私と彼と夏休み 1日目④ | novels by naecha

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「明治東亰恋伽」の小説を書いています
初心者ですが、温かい目で見てください

ガラガラと玄関を開けて中に入る。外に比べると家の中は涼しかった
「ただいま」
「お、お邪魔します…」
私達が挨拶した瞬間聞こえてきたのは






ドタバタと廊下を走る音と
「うわ…」
本日二回目のうんざりとした春草さんの声






「おかえりーーー!!!!」
廊下の向こうからやってきて春草さんに飛びかかってきたのは、さっきの準ちゃん…ではなく私と同じくらいの年齢の女の子。腰まであろうかという黒くて真っ直ぐな長い髪を山吹色のリボンで一つにまとめ、同じく山吹色の着物を着たその子は、春草さんの首にぎゅーっとしがみついた。先ほどと同じような光景に、私は心の中で苦笑するしかなかった

「く、苦しい…」
「あ、ごめん」
ようやく解放された春草さんは女の子を睨みつけた
「いきなり飛びかかってきて首絞めるなんて……俺のこと殺す気?」
眉間にしわを寄せて低い声で言う春草さんはかなり怒ってる。けれども、その女の子はニコニコ笑ったままだ
「だって兄さんに会えるの正月以来だもの。これくらいいいじゃない」
「よくない」
不機嫌な春草さんと対等にやり合うなんて、なかなか肝が据わっている妹さんだな。まぁ、兄妹だからかもしれないけど
「もう16歳なんだしもう少し落ち着けないわけ?」
「今でもじゅうぶん落ち着いてるでしょ?」
「どこが?」
「えー?見てわからないの?」
「分かるわけないだろ」
(……なんだろ。すごく置いて行かれてる気がする)
玄関口で言い争いを始めた2人。私は見ていることしかできなくて、どうしようかと思っていたら、穏やかな声が聞こえてきた






「こらこら、2人とも。こんなところで喧嘩しないの」
いつの間にか女の子の後ろに、上品そうな女性が立っていた。深緑の着物を着こなし、髪を一つに結い上げたその人はとてもお淑やかな雰囲気をまとっている。その人は私の方を見て微笑んだ
「ごめんなさいね。この2人ったらすぐに喧嘩するんだから」
「い、いえ。あ、あの、私、綾月芽衣って言います」
ぺこりと頭を下げると、女性は微笑みを深くした
「ご丁寧にどうも。私は三男治の姉で、きわと申します。嫁いでしまったからこの家にはもう住んでいないのだけれど、近所だからよく遊びに来るの」
これほど上品で優しそうな人ならきっといいお嫁さんなんだろうなぁ、と思った
「はいはーい!私、よしっていいまーす。よろしくね!ところで芽衣ちゃんは何歳?私と同じくらい?」
「私は17歳」
「あ、私より年上だったんだー。でも、年が近いことには変わりないし、仲良くしてね」
「うん、こちらこそよろしくね」
どうやらよしちゃんは、普段からテンションが高いらしい。明るくていい子だな、と素直に好感が持てた
「ほら、早く上がりなさいな」
と、きわさんに促されて私たちは家に上がった







きわさんに案内されたのはとある部屋の前
「ここが芽衣さんの部屋です」
襖を開けるとそこは10畳ほどの和室。向かって右側には文机が置いてあって机の上の花瓶には花が生けられている。文机の隣の襖には布団が入っているとのことだ。左側は全面壁になっていて正面には障子が張られている。縁側につながっていて庭が見えるらしい。昼過ぎの光が射し込んでとても明るい
「もとは私の使っていた部屋だから、何か分からないことがあったら聞いてくださいね」
「ありがとうございます」
至れり尽くせりとはまさにこのことだろう
「ちなみにミオ兄さんの部屋は隣だよ」
そう言いながらよしちゃんは左側の壁をコンコンと叩いた。すると、
「何?」
春草さんが隣の部屋から出てきて私に尋ねた。どうやら私が叩いたと思ったらしい
「何でもなーい」
案の定というか、よしちゃんがニコニコしながら出てきた
「はあぁぁ」
「何よーそのため息は」
大きくため息をつく春草さんによしちゃんは不満そうに顔を膨らませた
「別に」
(これは兄妹喧嘩の再燃か!?)
とヒヤヒヤしたけれど
「こら、また喧嘩しようとする」
きわさんに諫められて喧嘩にはならなかった
「ミオさん、何か足らないものとかはなかった?」
「ざっと見た感じは大丈夫」
「そう。じゃあ、兄さんに手を合わせてきなさい」
「はい」

(ん?“手を合わせる”??)
何となく言葉が引っかかりつつも、私はみんなの後を追った






私たちが入ったのは大きな仏壇のある部屋。1人事態が飲み込めない私の様子を悟ったのだろう。きわさんがそっと耳打ちしてくれた
「私たちは本当は7人兄妹だったんだけど、1番上の瀬平兄さんだけ幼い頃に亡くなってしまったの。だから今は6人兄妹ね」
そう言ってきわさんは少し悲しそうに笑う。春草さんの家庭にそのような事情があるなんて知らなかった
確かに、昔は幼い頃に亡くなる人が多いっていうのは知識として知ってはいたけど…
「あの、」
私もきわさんに耳打ちする
「私も手を合わせていいですか」
きわさんは目を丸くして驚いたようだった
「別に構わないけど…どうして?」
「えっと、三男治さんのご兄弟なら私もご挨拶したいと思ったんです…何となく、ですけど」
そう言うと、きわさんはふわりと微笑んだ
「ありがとう。きっと瀬平兄さんも喜ぶわ」








お兄さんの仏壇にみんなで手を合わせた後、居間でお茶にしようという話になった
…のはいいんだけれど

「その前に、少し芽衣さんをお借りしていいかしら」
何てこともないはずのきわさんの一言で、春草さんとよしちゃんの動きが止まった。何故か2人とも顔をひきつらせている
「少しだけ、いいかしら」
きわさんにそう尋ねられて取りあえず頷くと「ありがとう」と今までで一番の笑顔になったきわさんが私の手を掴んだ
……なぜだろう。少し嫌な予感がする

「あああの、姉さん。私も一緒でいいかしら」
なぜか慌てているよしちゃん。そんなよしちゃんにもきわさんは笑顔で「いいわよ」と頷いた。手を引かれて部屋を出る際、春草さんの方をちらりと見れば。
ものすごく気の毒そうな顔で私のことを見て、口の動きだけでこう言った





「がんばれ」

(頑張れって…いったい何を……?)