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novels by naecha

「明治東亰恋伽」の小説を書いています
初心者ですが、温かい目で見てください


「あんなこといいな♪ できたらいいな♪
 あんな夢 こんな夢 いっぱいあるーけどー♪」

木村屋であんぱんを買った帰り道。いつものように4人分買ったのだが、今日は更に2個もおまけしてもらったので、今の私はご機嫌だ
そういえば、未来から来た某猫型ロボットはあんぱんじゃなくてどら焼きがが好きだったなー、と思ったので、ウキウキとした気分でスキップながら歌ってみた

「そーらを自由に、飛ーびたーいなー♪」

「君、頭大丈夫?」

「ひっ!」

本来なら『ハイ!タケコプター』と元気よく合いの手が入るはずなのだが、実際に聞こえたのは、低い声
しかも悲しいかな、私はこの声の主を知っている

ギギギギ‥と機械仕掛けの人形のように後ろを振り向けば、案の定、冷たい視線を私に浴びせる春草さんがいた。制服姿の彼もちょうど学校から帰ってくる途中だったのだろう

「しゅ、春草さん……いつからいたんですか…」
「さっきからだけど。君、ずいぶん楽しそうに歌ってたみたいだから気づかなかったんじゃない?」
そう言いながら歩み寄る春草さんに対し、私はさっきから冷や汗が止まらない
「……さっきの歌、どの辺りから聞いてました?」
「確か、『あんなこといいな できたらいいな』ってところから」
(最初から聞かれてた!!)
「な、何で声かけてくれなかったんですか?」
声が震えていたのは恥ずかしかったからに他ならない
「だって楽しそうだったし、邪魔するのも悪いと思って。さすがに、途中から頭がおかしくなったんじゃないかと心配になったけど」
春草さんは至極真面目な顔で言うけれど…

「だ、大丈夫です。元々こういう歌なので」
「君が作った歌じゃないの?」
目を丸くした春草さんは本当に驚いているらしい
「違いますよ。何で私が作った歌だと思ったんですか」
「君っていつも能天気だし、時折変なことを言うし、こういう間抜けな歌を作ったっておかしくないだろ」
「………………」
同意を求められても困る。ていうか、春草さんにひどく馬鹿にされたような気がする。いや、それは今に始まったことじゃないから、百歩譲って良しとしても(全然良くないけど)、だ

「ドラ●もんを馬鹿にしちゃダメなんですよ」
「は??ドラ、●もん?何それ??」
小声で呟いたつもりが春草さんには聞こえていたらしい。怪訝そうな顔で尋ねられた
「い、いえ、えーと…青い、猫、です」
「ますます分からないんだけど」
(私も22世紀から来た猫型ロボットなんてどうやって説明したらいいのか分かりません)
とは言えず。しどろもどろになりながら何とか説明しようとした

「えーっとですね、遠くの世界からやって来た猫なんです。あ、でも、猫って言うより狸っぽいんですけど、」
そんなことを本人の前でいったら『僕は狸じゃない!』って怒られそうだけど
「それで、いろいろすごくてですね。あと、どら焼きが好きなんです」
「はぁ、もういいよ。君の頭の中が摩訶不思議なのはよく分かったから」
いろいろ割愛した私の説明に春草さんはついていけなかったみたいだ。私の頭の中の妄想だと思われてしまった

「それで?さっきの歌とその…ドラ●もん?と何の関係があるわけ?」
「あれは、ドラ●もんのテーマソングみたいなものです」
「は??てーまそんぐ?」
どうやら明治時代ではテーマソングという言葉は馴染みがないらしい。まあ、アニメどころかテレビもない時代だから当たり前か
「うーん…童謡みたいなもの??」
びったりの表現が思いつかず、語尾が疑問系になってしまった。
「何で君が聞くの」
「あはは…」






