『惡の華』(日本、2019年)
を観た。
山に囲まれたとある田舎町。
中学2年生の春日は、ボードレール『惡の華』のような小難しい本を読んでいる自分を
周囲の人間よりは優れた人間だと思いたい思春期真っ只中の少年。
そんな春日は、憧れの女生徒・佐伯さんの体操着を盗んだところを
クラスの問題児・仲村佐和に目撃され、脅迫されるようになるのだが・・・。
同名漫画の映画化作品。
なんて強烈な映画!イタイ。でも好き。
恥ずかしくなるような思春期の迷走期に、間違った青春まっしぐらな群像劇。
原作漫画は2巻で止まっているくらい読んだかな。
おぼろげな記憶しか残っていないので、率直に映画の感想だけを記載しよう。
仲村さん役がティナちゃんなんだよね。
もうね、ティナちゃんなら何でもありだろう。言うこと聞いちゃうよ。
ストーリーの肝となるのは、春日と仲村さんのねじれた関係性なんだけれど、
春日は仲村さんに依存しているけれど、仲村さんはそうではない。
共鳴しているわけでもないし、恋愛感情が二人の間に芽生えていくわけではない。
この話が面白いのは、春日と仲村さんによって佐伯さんの人生が一番変わってしまったところなんだよね。
佐伯さんは健全な女の子なのに、見事に心の穴を抉られて人生がおかしくなってしまった。
佐伯さんの母親役が松本若菜さんで、
いくらなんでも中学生の親役は酷じゃないかと思うたね。
春日とはどのような人物なのか
春日はまあ、文学男子というか草食系男子というか
部活にも勉強にも本気にはなれずに自分だけの道を模索しがちな男子。
春日を演じるのが伊藤健太郎さんで、とても良い。
彼の絶妙な見た目の良さと清潔感と、それでもどこか陰キャラっぽい雰囲気がいい。
春日の魅力は、仲村さんや他の女生徒を
同級生の男子みたいにバカにしないところなんだよね。
クラスでも浮いているはずの仲村さんを一切下に見ていないし、容姿レベルで彼女を測らないのも
そんじょそこらの中学生男子とは一線を画す部分。
そういう品の良さがあったからこそ、マドンナの佐伯さんも振り向いてくれたんだと思うしね。
中学生男子はミソジニーの塊というか、なんで無関係の女性をそんなにもこき下ろすかなって
暴力性に溢れてるもんね。
春日は、そういう性質が一切ない。それだけで、同世代の男性からは頭ひとつ抜けた存在になれる。
なぜ春日は仲村さんに傾倒していくのか
ゆすりから始まる恋。そんなものはあるのか。
春日は思いのほか健全な男の子で、
仲村さんに期待されるのも二人だけでの世界に堕ちていくのも本望な
夢見がちな男の子だったのだと思う。ただの。
クラス内での存在感、ヒエラルキーがまるで世界のすべてだと勘違いしそうな多感な時期に
嫌われ者の仲村さんを女神じみて崇拝していく春日の純粋さったら好感も持てる。
仲村さんが何かを与えてくれるミューズなのかと言ったらそうではないのに、
仲村さんの正体を探ろうとせず、二人で現実を生き抜く術を探そうともせず、
その場限りの幻想を見せることで彼女に好かれたがっていた可愛い男の子。
仲村さんが求めるものを提示したいと躍起になるのは、仲村さんが間違っているだけで
間違っていなければ最高の恋愛叙事詩になるよね。
仲村さんは何者なのか
彼女はただの、破滅主義者。
はっきり言って、人生の目的もなければ望みもないし破滅と破壊だけを心底望む
思春期バリバリのイタイ女の子。
仲村さんみたいな子に、つかまっちゃいけないんだよ本当は。
日々の小さな幸せを噛みしめることもできないし、夢や希望も何もなく
それだけで済まずに破滅を望む女の子。
彼女の希望はさ、世界に復讐して死ぬことじゃない。
後ろ向きで、何もできない、繊細なだけのただの凡人。
そりゃ玉城ティナだったら、
神々しいオーラを感じるかもしらんが、フツーの容姿の女の子ならけっこうキツイ。
それにしてもこんなに真っ直ぐに、
自分に酔っているわけでもなく一貫して破滅を追い求めるのは凄い。
情緒は極めて安定している世捨て人。こんな中学生女子は、ハイパー明るい女子より相当貴重。
周囲の人間にとって仲村さんはどのような存在なのか
仲村さんの社会不適応度合いが高すぎて、
彼女がいじめられていないのが不思議なくらいだし、
仲村さんも、あそこまで集団迎合を拒絶しているのに学校に通い続けるのも謎すぎる。
何をしでかすか分からない不気味さのある仲村さんは、
気持ち悪がられるのが中学生の常なんじゃないかと思うけれど
仲村さんが確固たる地位でほっとかれているのは創作の甘やかさとも思う。
春日にとって仲村さんは何者なのか
何もないのは仲村さんのほうじゃんか。
そんな人に、すがらなくていいの。
でも、彼女と夢を同じくしたいってのもねじ曲がった少年少女の純愛なのかなって気もしなくはない。
とんでもない映画だよね。
部活にも趣味にも夢にも打ち込めない、お前だけがクソ虫なんだよって
誰も仲村さんを責めない。逸脱した仲村さんの共犯者であることが救いの、春日の痛々しいラヴ。
誰もが疑わしい思春期に、共犯者見つけたらそんなん地獄へも道連れでいい。
