今村夏子『あひる』
を読んだ。
この本は、夢眠ねむさんが経営する夢眠書店さんで購入させて頂いた一冊。
短編集で、収録されているのは下記の三作品。
▼「あひる」
▼「おばあちゃんの家」
▼「森の兄弟」
三作品が収録されているけど、表題作が白眉。
▼「あひる」
一匹のあひるを譲り受けたことで、
地域の小学生が家に出入りするようになり次第に家族のバランスを崩していくストーリー。
おかしくて歪なことばかりが淡々と巻き起こりながら、
それでも最悪の結末にはならないという幕引のバランスが最高。
巻き起こっていることはすべて、人間同士のコミュニケーションで機能不全を起こしているけど、
語り手がエモーショナルになりすぎていないのが秀逸。
良い意味で田舎の真実を描いているのが良いなぁ。
落ち着いて勉強するためのカフェに行くには車を持っていないとバスに30分揺られないといけない、とか
弟は車で30分の場所に住んでいるのに会いに来ない、という移動距離の感覚など
些細なディティールが良い。
まんまと地元の小学生が乗り込んでいく姿も、子ども側の感覚で身に覚えがあって痛烈。
田舎のある一軒の家の中でしか展開しない話で、ここまで読ませるストーリーになっているのが凄すぎる。
▼「おばあちゃんの家」
▼「森の兄弟」
この二つの物語はリンクしていて、二つで一つのようにも思える。
ひとりの人間をまたぐ、サイドA、サイドB。
わたしもド田舎の子どもだったけど、今のわたしではもうこれらの感覚は通り過ぎてしまっているから、
こうやって小学生時代の当事者感覚を鮮度高く保ち続けているところに、ひれ伏す。
今村夏子さんの小説は初めて読んだ。
題材はミニマルなのに独創性と個性に溢れる作風で、なんて優れた書き手なんだろう。
田舎の子どもの生活実感がリアルで、自分の子ども時代をありありと思い浮かべて物語世界に没入してしまうよね。
行き着く先があやしい雰囲気はあるのに、
悪い方向には転がらず一旦の平和的解決をしてラストを迎える構成も絶妙。
不穏な仕掛けが随所に散りばめられていながら、嫌な読後感がないところに最大の魅力があるように思う。
今村夏子さん。
もっと作品を読みたい。