『シェイプ・オブ・ウォーター』(アメリカ、2017年)THE SHAPE OF WATER
を観た。
1960年代、冷戦下のアメリカ。
秘密の研究所の掃除係として働くイライザは、生まれつき声帯を損傷しているハンディキャップを持っている。
イライザは、同僚のアフリカ系女性、隣人のゲイの老画家と確かな友情を築いて、毎日を過ごしていた。
そんなある日、研究所に半魚人のような謎の生き物がやってくるのだが…。
ギレルモ・デル・トロ監督作品。
このうえなく美しく切ない愛の物語。
ため息が出る。
いつまでもこの余韻に浸っていたい。
何もかもが琴線に触れる。
水の中を宝石みたいにキラキラ輝かせる青緑の情景も、古くて美しいイライザの部屋も、古ぼけているのに研ぎ澄まされている。
独特の映像美が素敵ね。
音楽も秀逸。
極上の、大人のためのおとぎ話。
タイトルがあまりにも詩的で麗しい。
愛の比喩だね。
水の形なんて、そんなものは本当は誰にも確かめられない。愛も形なんてないし、どんな形にでも変わってゆける。
主人公は若くも美しくもないし、口がきけないハンディキャップを抱えているけれど、信頼のおける友人が二人もいて、慎ましくも満足のいく生活を送っているように見える。
この作品の素晴らしいところは、異形の者に惹かれて交わっていくイライザを、友人ふたりがこれまでとまったく変わらない友情で受け入れていくところだね。
イライザへ奇異とした視線を送らないし、「彼」ともありのまま関わる。
イライザも含め、同僚のアフリカ系女性やゲイの老画家はマイノリティで、この時代では特に弾圧された存在でしょう。
他者を色眼鏡で見ない懐の深さが、昨今のダイバーシティ受容とも相性が良くって心地よい。
反面、敵役のストリックランドは絵に描いたような60年代アメリカの成功者に描かれてる。
トロフィーワイフにキャデラック。
典型的すぎてわらっちゃうね。保守的な前時代の弾圧者そのものだよ、あなた。
緊張感のある時代背景、抑圧された日常のなかに、いびつな形をした揺るぎない幸福を見つけるってのが監督のテーマなのか。
『パンズラビリンス』でもフランコ政権下のそうとう重苦しい雰囲気の時代背景だったし。
ストーリーとして辻褄のあっていないおかしなところは山ほどある。
つっこみどころは盛りだくさんなんだけれど、
これは大人のための童話だし夢物語なんだから、
そんなことを挙げ連ねるなんて野暮でしょう。
とは言っても、彼との始まりはどうかね。
心の交流を育んでいく過程は分かるけれど、
人の指を噛みちぎった彼に卵をあげて仲良くしようとする最初のシーンはかなり謎。
「彼」はたまたま知性があって意思伝達をはかることができたけれど、最初の段階では彼はただのクリーチャーだったかもしれないわけで。
まったく人間的コミュニケーションを取れない動物だとは考えなかった?
誰でも自分の指は大切にしたいよね。
「彼」はたまたま男性だったけれど、もし女性だったら、逃がしたりしたんだろうか。
異種間の恋愛、かつ同性愛、ってそういう可能性があったら、なお好みなストーリーだ。
愛に形はないからね。
あ、魚は環境によって後天的に性別が変化するんだったかな?イライザに会って変化したの?
それならもう垂涎のロマンチシズム。
「彼」を部屋にかくまって愛を育むところも、いくらなんでも上手くいきすぎだと鼻白むけれど、
イライザがあまりにも幸せそうで応援したくなる。
グロテスクで目を背けたくなるシーンもあるけれど、その痛烈さが鮮烈な感情を呼び起こしてくれる。
きれいに整えられていないむきだしの恍惚、生の躍動感が甘やかな感傷と結びつく。
ゲイの老画家は、古い時代の理想の家族を描いていたけれど、これからは異種間のグロテスクな純愛という新しすぎるモチーフで名を残すのだろうか。
この美しい物語の語り部として、名を残すのかな。
ラストシーン。
愛の絶頂で物語が閉じてゆく。
人間の世界では死んでしまっても、彼の世界で息を吹き返す。
王子様のキスでお姫様は目を覚ます。
そこから先は、ずっと一緒だ。
誰にも邪魔されない、二人だけの世界。
いつまでもうっとりして、青の世界に沈み込みたい。
現実よ、鳥渡まって。
