読売新聞 2010年7月25日付朝刊1面
地球を読む 武藤敏郎・大和総研理事長

財政再建 


巨額赤字 日本の地位低下

 ギリシャの財政危機を景気として先進国の財政の持続可能性が世界の関心事となっている中で、6月にカナダのトロントで開催された世界20か国・地域首脳会議(G20サミット)では、「成長に配慮した財政健全化計画」がキーワードとなった。サミット宣言は「幾つかの主要国が同時に財政調整を行うことは、回復に悪影響を及ぼすリスクがある。必要な国で健全化が行われないことが、信任を損ない、成長を阻害するリスクがある」と述べている。このバランスを考慮した上で先進国の首脳は、「2013年までに少なくとも財政赤字を半減させ、16年までに政府債務の対国内総生産(GDP)比を安定化または低下させる財政計画」に合意した。

 国際通貨基金(IMF)が5月に発表した推計によれば、リーマンショック後の財政出動によって各国の財政収支は軒並み悪化し、09年に日・米・英では赤字額がGDP比10%を超えるにいたった。ただし欧米主要国の財政赤字は、14年にはピーク時対比をほぼ半減すると見込まれており、サミットの財政計画を達成する可能性が十分にある。しかし日本についてはこのような計画を実現sるうことは困難であるとみられている。

 一方日本政府が6月に公表した財政運営戦略によれば15年度までにプライマリーバランスの赤字のGDP比を半減し、20年度までにこれを黒字化するとしている。プライマリーバランスは、公債関係分を除いた財政収支であるので、日本の財政運営戦略は、欧米主要国に比べてより緩やかな財政計画をより時間をかけて実施することを意味している。このような事情を反映し、サミット宣言では、日本は独自の財政健全化を行うことを前提に、先進国の首脳が合意した財政計画の対象外となった。

 しかし喜んではいられない。今後各国の財政計画は、その進捗状況について何らかの形でフォローアップされるだろう。もし日本の財政健全化が欧米に比べて特段に遅れることになれば、世界経済における日本の地位はますます低下していくおそれがある。巨額の財政赤字をかかえた国が、財政健全化の見通しがたたないまま、世界経済の成長に貢献していくことは困難と思われるからである。

消費税増は社会保障費に

 過去日本において、財政健全化は何度も国政の課題になってきたが、具体論になると国民の支持を得られずに頓挫してきた。その主な理由は、国民の大多数は国の財政赤字に何の痛痒も感じていないからだろう。予算の削減によって悪影響を受けるのは限られた人たちであり、一般の人たちは例えば年金の将来不安を感じることはあっても、生活に直結した影響を受けることはほとんどない。

 また、増税の前に歳出の無駄の排除をすべきだとか財政再建を急ぐあまり経済成長を阻害しては元も子もないちった意見も根強い。さらに、日本には1500兆円に近い個人金融資産があり国債消化難の心配はない、あるいは国債の95%は国内で安定的に保有されており価格下落リスクは小さいという見方もある。

 ギリシャは、財政が破綻した国の姿をまざまざと我々に見せてくれた。日本はGDP世界第2位の大国であり、ギリシャと同列に論ずることは適当ではない。それにしてもこのような巨額の赤字を垂れ流す財政は、持続可能なのであろうか。

 第一に、日本の財政赤字は、欧米のように景気循環的な要因もあるが、急速に進展している高齢化による社会保障費の増大という構造的要因がかなり大きい。従って成長だけでは解決できず、歳出の削減や税収の確保の努力が不可欠である。その負担を先送りすれば、赤字はますます深刻化するだろう。

 第二に、巨額の個人金融資産があるといっても、高齢化の進展に伴い、その伸び率は鈍化している。経済停滞を反映して企業の資金需要配膳弱く、都市銀行の預金残高に対する貸出残高の比率は70%を下回った。しかし景気が回復していけば、企業の資金需要は増大していく可能性が高い。その時は金融機関の貸し出しが増加し、国債保有にも限界が出てくるだろう。

 第三に、日本国債の信用リスクを保証するCDSのプレミアム(一種の保証料)が昨年の秋からじわじわと上昇し、投資家の懸念は高まっている。格付け会社のなかには、財政状況の一層の悪化を懸念して日本国債の格下げの可能性を示唆するところもある。日本国債は市場の厳しい評価にさらされている。

 第四に、一般政府期末貸借対照表によって国の純資産を見ると、かつては相当の資産超過であったが、2010年度末には負債超過になる可能性が高い。今年度予算では「埋蔵金」を取り崩して歳入に充てたが、純資産という見方では、負債の増加も資産の取り崩しも同じことだ。「埋蔵金」を使うなら、それを経常的な歳出に充てるのではなく、負債の削減に使わなければ、純資産は減ってしまうのだ。民間であれば、負債超過の企業にお金を貸す金融機関はいないだろう。

 第五に、何らかの理由で国債価格が下落し、金融市場が混乱すれば、金融システム不安を引き起こす可能性がある。そうなれば国民の金融資産が損失を被るだろう。財政赤字を放置する付けは、結局国民の負担に記することになる。

 今回の参議院議員選挙で、久しぶりに消費税の増税問題が取り上げられた。しかし与党の大敗によって、消費税問題に対する政治の姿勢は後退しているように見える。本来財政健全化は、与野党がともに真剣に取り組むべき課題でる。しかもその具体化にはかなりの時間がかかるので、景気循環を超えて長期的視点で取り組まなければならない。財政健全化が選挙目当ての政治闘争の具になれば、政治の混乱はますます長期にわたるだろう。その場合の国力の停滞は計り知れない。

 いま政治がなすべきことは、国際的視点を踏まえた財政健全化と、高齢化に対応した社会保障制度の持続性の確立と、抜本的な税制改革を視野に入れた消費税増税を、20~30年の長期計画として国民に提示することである。その場合のポイントは、増税による増収は100%、社会保障費として国民に還元する仕組みを作ることだ。消費税増税は所得再分配に充てることを明示すれば、国民の理解を得られるのではないかと思う。歳出の無駄の削減は、これと同時に徹底的に行うべきことは当然である。
--------------------------------------------------------------------------

あまりレッテル貼りはしたくないが、典型的な財政破綻論者の「狼は来るったら来るの!」という論文としか思えない。これが大和総研の理事長なんだと思うと、日本の(いわゆる)シンクタンクのレベルの低さに愕然とせざるをえない。日本を代表するシンクタンクの理事長が「財政赤字の仕分け(誰が誰に何の通貨で借りているのか?といった分類)すら出来ないなんて信じられるか? 

「国債の国内消化率95%」とか「日本の家計の貯蓄1500兆円」といった、最近やっと人の目に触れるようになってきた常識を前にしても

「金融資産が取り崩されたら国債が買えなくなって困るぞ!」
「消費に回れば景気がよくなる、そうなれば国債発行額は減らせる」
「いずれ日本の国債の格下げが下がって市場が混乱する!」「国内消化されてる国債に対する海外格付け会社の格付けは意味を成さない」

と、簡単に反論されるような論をぶちあげているようでは大いに困る。

昨日の経済面の解説といい、今日の一面の論説といい、そのあまりのレベルの低さは目を覆わんばかりで、これが「日本最大の発行部数を誇る」新聞がやっていることとはにわかに信じがたい…。

こういった低レベルな記事(テレビはもっと低いが)によって、誤った方向性に導かれていく日本国民はあまりにも不幸だろう。