星新一「午後の恐竜」

 

を読んだ。

 

短編。

 

ぐっすり眠って目覚めた休日の朝に、

窓の外の景色が恐竜世界に包まれていることを知る30代半ばの父親の目線と、

彼らとは全く関係のないある施設での大騒ぎの様子が交錯し、

やがては結末へと収斂してゆくストーリーの展開が素晴らしい。

 

全貌のはっきりしない現象の中で、

幼いわが子が恐竜に食べられそうになる緊張感抜群のシーンから、

施設パートへと切り替わり、

父親パートに戻ってきてから、恐竜たちには実体がないのでわが子も無事だと明らかになる

物語への引き込み方と謎回収のカタルシスの緩急が最高。

 

また、父親自身のみや家庭内のみのやり取りで終始するのではなく、

子どもが友達に恐竜の名前を教えてもらったエピソードや、

ご近所さんとの会話など、市井の人間としての生活の有様も差し込まれているので、

SF短編でも、ハリボテでない生活者の質感や人情を感じられる。

 

集団催眠なのか蜃気楼なのか。

この現象の答えを読者とともに父親も悟り、迎えるラストの小気味よさったらない。