裁判所に申請して、強制的にアレルのDNAを採取して検査にまわされた。
結果、被害者麗子の体内より検出されていたDNAと一致したのでした。
教団員の証言から、オウム真理教の2名が持ち帰って、教団内で押収したポツリヌストキシンという猛毒が本物かどうかということを疑ったアレルの命令で、実はオウム真理教の2名の食事に交ぜて試して殺したことが判明した。
死体はこっそりと教団員達が愛宕山に埋めたことが判り、教団員の立合いで埋められた死体も掘り出された。
その上、アレルがアナーシアを睡眠薬で眠らせて、その間に監禁されていた麗子を強姦したことがアナーシアに知れた。
その嫉妬から、雛祭りの宴を教団の中で催おして、その席に嫌がる麗子を連れて来て、教団員が盗んで来た十二単を着せて、菱餅と甘酒を食べさせて、アレルの目の前で、菱餅に入れられたポツリヌストキシンを口にした麗子が苦しむ様を見させてむごたらしく毒殺したのでした。
そして、アナーシアに憑依している草鶴姫の離れ眷族が、親神様の呪いとして、流し雛にさせて流したことが判ったのでした。
鯉のぼり殺人事件の被害者金本剛は、麗子と同じように教団に幽閉されていたが、ピンクの蛇に狂わされたアナーシアに取り込まれ、恋に狂ったあげくアレルの命を狙って逆に捕らえられてアレルに咽を切られて死んだことを教団員達の証言から判明した。

「先生、なぜ、奴等は、金本の死体をあんな判りやすい方法で放置したのでしょうか?」

「美子さんに訊いてごらん。」

「美子さん、なぜ、奴等は自分達の教団内の鯉のぼりに吊るしたのか、神様に訊いてくれませんか?」

「はい、『全て親神様の節句の呪いのため』と言われています。」

「節句の呪いのため?」

「3月3日雛祭り、5月5日端午の節句、鯉のぼりと鎧兜、十二単に菱餅とチマキ、全て親神様をこの地球神界に帰還されることを怖れて、親神様の皮膚になぞらえて菱餅にして喰らう、親神様の弁髮をチマキにして喰らうという呪いの儀式を遂行する為に、事件が明るみになること等お構い無しに実行したのだろう。
とても強い怨念だな。」

東課長が捜させていた、衣装の十二単は京都市中京区の衣装レンタル店「雅ゆき』から、教団員の一人が借り出して来ていたことが判った。
また鎧兜は、太秦の東映撮影所から盗まれていたことが判っていた。

この教団の処理については、後始末をオウム真理教の時の失敗を繰り返さないように厳重に処理されることが関係各所で話し合われた。

隅田公安部長と五島は美子さんと市川刑事を連れて、また加藤本部長からの誘いで京都の名店と言われる「吉兆嵐山本店」に行くために、嵐山の渡月橋を渡っていた。
皐月の新緑の鮮やかな夕方のことでした。





「先生、本当に明日東京に戻られるのですか?」

「ああ、もう3ヶ月近く留守にしているから、何時戻る?という文字でメールがパンクしそうになっているんだよ。
明日隅田部長と一緒に帰るつもりだ。」

「僕達も、またもと戻りですね。
美子さんはどうするの?」

と市川刑事が寂しそうに尋ねた。

「私、ニューヨークに留学して、英語と国際速記の勉強をするつもりです。」

「ニューヨークか、だったら、頼りになる男を私が紹介してあげよう。」

「本当ですか?」

「ああ、山本ジミーといって、今は国連事務局で、国連訓練調査研究所の副会所長をしているが、彼だと、私の頼みは大概引き受けてくれるから、美子さんのこともよく頼んでおいてあげよう。」

「うわー、本当ですか、それは助かります。
私、少し心細かったんです。」

「先生、そのジミーさんとかいう人はイケメンですか?」

と市川刑事が訊ねた。

「うん、いい男だよ。
背も高いし。」

「美子さん、気を付けてくださいよ。」

「ハハハ、彼には妻も子もいるよ。」

「なんだ!良かった。」

「市川君は美子さんにベタホレだからな!」

「でも、美子さんは冷たいのですよ。
先生。」

「あら、私も市川さんは好きですよ。
でも、今は速記のほうがもっと好きですけど。」

「ほらね!これですから、先生助けて下さい。」

「私の出番じゃないな。」

                                                                (つづく)