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novels by naecha

「明治東亰恋伽」の小説を書いています
初心者ですが、温かい目で見てください

「「最初はグー。じゃんけんぽん!!」」









「ミオ兄ちゃんが鬼ー!ちゃんと100数えてね」
1人拳を握りしめたままの春草さんにそう言うと準ちゃんは居間を飛び出した。他の人たちも部屋を出る
「君も早く隠れなよ。まあ、そのままいてくれた方が探す手間が省けるけど」
「私だって隠れますよ!見ててください、春草さんに見つからないような所に隠れますから!」
意地悪を言ってきた春草さんに膨れっ面をして部屋を飛び出した私

(どこに隠れよう?そうだ、居間から遠いところ!そこなら春草さんが来るのは一番最後になるはずだし)
そうして私が入ったのは居間から一番遠い部屋。たぶん物置。狭くて薄暗くって埃っぽい。物と物との間を縫うように進み、壁際にしゃがみこんだ






………どれくらい経っただろうか
ひたひたと誰かの足音が近づいてくる
(やばい、春草さんが来た)
足音は私が隠れている物置の前で止まった。襖を開けて中に入ってくる
それでもなお見つかるまいとしてじっと息を潜めていると…
上からため息が降ってきた
「君、それで隠れたつもり?」
顔を上げると呆れた顔をした春草さんがいた
「上からリボンが丸見えなんだけど」
「へ?」
どうやらあまりうまく隠れられてはいなかったようだ
「ほら、出て来なよ」
「あ、はい」
悔しいと思いつつ立ち上がると、側にあった物にぶつかってよろけた
(まずい、転ぶっ)
そう思って目をつぶったけれど、誰かに手を引かれて転ぶことはなかった。まあ、誰かと言ってもここには私と春草さんしかいないのだけど
「はあ、君ってまったく……」
「すみません‥」

そのまま手を引かれて廊下に出ると、誰もいなかった
「あれ??もしかして私が一番最初に見つかったんですか?」
さすがに最後まで見つかりっこない、と思っていたわけではないけど、一番最初に見つかる、とも思っていなかった
「どうせ君のことだから、居間から一番遠い部屋に隠れたら俺が来るのは一番最後になるとでも思ったんだろ。それくらい容易に想像がつくよ。君って単純だから助かる」
(うっ……)
得意そうな顔をした春草さんと悔しい顔をした私は他の人たちを探すため家の中を歩き回った









「じゃあ、次は芽衣お姉ちゃんが鬼ね!」
再び居間に集まった私たち。春草さん曰く、昔から何度もかくれんぼをしていたため、誰がどこに隠れてるかなんて想像がつくらしく、あっという間に全員見つけてしまった
そして次は一番最初に見つかった私が鬼だ
「ちゃんと100数えてね」
そう言って部屋を出た準ちゃんにみんなが続いていく。最後に部屋を出かけた春草さんが一言
「君には絶対見つからない自信があるから」
「なっ……」
意地悪な笑みを残して去る春草さん
(絶対見つけてやるんだから!)
そう意気込んで私は大きな声で数を数え始めた
「いーち、にーい、さーん、よーん………」








「ひゃーく!
 …さて、どこから探そうかな」
とりあえず台所かな?あそこは隠れる場所が限られているから探しやすい
そう思って私は台所へ向かった












台所にて--

「……………………………」
これは隠れていると言えるのだろうか?
台所に入った私がまず目にしたのは、ひっくり返された大きな籠。その人物は籠をかぶって隠れているつもりみたいだ。けれども、 床に籠が落ちているのがそもそも不自然だし、何より籠から着物の裾がはみ出ている
まあ、これで隠れている人物が想像できたんだけど
「準ちゃん見ーつけた!」
「わあっ」
籠を持ち上げながら声をかけると準ちゃんはびっくりしたみたい。緑色の目を丸くしている
「あーあ……見つかっちゃった」
「残念だったね。ほら、みんなを探しに行こう」
そう言って手を差し出すと素直につないでくる準ちゃんはとても可愛い。本当に妹ができたみたい




為吉さんの部屋にて--

「うわー、すごい数」
1回目の時には為吉さんの部屋を探す前に全員見つかったので、私が足を踏み入れたのは今回が初めてだ。さすがは先生、部屋の中が本で埋め尽くされている。本のジャングルを倒さないように歩いていたけど、体の向きを変えたとき肘が当たってしまい、ドサドサッと音を立てて崩れ落ちた
「うわあぁっ」
「え?」
自分のものではない悲鳴が聞こえ、慌てて崩れ落ちた本を退けると唯蔵君が埋もれていた
「ご、ごめんね。大丈夫だった?」
「お兄ちゃん大丈夫ー?」
部屋の入り口で待っていてもらった準ちゃんも心配そうな顔で唯蔵君に駆け寄る
「ええ、かなり痛かったですけど……」
さり気なく言葉に刺がある唯蔵君に私は頭を下げた
「本当にごめんなさい!」






