『見知らぬ乗客』(アメリカ、1951年)

 

を観た。

テニス選手のガイ・ヘインズは、上院議員の娘アン・モートンと結婚するため、

関係が破綻している妻ミリアムへ離婚を要求するが拒否される日々を送っている。

ある日、電車の中で見知らぬ乗客に「交換殺人」を持ち掛けられたガイは・・・。

ヒッチコック監督作品。

 

※ネタバレを含みます。

 

 

パトリシア・ハイスミスの原作『見知らぬ乗客』は未読。

河出文庫の表紙が洒落てる。

 

 

一級の緊張感、これぞサスペンス

冒頭の駅のシーンで、行きかう乗客たちの足元だけでなく、

腰から下のパンツショットをフレームに収めるのが斬新で素敵。

その下半身を映して、ある瞬間に対面に座る人物と足が交差するところから顔へカメラがスライドする演出はお見事。

のっけから引き込まれるカメラワークに惚れ惚れする。

 

「見知らぬ乗客」であるブルーノ・アントニーに目をつけられてしまったガイが

どのようにブルーノを躱そうとするのか、ブルーノの脅しにゆらいで交換殺人に手を染めてしまうのか、

ガイの状況にアンは気づくのか、気付いたとしたらアンはどのような行動をとるのか、

ガイにはめられ妻殺しの犯人にされてしまうのか、ストーリーが展開するたびにあらたなハラハラが巻き起こる。

 

何かを決意したガイがブルーノの自宅に忍びこむシーンはとうとう決行するのか・・と緊張感抜群で、

顛末も意外性がある。

 

もはや交換殺人には応じないと完全に悟ったブルーノがガイを犯人に仕立て上げるべく

妻殺しの現場である遊園地にガイのライターを置こうと画策するシーンは見物。

うっかり溝にライターを落としてしまい、流されて拾えないだろうと周囲に一蹴される初動から、

流されず溝の内側に留まっていたライターへ手にかかった瞬間に落としてしまい、

ライター回収の再チャレンジをするところは、目が釘付けになった。

 

その後、追いかけっこ状態のガイとアントニーを捕まえようと刑事が発砲すると

メリーゴーランドの操縦者を撃ってしまい、2人を乗せたメリーゴーランドが高速回転を続けるシーンは

いくらなんでも長すぎ!コントじみているくらい長い。

このシーンの長さは緊張感よりも一種の異常性を感じる。

 

 

総評

妻ミリアムと、アンの妹バーバラが髪型から眼鏡から同一人物と見まがうほどそっくりなのも面白い。

 

ガイとアンの関係は実質的な不倫(婚外恋愛)であるにもかかわらず、恐ろしく爽やかで健全に見える。
この歪みこそが、ヒッチコックが仕掛けた最大の妙味。

依頼すらしていない、見知らぬ乗客からの「お仕着せの交換殺人」に平穏な日常が侵食されていく恐怖。
この映画から75年後の現代では、

SNSで『見知らぬ乗客』から突然理不尽な悪意ぶつけられる、私たちの脆弱性と地続きにも思える。
話しかけられたら、静かに立ち去るのが吉。

 

中だるみする瞬間がないほどに、一級のサスペンス。