『リップヴァンウィンクルの花嫁』(日本、2016年)

 

を観た。

東京で派遣教員をする七海は、

結婚式のエキストラを依頼するためになんでも屋・安室と知り合う。

浮気の濡れ衣を着せられ離婚した七海は、安室の紹介で風変わりなバイトをするのだが・・・。

 

主人公を演じる黒木華と、綾野剛は『シャニダールの花』で共演していたね。

そのときとは役回りがまるで違う。

 

実に3時間の長編だけれど、

冒頭の1時間はもう少し短い尺で良かったんじゃないかしらん。本筋に入る前の壮大なフリ。

途中ドロップアウトしかけた。

冒頭1時間は、主人公の七海が頼れる人もおらず処世術もまるでない不当に傷つけられた、いかに無垢な存在か!ということを表したいのはわかる。

派遣教員でコンビニバイトとネット授業を行うってのも、貧困女子の現実を表現したいんだろうけれど、

ちょっと白々しく感じた。

世界はやんわりとした悪意と確かな残虐性に満ちている!とでも言いたげな主人公への悪意が見ていて辛いし、

生徒からのいじめや義母や夫からの罵りも、この年齢だともう少し上手く立ち回らないといけないはずなんだけれど、それができないこともよく分かる。

人の顔色を窺いがちでつけこまれやすそうな女の子、という役作りはすごくはまっていた。

 

なんでも屋・安室はまあ裏稼業の男で、

奈々美にもビジネスライクな雰囲気を崩さずに仕事を紹介する距離感が面白い。

年下の女の子に対してずっと敬語で、親切だけれど気を持たせるような態度もしない。

明らかに利用しようとしていて、七海とは仕事でしか繋がっていない。

七海も安室を頼りにはしているけれど、憧れや恋愛感情はこれっぽっちもない。

安室役は綾野剛だからこそ魅力的だね。

 

物語の本筋は、七海が夫も帰る家も仕事もすべて失ってしまった冒頭1時間後からはじまる。

 

安室からの紹介で、結婚式の代理出席のバイトをすることになった七海は、

そこで偽の家族の姉役の真白と出会う。

Cocco演じる真白との魂の触れ合いこそが物語の主題。

 

とにかく、Coccoの存在感たるや!

Coccoが演じることで、真白の持つ不安定な一途さ、愛するものをどこまでも受け容れる懐の深さ、型破りな真剣さがひしひしと伝わってくる。

細すぎる腕と、強い力で抱きしめようとする気持ちの強さのアンバランス。

 

もう配役がすべてで、

真白はCoccoでなくてはいけないし、ほかの誰も演じることはできない。

真白はCoccoそのものではないのかと錯覚してしまう。

 

この映画は岩井俊二監督作品で、

このテイストの映画を観る人というのは十中八九Coccoという歌手を知っているでしょう。

ヒット曲のあるシンガーソングライターというただそれだけではなくて、謎めいた情熱的な天才だということをファンじゃなくても知っている。

もし仮にCoccoという存在を知らずして映画を観たならば、迫真の演技だとでも思ったのかしらん。

 

ところどころ非現実的で、ファンタジーのようなフィクション感溢れる見せ場がある。

東京のホテルで「働く場所を探しています」と言ってベッドメイキングの仕事をしたりね。

いや、昭和の住み込み旅館じゃないんだから・・・。ホテルの清掃って別業者の外注とか派遣じゃないの?なんて。

大きな館のメイドとして勤務することになって、強制されたわけでもないのにずっとメイド服を着ているところもね。

仕える主人もいないのにメイド服を着る必要があるのか?とか、ザ・メイド!なメイド服は動きにくそうで汚れそう。誰にも見せる必要がないなら着なくていいのでは?なーんて思ったり。

ウェディングドレスを着た2人の花嫁。毒を持つ魚の入った水槽に囲まれたベッドで静かに眠る花嫁。

真白の純粋な本心。あまりにも幻想的で、儚いシーン。

 

このシーンを美しく最高に昇華させるための映画なんでしょう。

 

真白の母役を演じるのがりりィさんというのも良かった。

 

Coccoの、真白の存在だけがまだしばらく残り続けそうな作品。

 

 

 

 

愛から覚めて、やわらかい光のなかを生きてゆく?