むかし須坂の町はずれに新町というところがあった。
その町には飴を商いして、
貧しくはあったがまじめな男がいた。
菓子を作る修行にでも行ったのであろうか、
京の都でしばらく住んでいた。
ところがどんな因縁があったのであろうか、
あるお公家さんのお姫様と親しくなり、
夫婦約束をするほどの深い間柄になってしまった。
しばらくしてなぜかその男は故郷の須坂に帰ってしまった。
姫様は恋焦がれていたたまれずに、
男の後を慕って、
京の都からはるばる須坂の里まで訪ねて来られた。
来てみると、この男のくらしは思いのほか貧しさで、
とうてい添い遂げるどころではなく、
会って話をすることもできないようなありさまだった。
お姫様は身も心も疲れ果てて、
森の中で変死にしてしまわれた。
このことがあってから、
その森を「そわずの森」というようになった。
しかし、そわずの森ではエンギが悪いということで
後になって「相森(あうもり)」という名に変えたという話である。
ところが面白いことに、
今でもお嫁入りの行列はこの相森のお宮の前は避けて、
外の道を通っていくのである。
やはり「添わずの森」という
昔の話の影響が残っているのだろうと思われる。
お姫様に付き添ってきた男女たち十三人も
みんなお姫様の後を追って殉死したという。
今もなおそまつなお墓が幾つか残っている。
そこを十三塚といって
須坂の鳥部野になっている。
(相森之故事)