『イヴ・サンローラン』
最初はこの映画をドキュメンタリーだとは思わなかった。
それというのも、
ふたりの部屋の調度品や美術品があまりにも見事だったから。
きらびやかで、完璧な美意識に包まれた屋敷だった。
イヴが引退後にふたりで過ごしたモロッコ・マラケシュの屋敷も
モロッコ風建築というのかしらん。
噴水のかたちがお星様だったり、こまやかで大胆な異国情緒を感じるね。
それに、そういう舞台装置というか内装や空間レイアウトや見栄えに関する諸々の中でやっぱり、
一番フォトジェニックだったのはイヴ・サンローランその人だった。
長身で痩せていて、大きな眼鏡をかけていてね。
すごく内気そうでね、いつも照れたように話すの。
彼の国宝級のデザイン、洋服、コレクションショーの映像よりも
彼自身の生活のほうがドラマチックで魅力的に映る。
イヴの傍らにはいつもパートナーのピエール・ベルジェがいた。
彼らの50年にわたる関係も素晴らしくってね。
物語性に溢れてるね。
もう老年のピエール・ベルジェがね、
イヴとの出会いから何から繊細に語るのだけれど、なんのためらいもなく、
彼を愛していたと確かにしっかりと語るでしょう。
まるきりまやかしじみた美しい関係に思える。どんな小説でも追いつけない桃源郷の愛の物語。
夢を見るより、現実のほうが圧倒的に色濃く美しい。
フランス史上、ファッション史上に燦々と誇らしく輝き続けるであろうデザイナーの名前と彼のデザインよりも、ふたりの生涯のほうがより見応えがある。
服の持つ力は素晴らしいけれど、
やっぱり服を纏う人間のほうにより心惹かれてしまう。
ところで、
彼らのコレクションの中に
モンドリアンのコンポジションがあったでしょう。
ああ!これか!って、
わたしの好ましい配色!どうしても目を奪われてしまうデザインの根源はこれなのか!
ってね、分かったの。
それもこの映画から得た収穫のひとつね。
誰かにね「あなたの幸福は?」って聞かれたとしましょう。
そしたらね「ゆったりとした大きなベッド」ってはにかみながら答えてやんのよ!