何となくそこで会話が途切れて、屋敷に向けて並んで歩く。沈みかけた夕日がちょうど目の前にあってすごくまぶしい。手で日射しを遮ろうにも、あんぱんの袋を抱えているせいであいにく両手がふさがっている
目を細めながら歩いていると、ひょいっと横から手が伸びてきた。え?と思う間もなく、あんぱんが春草さんの手元に渡る
「あ」
「心配しなくても君のあんぱんは食べないから」
「いえ、そうじゃなくて…」
春草さんに限ってそんなことはないと信じてるけど、いきなりの行動にびっくりしてしまった
「ほら、これで両手が自由だろ。まったく、日射しがまぶしいなら最初からそう言いなよ」
「あ…ありがとうございます」
どうやら私がまぶしそうにしていたことに気づいていたらしい。いつもは意地悪なのに、こうやって時折見せる優しさに、私は惹かれたんだろうなぁとしみじみ感じる
「何笑ってるの」
「いえ、何でも。そうだ、今日あんぱん2個もおまけしてもらったんですよ。春草さんもおひとつどうですか?」
そう尋ねると、春草さんは少しばかり嫌そうな顔になった
最近知ったことなのだがこの人は甘いものが苦手なのだ。この前も2人であんみつを食べに行ったのに、春草さんは半分しか食べなくて残りは私が食べた(もちろん自分の分も全て食べた)
「俺は自分の分だけででいい。残りは君が全部食べれば」
「そうなったら夕餉が食べられなくなっちゃいます」
「どうだか。君のことだから、牛肉なんかが出たら他人の分まで食べそうだけどね」
「ぐ……」
あり得なくもない指摘に反論できない
「…じゃあ、鴎外さんと食べようかなぁ」
私がそう言うと、春草さんの歩みが止まった。必然的に私の歩みも止まる
「春草さん?」
「‥‥何でもない」
そう言って再び歩き出すけど、どこかむすっとした顔で歩く春草さんは早歩きだから私は置いて行かれそうになる
「春草さん、速いです」
とうとう小走りになってしまった私がそう言うと、彼は「ごめん」と謝ってくれたけど
「あの、春草さん…怒ってます?」
「……別に」
顔を背けながらそっけなく返事をするときはたいてい不機嫌だって、私には分かる。不機嫌な理由は想像するしかないけれど、たぶんこれだろう
「嘘です。春草さんは今機嫌が悪いです。…私が鴎外さんとあんぱん食べるって言ったから、ですか?」
そう尋ねると春草さんはぎょっとした顔で私のことを見つめてきた。そのまま視線が合うこと10秒。ため息混じりで春草さんは言った
「君っていつもは鈍いのに、何でこういう時に限って鋭いわけ」
「だっていつも春草さんのこと見てたら考えていることが何となく分かるようになったんです。春草さんのことなら私が一番知ってますよ」
にっこり笑ってそう言うと、彼は私から視線をはずし気まずそうに俯いた。決して気を悪くしたわけじゃなくてこれは照れているときの表情だ。顔もかすかに赤くなってるのは夕日のせいだけじゃない
この表情はなかなか見れないんだよねー、なんて考えているとふいに春草さんが言った

「君さ、俺の考えていることが分かるって言ったよね」
「へ?言いましたけど」
「へえ」
口の端を少し上げて笑う春草さん
あ、マズい。これは意地悪するときの表情だ
「じゃあさ、俺の機嫌を直す方法も知ってるよね?」
片方の腕にあんぱんをかかえ、もう片方の手で私の手を引き、顔を近づける春草さんの言わんとすることは分かった。分かったけど、
「ああああの、ここ、道端ですよ」
「知ってるけど」
「誰か見てるかもしれませんよ」
「今のところ誰もいないから大丈夫」
ダメだ、話が通じない。春草さんが頑固なのは知ってたけど、今ここでそれを発揮されても困る
「どうしたの?早くしなよ」
更に近くなる距離
私は意を決し、少し背伸びをした。一瞬触れただけなのに、私の心臓はバクバクと音を立てている
「機嫌、直りました?…………っん」
私たちの距離が再びゼロになる。しばらくの間春草さんに翻弄され、解放してもらったときには私は足元がふらついていて彼の制服ににしがみついていた
「俺の機嫌を直すにはこれくらいしないと駄目だから」
覚えておいて、と言って私の手を引いて歩き出す彼にはかなわない、と思いつつ、すごく幸せな気分だった



22世紀からやって来た猫型ロボットは、男の子と出会って友達になった

平成の時代からやって来た私は、春草さんと出会って恋人になった

青い猫と私は似ているんだと思う。きっと私は漫画の世界なんかじゃなく、現実の世界で、毎日笑いながら生きていくのだろうと、強くつながれた手を握り返した