④   美子神通司誕生

大学寮で美子と別れる時に、五島は言った。

「近い内に鳥取に行きますので、一緒に犬山神社に行きましょう。」

「エッ!  犬山神社? 用瀬のですか?」

「そうです。」

「あの神社は私が小さな頃、姉と何時も遊んでいた神社です。
どうしてですか?」

「いや、行けば解りますよ。」

こうして別れてから数日後の日曜日の夕方、五島は鳥取の桃谷美子に電話連絡して、水曜日午後の2時に犬山神社の境内で会いたい旨を告げた。
流し雛の館の休館日が水曜日と市川刑事が調べていたのだった。

朝早くから、市川刑事は張りきって、五島を乗せて、一路高速道路を鳥取県の八頭郡用瀬の犬山神社に向かっていた。

「先生、犬山神社とは、どんな神社なのですか?」

「普通の、いや普通より、少し汚い古ぼけた神社だよ。」

「ヘエー、何でそんな神社を先生は知っておられたのですか?」

「昔、神業で寄ったことがあったのだよ。
汚いお婆さんの人霊さんのおられる神社なのさ。」

「人霊さんですか?  人霊とは幽霊のことですか?」

「いや幽霊は人霊の一番下の階層にいる霊で、普通の人霊は神界の住人だよ。」

「ところで、先生はこれから美子さんに何をされるのですか?」

「うん、彼女に事件解決の為に手伝って貰う為の工作をしようと思っている。」

「工作?」

「そう、美子殿をとびきりの霊能者にしようと思ってね!」

「霊能者!  そんなことが出来るの出すか?」

「分からないが、やってみる価値はあるだろう。」

1時45分犬山神社入口の千代川沿いの因美線の踏切近くの空地に到着した。




すでに、黄色いトヨタハイブリッド車のパッソが停められていて美子殿がもう来ていることが判った。
緩い階段を登ると、境内で美子さんが大きな椎木と何か話していた。
五島達を見つけると、美顔に満面笑みを浮かべて飛んできた。

「五島先生、今、お婆さんと話していました。」

「何処にお婆さんが?」

と、市川刑事はキョロキョロ辺りを見回して尋ねた。

「そうだったのですか、それでは、拝殿に入って、ちゃんと挨拶しましょう。」

汚い畳の敷かれた拝殿に上がり込んだ五島達は、五島の指導で二礼三拍手一礼した。

「ヤチチ様久方ぶりにお邪魔させていただきました。
朱鳥でございます。
今日はお願いがあって参りました。
実は、もうヤチチ様はご存知のようですが、ここに控えております桃谷美子殿の姉君、麗子殿が不慮の死をとげまして、私五島が京都県警の依頼を受けまして、捜査解決をすることとなりました。
そこで、美子殿に神通の能力があることが判り、先日、陰陽交流を持って、神通をお赦しいただけるように施しを致しておきましたが、能力のアップを、幼き頃より、ご覧になられていたヤチチ様にお願いすることが一番ふさわしいと考え、本日こうして、相揃いまして、お願いに上がりました。宜しくお願い致します。」

とたんに美子殿は自分の鞄から、手帳とペンを取り出して、とても早い筆跡で何かを書き出しました。
五島が横から覗いたが、何を書いたのか、読めませんでした。
筆が止まったところで五島が美子殿に訊いた。

「何て聴こえたのかね?」

「はい、読みます。」

『五島殿久しぶりですね。活躍されていることは人祖神界にも伝わって来ていますよ。
この美子殿は小さい頃から、私が目をかけて育ててきた女子です。
先程から話をしていましたが、もう既に立派に神通出来ますよ。
姉の麗子殿のミタマはこちらで預かっております。
定めにつき、嘆くことはならぬと、先程から教えていました。
この仕組みには、5月5日の呪いと共にあなた方が解消してあげて下さい。』

「ありがとうございました。それでは美子殿を使って端午の節句と伴にタテカエ神業を致したく思います。どうぞ宜しく御指導をお願い致します。」




「美子ちゃん、その手帳の文字はなんだね?」

「フフ、これは速記です。」

「速記か!」

「どうして速記など?」

「はい、趣味で習っていたのですが、神界からの沢山の通信がどんどん来るものですから、あわてて、速記してしまいました。」

「そうだったのか、それは良いかも知れないね、間違わ無くて良いよ。」

犬山神社に別れを告げて、五島達は流し雛の館を訪れた。
今日は休館日だったが、美子が裏の通用口から案内してくれて入ることが出来た。

                                                                 (つづく)