昔の職場での話。
もう大昔、働き始めて1年目のころ。
職場には高卒や専門校卒で就職した、若い女性スタッフが多くて。
大学卒で仕事についた俺たちは、形の上では彼女たちの上役だけど、仕事は当然彼女たちにかなわないわけ。
荒木真希もそんな1人。
同じ年だったけど、もうめちゃくちゃ仕事のできる子だった。
一重瞼の美人で、ちょっと冷たい感じで、いつも俺の仕事のまずいところなんかを鋭く突いては俺をヘコませてた。
4月、職場の歓迎会で散々飲まされた。翌日の日曜日、もちろん休日。
だけど、新人は仕事を早く覚える為に、5月までは午前中出勤だった。
二日酔いで、這うように職場にたどり着いた俺に、真希はゴミを見るような目で言った。
「自分の体調管理も出来ない人に仕事の管理はムリ。仕事に障るような飲み方するヤツは社会人失格。」
やっぱり二日酔いの同期の仲間が真希に言った。
「荒木さんが一番俺らに飲ませてたよ、昨日。」
「あら、私だってあなた達のご返杯はきっちりいただいたけど。」
確かに、
ホントの所は、いつも真希にいじめられてる同期の仲間と二人で、真希に飲ませに行って、あっけなく返り討ちにあったのだ。
真希は底無しに酒が強かった。
酒席で、部長が楽しそうに
「おい、新人二人、荒木さんにちゃんとお酌して、挨拶いっとけよ。普段可愛がってもらってんだろ?」
と言っていたが、こういうことか。
嫌なお局。
それ以来、職場の飲み会では真希の近くに座らないようにした。
真希にイヤミを言われないために、
いついかなる飲み会でも、絶対に中座して帰って夜中1時には寝るようにした。
その職場での任期は一年間。
一年近くたって、
春からの異動辞令が出た3月のある日、俺は風邪でダウンして職場の休憩室で寝てた。
電気消して暗い休憩室に、ドアを開けて真希が入ってきた。
またなんかイヤミを言われると思った。
「寝てんの、永沢君?」
彼女が言った。
面倒だったので、目を閉じて寝たフリをして、ブランケットから顔だけ出してじっとしていた。
とつぜん、唇に冷たい物が触れた。
思わず目を開くと、
目の前に、長い睫毛を伏せて瞳を閉じた真希の顔があった。
そう、俺の唇に触れているのは彼女のそれだった。
俺はそっと目を閉じた。
左腕に触れている彼女の柔らかい胸から、
はっきりと彼女の動悸が伝わってきた。
10秒か、たぶんそれくらいの短い時間だったとおもう。
体を離すと、彼女は音を立てずにそっと休憩室から出て行った。
俺の唇には、彼女のリップのバラの花の匂いが微かに残った。
はい、全部妄想です。我ながら病んでます。
なが.