年の瀬なので、今年の振り返り。

 

『老人と海』もかなり良かったけど、

アガサ・クリスティー自身のベスト選出のわりに知名度があまりない作品『終りなき夜に生れつく』が今年ベスト。

ポアロやミスマープルが出てこない作品。でもミステリ。

ミステリ作家は古今東西でたくさんいても、

語り手の心の奥底を描いても信頼しきれない心理的多面性や人間関係と心の奥行きこそがアガサ・クリスティーの魅力なのだと思い知った一冊なので、2025年はこの一冊。

 

 

 

2025年ベスト小説

再掲

 

アガサ・クリスティー、矢沢聖子訳『終りなき夜に生れつく』

 

を読んだ。

<ジプシーが丘>と呼ばれる呪われた土地。

その達に理想の家を建て、運命の女性とともにその家で暮らすことを夢見る青年・マイクは、

アメリカでも指折りの大富豪の娘・エリーと恋に落ちるのだが・・・。

 

※ネタバレを含みます。

 

 

まず、謎めいたタイトルが素敵。

 

このタイトルは、作中でエリーが口ずさんだ詩

ウィリアム・ブレイク『無垢の予兆』の一節。

 

「夜ごと朝ごと

 みじめに生れつく人もいれば

 朝ごと夜ごと

 甘やかな喜びに生れつく人もいる

 甘やかな喜びに生れつく人もいれば

 終りなき夜に生れつく人もいる 」

 

クリスティーが自身のベストに選出した作品。 

 

中盤までは身分違いの結婚の様子、

<ジプシーが丘>という曰くつきの場所に建てた理想の家と愛に満ちた生活が描かれ、

いったいどんな展開を迎える話なんだ・・・と行先不明ではあったものの、全体を通すとこういう話か!

軽やかに裏切られる。

 

クリスティーの心象風景の豊かさ、ふとした瞬間の心の揺らぎを切り取る筆致は脱帽。 

 

心の動きは細やかでありながら、母親へのちょっとした忌避感情など読者にヒントを与えつつもある。

いわゆる「信頼できない語り手」の中でも心理描写が細やかで引き込まれるし、彼を信じて疑わない。 

心の中を語るには嘘をつかなくったって良いのに、それはまるきり嘘じゃなくて彼の本心の一部だから。

 

彼の中の情と、強欲さが共存している精神構造の見せ方がとにかくすごい。

いや~面白い。