『恋人たちの食卓』(台湾、1994年)飲食男女
 
を観た。
頑固で気難しいやもめ暮らしの一流料理人の父親。
初老の彼には、教師の長女、航空会社の副所長の次女、大学生の三女がおり、
日曜日には全員そろって豪勢な食卓を囲むのが決まりとなっていた。
家族はそれぞれに悩みを抱えており・・・。
 
アン・リー監督の父親三部作の三作目。
父親三部作の『推手』と『ウェディング・バンケット』はアメリカが舞台だったけれど、
今作では一貫して台湾に暮らす台湾人の一家を描く。
とはいえ、アメリカに縁のある人物は話題でも多数登場する。
 
本当に素晴らしい!
『ウェディング・バンケット』が大好きで、大きな期待をもって観たけれどそれをも上回る完成度の高さ。
 
邦題では、恋人たちと冠するのでラブストーリーみたいだけれど、
恋愛よりも悲喜こもごもの人生や家族を描くホームドラマ。
タイトルは『飲食男女』そのままで良かったんじゃなかろうか。
飲食と男女は、人生そのもの。
 
物語は父親の潔くも巧みな調理シーンから始まり、
包丁さばきや手際の良さから、単なるクッキングパパでないことがうかがい知れる。
また、この料理が美味しそうなんだ!
中華、台湾料理のダイナミックで繊細な美意識が如実に感じられる。
 
全員集合の食卓では、
祝宴かと思うような大量の豪勢な料理が並ぶ。
スリムな美人姉妹では到底食べきれないような量だよ。
実際タッパーに詰めているシーンもある。
 
三姉妹の中で、おもに次女にスポットが当たっている。
30前後でまだ若いにも関わらず航空会社の副所長で、アムステルダム支局の副マネージャーへ推薦されているような相当なキャリアウーマン。
彼女は、厳格な父との暮らしに耐え切れず、不動産を購入して家を出ていこうとする。
物語の始まりは、次女の独立のはずだった。
 
それが、人生の転機というものはいきなり訪れるものなのか、
お気楽な三女のいきなりの妊娠、男性不信が続いていた長女のいきなりの結婚、
父の30年来の同僚の死、不動産投資の失敗、が立て続く。
 
日曜の食卓は、家族がそろう唯一のタイミングなので、
重大な発表はつねにこの場で成される。
 
妊娠を打ち明けた三女も、結婚を打ち明けた長女も、
日曜の食卓のその日のうちに家を去ってゆく。
このあっけなさすぎる別れが、いっそう哀愁を感じさせるね。
 
父子家庭で娘だけ、という家族構成は小津映画を彷彿とさせる。
娘を見送る嬉しさと、独りぼっちになるやもめの寂しさの揺れ動く感傷が切ないね。
 
この作品では、
アムステルダム行きを断り、父と暮らしてゆくと決めた次女・・・という展開までは定石通りなんだけれど、
そのあとに思いもよらない展開が待っている。
なんと、やもめ暮らしの父が、長女の親友と結婚することを発表する。
今住んでいる家を売り払い、長女の親友とその子どもと暮らしていくのだと。
四人家族は解体され、それぞれが別の家で生きていくことになる。
ストーリーの冒頭ではまったく想像できなかった各自の人生になっていって、しかもそれが希望に満ちた結末となっている。
 
本当は料理がしたかった次女は、
最後にキッチンで食事係になり、父親とふたりで食卓を囲む。
娘の料理をダメ出しし、老いで味覚障害のあった父の舌が回復したことが分かる。
二人の和解の巧妙さ、食事と人生の味わい深さが沁みるね。
 
 
途中でSATCの挿入歌が流れて、その軽快さに誘われもした。
 
濃厚なのにもたれない、上質なホームドラマ。
 
 
中華に舌鼓をうちたい。