安西水丸 『たびたびの旅』
を読んだ。
イラストレーター・安西水丸さんのエッセイ。
世界各地・日本各地の旅路から、
この土地を知らない親しい誰かに手紙を送るような形式で連なる第1章が特に好きかな。
お気に入りの酒場の風情を語る第2章も、
軽妙な語り口で旅行地を綴る日記風の第3章も、
テイストが違ってそれぞれに良さがある。
絵も文章もいいって、べらぼうだなぁ。
酒場も、同じ店でも居合わせた人によって様相を変えるから
常に新しい出会いもあって、目当ての酒や料理にはありつけるんだから
日常の中にある旅ですな。冒険でもある。
第1章と第2章はそれぞれに旅行の地での出来事を書いているのに、
誰かに向けて書いている様子なのと
独白調で旅の足取りをなぞって記載しているのでは、
出てくる語彙の難しさや説明性もまるで違って、面白い。
どのシーンだって、力が抜けているのに惹きつけられる滋味あるイラストたち。
表紙イラストの長崎の海と山は爽快で晴れやかな気分になるし、
活気のある夜の街の光景を切り取った第2章のイラストも華やかで好き。
がやがやと賑やかそうなお店も、しっぽり夜空を眺めるようなお店も
どれもこれもがワンダー。
こっちがもともと1998年に刊行されていたハードカバー版。
表紙の趣はだいぶ違う。
タイトルの字体はこっちのほうが好きだなぁ。
あんまり外出ができなくなったって
やっぱりこうやって
心を飛ばすだけの旅もしないといけない。