novels by naecha

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「明治東亰恋伽」の小説を書いています
初心者ですが、温かい目で見てください

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「きゃあっ!」と女子たちが悲鳴を上げながら立ち上がる
春草様は無事なようで突き刺さった氷の間からひょいっと飛び出すと一目散に逃げ出した。生徒の誰かがいたずらしているのだろう。生き物を虐めるのも以ての外だけど、春草様を傷つけたりなんかしたらそれこそ大問題である。使い魔だけど、痛みくらいは感じるかもしれない
「私、行ってくる!」
教室を飛び出した私は校舎から続く廊下に出た。氷でできた剣の山が点々と続いている。春草様は庭のさらに奥へと入り込んだようで私はまずいと思った。庭の奥には、肉を食べる魔の花が咲いている。それは人も食べるから絶対に近づいてはいけないと言われている
「……ええい!」
でも今はそんなこと言ってられない。春草様の一大事だ。私は庭の奥へと飛び込んだ。蔦に足を取られながら何とか進むと、一気に視界が開けた
「芽衣、避けて!」
「きゃあっ!?」
春草様の鋭い声と共に私の足下の土が抉られる。前を向くと、ラフレシアのような気味の悪い色をした大きな花が太い蔓をくねらせていた。冷たい汗がたらりと流れる。あれに捕まったら最後、私は食べられるんだと思うと怖くて身が竦む。動けない間に2本の蔓が両側から私に迫る
目にも留まらぬ早さで迫ってきたそれらはしかし、私の1メートル手前で先端が断ち切られた。その部分から火がボッと上がり瞬く間に蔓を焼き尽くしていく
ギエェェェ、とつんざくような悲鳴を上げた花に向かって四方から氷の刃が突き刺さる。苦しそうに蔓がのたうち回り、その衝撃で地面にひびが入る。花の周りに白い物体が見えた。春草様だ。彼はひょいひょいと蔓をかわしながら私の元へとやってきた。ひょいっと胸元に飛んでくる春草様を抱きかかえる
「春草様!無事ですか?」
「うん。芽衣も無事で良かった」
ちらりと私を見上げた春草様は依然として暴れる花を見据えた。春草様の体が白く輝くと同時に花の真下に魔法陣が現れる
「芽衣、目を閉じて」
言われるままに従うと、ズシャッと何かを切り裂く音が聞こえ何かが燃える臭いが鼻を刺激した。少し離れた位置で立っている私のところまで熱が押し寄せる。熱い、体が溶けてしまう。そう思ったのは時間にして10秒もなかったと思う
「もういいよ」と言われて目を開けると、目の前には何もなかった。花は跡形もなく消え去っていた
「春草様、どんな魔法を使ったんですか?」
「後で教えてあげる。今はここから離れた方が…」
「逃がしませんよ」
第三者の冷たい声とパチンと指を鳴らす音が聞こえ、気がついたときには私は部屋の中にいた。見渡した私はここが使われることの少ない特別教室だと気づいた。私の正面では歴史の先生-私にチョークを投げたあの先生だ-と男子生徒が厳しい顔で春草様を見つめている
口を開いたのは生徒が先だった
「兄上、こんなところで何をしておられるのです」
「え?」
拗ねたように口を閉ざす春草様の代わりに素っ頓狂な声を上げた私に、生徒がパチンと指を鳴らす。その瞬間、焦げ茶の髪は薄い黄緑色に、黒の瞳は春草様と同じ翡翠色に変わった
「お、王子様………」
春草様の弟様だった。と言うことは、と隣の先生を見上げれば、変装を解いたその姿は春草様のお姉様だ
「兄上を見かけたときは心臓が止まりそうでしたよ」
はあ、と大袈裟なため息をつく弟様に春草様がじろりとした視線を向ける
「いきなり氷を飛ばしてきたくせによく言う」
「春草が外に出たがるのも分かるけど、そのせいで神官様を困らせたり危険な目に遭わせるのは良くないでしょう?」
「…………申し訳ありませんでした」
お姉さまに優しく諭されて春草様は耳をぺたんと折り曲げた。春草様も本当は分かっているのだ。自分が外に出たら駄目だということくらい。落ち込んだ春草様の頭を白い手が撫でる
「1つ良いことがあるとすれば、あの花を処分できたのは春草のおかげね。ありがとう。先生たちも困っていたのよ」
「あの程度の花、すぐに処分できるでしょう?」
不思議そうに首を傾げる春草様に、お姉様は困ったようにフフッと笑った
「自分の魔法が強すぎるからそう思うだけ。あの花は再生力や耐久力が強くてよほど強力な魔法じゃないと効かないのよ」
お姉様の話では先生方総出でなら処分できるかもしれないけど、リスクが高いから今まで手出しできなかったらしい
「僕が飛ばした氷は半分ほどしか効きませんでした。だけど兄上は八つ裂きにして一瞬で燃やしたのですからやはりさすがです」
弟様は尊敬のまなざしを向ける。私は『八つ裂き』という単語に血の気が引いた
「………春草様、いったいどんな魔法を使ったんですか?」
「地面の土を一気に突き上げて針山みたいにして、そのあと業火で焼いた」
「……………………」
春草様が私に目を閉じるよう言った理由が分かった。悲惨な光景を見せたくなかったからだろう。業火はともかく、針山は見たくない
「春草、そろそろ神殿に戻りなさい。ぐずぐずしているとお父様に怒られるわよ」
春草様はしばらく渋っていたが、やがて諦めたかのようなため息を吐いた
「分かりました。帰ります」
私の腕から飛び降りた春草様は、地面に浮かんだ魔法陣の中に吸い込まれていった。部屋に静寂が訪れた後、お姉様が私に頭を下げた
「神官様、弟が迷惑をかけてごめんなさい」
「いいえ。私も止められなかったのですから、春草様だけを責めるのはやめてください」
「その優しさに甘えてもう1つ頼みがあるのだけど。私や弟が王族だと言うことは内緒にしてくれる?知られると危険だから」
「僕からもお願いします」
「はい、もちろんです」
王族の方たちがまさか普通に学校に通っていたとは私にとっても初耳でとても驚くようなことだったけど。でも、こうやっていろいろな人と関わるのが良い経験になるからなのだろう、と勝手に予想した








授業が終わって神殿に戻ると、私のお父様と王様から説教された春草様は、機嫌を悪くして自分の部屋に閉じこもっていた