![]() | 魂がふるえるとき―心に残る物語 日本文学秀作選 (文春文庫) 627円 Amazon |
このところは珠玉の短編から、
読み物を開拓しようとしているの。
一流の書き手は一流の読み手だと思っているのね。
だから著名作家の選んだ短編なんて絶大な信頼を置いちゃう。
昔に読んだことのある作品は後回しにして、新しく読んだ短編たち。
永井龍男 「蜜柑」
Aパート、Bパート、Cパートの簡潔さが、非常な読みやすさを誘導しているね。
舗装道路に蜜柑が転がり落ちるところなんかすごく唐突に感じた。
武田泰淳 「もの喰う女」
これは秀作。読めてよかった。
戦後文学を考える上では、ここにも書いてある「革命にも参加せず、国家や家族のために働きもせず」毎日を生きることの罪悪感というか、自己批判を無視しては通れないみたい。
とかく目的を持って立派な活動をしなくてはいけない、という強い意識が時代の特徴なのかしらん。
別に、毎日ただ働いて女と遊ぶ、なんて事に殊更の羞恥を感じなくてもいいのにね。
その意識が、革命と戦争を経験した世代との違いなのかもネ。
ところでこの作品は、
「私」が二人の女-弓子と房子-との逢瀬を振り返って記述するって内容なの。
デートっていうのは、大人の男と女が飲食を共にすることでしょう。
食べるってとても官能的な行為ね。
主人公の「私」は新聞記者の弓子にベタ惚れだったんだけれど、
弓子ったら飲食を共にする男なんてたーくさんいてね、おまけに奔放な性質で。
すっかりまいってしまった「私」の心の隙間にすっぽり収まったのがウェイトレスの房子。
房子は食べるのが大好きでね。
食べるのが好きってだらしなさそうでいやらしいね。
房子がドーナツや寿司やとんかつをペロリと食べちゃう情景なんてすごくエロティック。
主人公は最後、あることをして、
彼女の好意や心をあっけなく食べてしまったのではないか、って気づいちゃうでしょう。
その顛末が素敵。
ぞんぶんに重苦しい気分になるといいわよ。
ふるえちゃうね、ほんの一文で魂が震えちゃうから、読書はやめられんのだね。
