2010年9月5日 読売新聞朝刊 第4面(政治面)コラム
政まつりごと なび 政治部次長 伊藤俊行
外交問題を判断する際、3規準、4原則があると、中曽根元首相が説いている。
「基準」とは国際法、中長期的な影響、国益。「原則」は「国力以上のことをやってはいけない」「外交で賭けをしてはいけない」「国内政策と外交を混淆してはいけない」「世界の潮流に載った判断をしなければならない」
今回の民主党代表選で気にかかるのは、外交が党内の権力闘争の材料になっている点だ。それは、小沢一郎前幹事長が米軍普天間飛行場移設をめぐるオバマ政権と鳩山政権の合意の未直しを示唆し、「私が幹事長時代は政府の政策決定に関与していない」と語ったことに表れている・
「政策決定の政府一元化」という建前からすれば、「小沢氏は正しい」という反応もある。だが、相手国にしてみれば、「民主党政権との約束」なのに、その党の、しかも約束した当時の最高首脳が「自分は無関係だ」と、次の首相を選ぶ戦いの争点にしている姿は理解を超えている。
管首相も、鳩山政権の副総理でありながら、普天間問題で傍観者に等しかった。本来なら日米合意の過程で影響力を発揮できたはずの2人が今頃、この問題で対立する。なんとも不思議な光景だ。
内政と外交は不即不離。でも、近視眼的に内政のために外交を利用すれば、結局は国益を損なう。4原則が言うのもそういうことだろう。
その意味で、難しい時代かも知れない。ある外交官は「先進国の多くで政権に対する国民の支持が低下している。オバマ政権、ドイツのメルケル政権、フランスのサルコジ政権……。内政の混乱は日本だけではない」と言う。
世界を駆ける投機マネーが各国経済を動揺させ、国民生活を脅かし、政府の介入を求める声が強まる。移民、高齢化、福祉などの社会問題に加え、地球温暖化対策などのグローバルな政治課題にも追われる。対応は簡単ではないから、政権の人気はすぐ落ちる。そうなると、外交も短期的な政権浮揚の手段となり、国家間の駆け引きはむき出しで荒くなる。その状況で、日本では政権内の外交・安全保障政策が一致していないと見られたら、どうなるか。代表選が、この不一致解消に向けた良い機会にならないのだろうか?
米国流の自由主義的な主張で「親米」と思われたのに、今や「反米」と警戒される小沢氏の実相とは何か。外交・安保で混乱を招いた鳩山前首相の議員外交を称揚する管氏の理念はどこにあるのか。
こうした疑問に答えを示されるなら、「政治空白」の対価も少しは割り引かれる。
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最後の二段落で見事に「民主党支持者」としての馬脚を現したと見るならば、この記事にも何らかの価値があったことになるだろう。一国の首相候補の外交的理念や政策に疑義を呈していながら「それが明らかになればいい」という、この危機感の無さは驚くべき。
今まさに世界は混迷を深めており、経済問題にしても外交問題にしても先送りは許されず、首相になった途端にリーダーシップを発揮するのでは間に合わず、その前段階からその理念や政策を海外に発信し、日本の政策の方向性を明らかにしなければ、それだけで国益が損なわれるのは明らかであり、にもかかわらず「代表選で明らかになればよし」などと能天気に構えていられる、その神経を疑う。
これが読売新聞政治部の次長の発言であるなどとはにわかに信じがたい。
それ以前に、「この程度の認識しかない候補者しかいない民主党の人材の枯渇ぶり」を給弾すべきではないのか? 結党以来、代表が持ち回りのローテーション制であるとことへは斬り込まない、その「民主党を暖かく見守る視線」こそが最大の問題であろう。
このようなメディアが世論の方向性を決めうる報道をしているのである。まさに悪夢としか言いようがない。他国に政権の支持率の低下と日本を同列に語っているが、オバマ政権による保険制度改革、メルケル政権によるユーロ経済政策、サルコジ政権による経済対策と、明確な失政があった日本とは状況が違うのではないか?
そこにも「民主党政権をかばおうとする姿勢」と、「それを正当化しようと自己弁護している姿勢」があると見るのは、うがち過ぎでだろうか?