春草さんの部屋にて--

「兄さん、物騒なこと書いてますね」
「……うん」
「何て書いてあるのー?」
「…『勝手に俺の絵を見たらただじゃおかないから』」
「ミオ兄ちゃん怖ーい…」
机の上にある春草さんの書き置きを前に、3人とも青白い顔をする。書き置きのすぐ傍には件の絵が置かれているけど、春草さんの報復が恐ろしくて誰ものぞき込もうとしなかった
「兄さんを怒らせたら後が怖いですからね」
「そんなに?」
つい聞き返してしまった私に、唯蔵君は暗い顔のままこくりと頷いた

「万が一本気で怒らせたりなんかしたら、もう駄目です。心に一生残るような深い傷を負います」
唯蔵君の話によると、被害者は春草さんの小学校時代の同級生で、春草さんをからかい絵を破いたらしい
「それは三男治さん怒りますよね……」
「それはもうひどく怒っていましたよ。その後、その人は町で兄さんを見かける度に一目散に逃げていました」
唯蔵君はため息をつきながら続けた
「この間偶然その人に会って兄さんが帰ってくることを伝えたら、兄さんが東亰に戻るまでの間は家から出ないようにする、と言ってました」
「…………………………………」
昔の話だし、春草さん自身がそのことを忘れている可能性だってあるのに、そこまで怯えるなんて、よほどのトラウマなのだろう

私たちがひそひそ話していると、突然、背後にある押し入れから小さな笑い声が聞こえた。今度は誰だろうと思いながら、押入れを開けてみたが誰もいない
(でも、間違いなく誰かいるよね)
もし幽霊だったりしたら洒落にならないと思いつつ奥をのぞき込むと、為吉さんが笑いを堪えているのが目に入った
「おやおや、見つかってしまいましたか」
押し入れから出てきた為吉さんは、何か冊子のような物を抱えていた
「あの、為吉さん、それは?」
「ああ、これは三男治が小さい頃描いた絵をまとめた物です。無くしたか三男治が東亰に持って行ったものかと思っていましたが、押し入れに隠してあったようですね。もしよかったら芽衣さんにあげますよ」
なんて言って為吉さんは、私に画集を差し出した。とても中身が気になるけれど。見てみたいと思うけれど
「あの、隠してあったんだったら、三男治さんにとって見られたくない物だと思うんですけど……」
「大丈夫ですよ。貴女になら見られても三男治は怒らないでしょう」
「そういうものでしょうか……」
少し不安に思うけれども、それでもやっぱり春草さんの絵を見たいという気持ちが勝り、画集を受け取ることにした

唯蔵君が心配そうに為吉さんを見上げる
「もしも三男治兄さんが怒ったらどうするんですか」
「大丈夫。さすがにあの時ほど怒りはしないでしょう」
『あの時』とは、春草さんが同級生にトラウマを植え付けた一件だろうか……すごく不安になってきた。だから、念のため、万が一のために為吉さんに聞いておくことにした
「あのー、念のために聞いておきたいんですけど…」
「どうしました?」
「もし私が三男治さんを本気で怒らせたらどうなりますか?やっぱり殴ったりとか…」
「いえ、女性相手に暴力は振るいませんよ。ただ、嫌みを大量に言われるかもしれませんが…」
どうやら肉体的苦痛ではなく精神的苦痛を受けるらしい
「あと、最悪の場合、一生睨み続けられるかもしれません」
「…………………………………………気をつけます」
春草さんを絶対怒らせては駄目だ、と深く心に刻んだ瞬間だった








私の部屋にて--

「きゃあああああああ!!!!」
「きゃあああああああ!!!!」
少女2人の悲鳴が家中に響き渡った。悲鳴を発したのは私と、
「……あ、よしちゃん………び、びっくりしたぁ……」
「わ、私こそ…心臓止まるかと思った……」
私は戸棚の空いたスペースにうずくまっていたよしちゃんだった。しかし、スペースといってもよしちゃんが入っていられるのが不思議なくらい狭い。戸棚の引き出しを開けた瞬間、あり得ないほど首を曲げたよしちゃんの顔が見えて肝が冷えた。今日の夢に出てくるかもしれない……











