岡崎京子 『私は貴兄のオモチャなの』
を読んだ。
昔読んだときは、岡崎京子節のレイプ暴力セックスにただただビビったけれど、
今読むと、センスの良さに圧倒されるわね。
短編集のなかに四編入っているのだけれど、
わたしは表題作がいちばん好き!!
というか、短編集の表題作ってのは、一押し!の作品なわけで、
ほかのすべての顔になる、大切な一作よね。
もちろん、岡崎京子はそういう大事なところできっちり決めてくれるよね。
表題作がずば抜けて面白く感じるわ。
最初に収録されているのは、「でっかい恋のメロディ」ね。
これ読んだ一番の感想はね、
若者ってのは、暇があるとすぐセックスしてるわねえ、ってことなんだけれど、
まあ別にふつうで、日常の風景よねえ。
って、それは次の「虹の彼方に」にもいえることね。
男も女も、ずるくって卑怯で、せこい手使って、望み叶えようとするんだわね。
思うがままに、生きればいいさ!
「虹の彼方に」は、
せっまいところで人間関係がループしている話で、
友達の今彼が、自分の元彼で、とか、そういうのが何人かでループしてる、っていう、学生時代とか限定的な人間関係で過ごさなきゃいけない時分には、比較的よくある光景よね。
当人たちにとっては、生きるか死ぬかの大事件だし、真剣で、デンジャラスなのよね。
んで、
主人公は思うわけだ。
「いりくんでる めんどくさい 複雑な でもよくありがちな わたしたちの青春」
ってね。
分かってるんだよねえ。冷静に。
ノらなきゃ損!みたいなのもあるのだけれど、冷静に俯瞰してると思いきや、
自分もそのめんどくささに加担してるわけよね。友達の彼と浮気しちゃったりなんかして。
そこらへんも面白いわ。
恋愛は人をたわけにするのは、間違いないでーす。
次に収録されているのが、「私は貴兄のオモチャなの」よ。
主人公の星山星子ちゃん(通称ホシ、美大生、21才、かわゆい)が、空知君って同い年くらいの男の子を2年以上ずっと好きで、なんでもするから、ってポチになっちゃう話なのよ。
殴り書きのモノローグが、痛烈で、滲みるわ!
初恋地上篇では、
何回目かのフラレパターンに食い下がって、ホシが空知くんに「一回だけあたしとデートしてちょ そんで公園のボートに乗ってアイス一緒に食べよう」
っていうんだけれど、
空知くんは「一回デートしたらあきらめる?なんだそれ?オレをキョーハクしてんのか~?自分のこと自分のつごうばっかじゃねーの?」
ってのたまうわけだ。
ここまで言われちゃあ、通常の文脈だと、もうたぶん、どうにもならんよねえ。
心底面倒くさそう、イヤそう。
初恋地獄篇①で、
フラれて傷心バタンキューなのね。
そんでね、改めて考えんのよ。
「しかし、あたしは空知くんのどこが好きなんやろ?」ってね。
いろいろ断片的に思いつくんだけれど、「・・・あんま知んねーな・・・でも好きっす」って帰結でね。
これがもう!!そう!!!そうなの!!!
よく知らなくても好きになっちゃう、って危険なはずなのに、回避できない。
恋におちちゃったら、それはそういうことよね。
で、初恋天国篇で、
空知君から電話でお呼びがかかり、デートしちゃうわけよ。
それで、空知君から、オレの言うことなら何でも聞くか?
って、びっくりするような、性的な要求をされちゃうわけ。
そっから、初恋地獄篇②のはじまりはじまり。
空知君の性のドレイになっちゃうホシちゃん。
足に枷つけられて、まるはだかでいろいろしちゃって、
空知君だけじゃなくて、彼がさしむけた3人の男にもやられちゃうのね。
んで、ボロッボロになった状態で、初恋煉獄篇トツニュウ。
傷ついたホシを見て傷つく空知君が終わりにしようっていうんだけれど、
最後に、公園でボート乗って、アイス食べんのね。
平気なふりしておうちに戻って、素知らぬ顔で、花に水やるホシちゃんは、
「そして それでもあたしは貴兄をアイスのだ。なんちて」ってモノローグでしめるのよ。
なんというか、一途とか、一生懸命な想い、ってのとはちと違うのよね。
何が起こっても、ブレず動じず、落ち込んで動けなくなるより、行動しちゃうタイプよね。それが破滅でも?
その選択が善いか悪いかなんてのは、やってみなければ分からないことで、
もっと言うと、すぐに善いか悪いか分かるものでもないのだから、押し切って生きる?
何もないより、何かあるほうがマシ、なら、やるっきゃないね。
ブレずにただ向かっていけるのは、
なんだか狂っているような気もするけれど、悲壮感がないので、オッケーでーす。
次の話「3つ数えろ」はクレイジーよね。とてもクレイジー。
倫理観ぶっとばして、自分たちの世界で楽しんじゃう。
相性が良すぎるのもあぶない、っていうけれど、こういうことか!
抑制が効かなくなるのね。
完全に開き直ってる感じが、マルキ・ド・サドっぽいよねえ。
あの人はあの人だけの、生活を、持っているのだから? それでもわたしは一緒にいたいのよ。