政まつりごと なび 政治部次長 伊藤俊行
外交問題を判断する際、3規準、4原則があると、中曽根元首相が説いている。
「基準」とは国際法、中長期的な影響、国益。「原則」は「国力以上のことをやってはいけない」「外交で賭けをしてはいけない」「国内政策と外交を混淆してはいけない」「世界の潮流に載った判断をしなければならない」
今回の民主党代表選で気にかかるのは、外交が党内の権力闘争の材料になっている点だ。それは、小沢一郎前幹事長が米軍普天間飛行場移設をめぐるオバマ政権と鳩山政権の合意の未直しを示唆し、「私が幹事長時代は政府の政策決定に関与していない」と語ったことに表れている・
「政策決定の政府一元化」という建前からすれば、「小沢氏は正しい」という反応もある。だが、相手国にしてみれば、「民主党政権との約束」なのに、その党の、しかも約束した当時の最高首脳が「自分は無関係だ」と、次の首相を選ぶ戦いの争点にしている姿は理解を超えている。
管首相も、鳩山政権の副総理でありながら、普天間問題で傍観者に等しかった。本来なら日米合意の過程で影響力を発揮できたはずの2人が今頃、この問題で対立する。なんとも不思議な光景だ。
内政と外交は不即不離。でも、近視眼的に内政のために外交を利用すれば、結局は国益を損なう。4原則が言うのもそういうことだろう。
その意味で、難しい時代かも知れない。ある外交官は「先進国の多くで政権に対する国民の支持が低下している。オバマ政権、ドイツのメルケル政権、フランスのサルコジ政権……。内政の混乱は日本だけではない」と言う。
世界を駆ける投機マネーが各国経済を動揺させ、国民生活を脅かし、政府の介入を求める声が強まる。移民、高齢化、福祉などの社会問題に加え、地球温暖化対策などのグローバルな政治課題にも追われる。対応は簡単ではないから、政権の人気はすぐ落ちる。そうなると、外交も短期的な政権浮揚の手段となり、国家間の駆け引きはむき出しで荒くなる。その状況で、日本では政権内の外交・安全保障政策が一致していないと見られたら、どうなるか。代表選が、この不一致解消に向けた良い機会にならないのだろうか?
米国流の自由主義的な主張で「親米」と思われたのに、今や「反米」と警戒される小沢氏の実相とは何か。外交・安保で混乱を招いた鳩山前首相の議員外交を称揚する管氏の理念はどこにあるのか。
こうした疑問に答えを示されるなら、「政治空白」の対価も少しは割り引かれる。
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最後の二段落で見事に「民主党支持者」としての馬脚を現したと見るならば、この記事にも何らかの価値があったことになるだろう。一国の首相候補の外交的理念や政策に疑義を呈していながら「それが明らかになればいい」という、この危機感の無さは驚くべき。
今まさに世界は混迷を深めており、経済問題にしても外交問題にしても先送りは許されず、首相になった途端にリーダーシップを発揮するのでは間に合わず、その前段階からその理念や政策を海外に発信し、日本の政策の方向性を明らかにしなければ、それだけで国益が損なわれるのは明らかであり、にもかかわらず「代表選で明らかになればよし」などと能天気に構えていられる、その神経を疑う。
これが読売新聞政治部の次長の発言であるなどとはにわかに信じがたい。
それ以前に、「この程度の認識しかない候補者しかいない民主党の人材の枯渇ぶり」を給弾すべきではないのか? 結党以来、代表が持ち回りのローテーション制であるとことへは斬り込まない、その「民主党を暖かく見守る視線」こそが最大の問題であろう。
このようなメディアが世論の方向性を決めうる報道をしているのである。まさに悪夢としか言いようがない。他国に政権の支持率の低下と日本を同列に語っているが、オバマ政権による保険制度改革、メルケル政権によるユーロ経済政策、サルコジ政権による経済対策と、明確な失政があった日本とは状況が違うのではないか?
そこにも「民主党政権をかばおうとする姿勢」と、「それを正当化しようと自己弁護している姿勢」があると見るのは、うがち過ぎでだろうか?