そんなこんなで順調に(?)見つけていった私だけど、春草さんだけがどうしても見つからない。見落としがあるのかと思ってもう一度ぐるっと探し回ったけど見つからなかった
「いませんね……」
「ミオ兄さん、どこに隠れたんだろ?」
困り果てて居間に戻ってきた私たち
「家の中を探しても見つからなかった…ということは、三男治兄さん、外にでも隠れたんでしょうか?」
「ええ!そんなのずるいよー」
「いえ、その可能性はないでしょう。三男治の性格からして雨が降っている中、外に隠れるとは考えられない」
「確かに。濡れるの嫌がりそうですしね」
「じゃあ、畳の下とか天井裏とかは?」
「そんな所に隠れるのは姉さんぐらいだろ」
「何ですって!」
「こら、2人ともやめなさい。そもそも三男治が決まりを破ることなんてないはずだ」
「それもそうか。じゃあどこに?」
よしちゃんの言葉を最後に静まり返ってしまった
みんな難しい顔をして考え込んでいる
「三男治さん、私には絶対見つからない自信があるって言ってたんです」
結局のところ、私どころか他の人たちにも見つかっていないわけだけど。 不安がぐるぐると頭の中を駆け巡る。このまま春草さんが見つからなかったらどうしよう。 このまま春草さんに会えなかったらどうしよう

そんなことを考えていると頭にぽん、と手が乗った。頭を上げると為吉さんだった
「そんなに不安そうな顔しなくても大丈夫ですよ。案外近くにいる、か、も……」
徐々に声が途切れてゆき、思案顔になる。しばらくして、ふと考えが浮かんだらしい
「ああ、分かりましたよ。三男治の居場所」
「え?」
「僕も分かりました。兄さんもよく考えたものですね」
「ええ?」
「あー、なるほど!ミオ兄さん頭良い!!」
「えええ?」
「えー?どこー??」
どうやら分かっていないのは私と準ちゃんだけらしい。よしちゃんがクスクス笑って言った
「まだ家の中で探してない所あるでしょ?」
探してない所?そんなところあったっけ?
「わかったー!」
私一人だけがまだ分かっていない。必死に頭を働かせる
(えーと、まだ探してないのは……)
台所は探したし、みんなの部屋も探した。私が隠れた物置だって探したし、玄関も見た。あとは…………
「この部屋?」
そう、居間だけはまだ探していない。さすがにここに隠れようとしても物音ですぐ分かるだろうと思っていたのだが……大きな声で数えていたからそれも聞こえていなかったのだろう。部屋の中を見回すと押し入れが一カ所だけある

半信半疑に思いながら開けて覗き込んでみると、
「‥春草さん」
「やっと分かったの?」
『灯台もと暗し』とはまさにこのことだろう。呆れたようでいて、どこかほっとしたような顔の春草さんがいた。
「なかなか見つけてくれないからどうなるか不安だったんだけど」
押し入れから出てきた春草さんは私の顔を見てぎょっとした顔になった
「ちょっと君、何で泣いて」
「良かった~~~」
情けない声を上げながら春草さんに抱きつく私
「春草さん、全然見つからないから、ヒクッ、もう会えないかと、ヒクッ、………」
「それは大げさすぎるだろ」
「心配したんです!」
それ以上の言葉は出てこなくて、春草さんの着物にしがみついてわんわん泣いた。落ち着くまでの間、春草さんはずっと私の頭をなでていてくれた

落ち着いた頃、春草さんがぽつりと言った
「俺だって、心配、だったんだから」
「ふぇ?」
「君が俺のこと見つけてくれなかったらどうしようって、隠れていた間中、ずっと思ってたんだから」
私の目元に浮かんだ涙をそっと拭いながら言う
「春草さん…」
「でも、君が見つけてくれてほっとしたよ」
微笑む春草さんを見て私も自然と笑顔が浮かんだ-









「-こほん」
わざとらしい咳払いにハッと気づけば、目の前に兄妹の皆さんがいたことを、思い出した。困ったような顔をしていたり、顔を赤く染めていたり、きょとんとしていたり-
いろんな表情をしている
「あー、2人とも、もういいかな」
「君、早く離れなよ!」
気まずそうな為吉さんの声と焦ったような春草さんの声が重なる
「す、すみませんっ!」
急いで手をぱっと放し、春草さんから離れる
……ものすごく気まずい。それこそ、今すぐ隠れたいくらいに






「あああああの!次、やりましょう!次!!」
これ以上この微妙な空気に耐えられない
「次は準ちゃんが鬼だったよね?」
無理矢理笑顔を作った私に準ちゃんは不思議そうな顔をしていたけど、すぐに笑顔になった。…小さい子は無垢だから助かる
「うん。じゃあ、100数えるねー」
そう言って数を数え始める準ちゃん
早くこの場から逃げ出したい、と思ってたのは私だけじゃなく、春草さんも同様だったようで2人揃って居間を出た









部屋を出る際、
「わー仲良しだー」
と誰かの面白そうな声が聞こえたのは
空耳だと思いたい