ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典107(120~122人目)

 

~ワルヴィンスキー など~

 

・ワルヴィンスキー…父殺しの晩、マカーロフの家に集まっていた四人の一人。行政監察医。ペテルブルグの医学アカデミーをめざましい成績で卒業し、この町に赴任したばかりの青年。ペルホーチンがマカーロフの家を訪れた際、カードをしに来ていた。夜になれば、一勝負せずには一日が終わらない男。 フョードル殺害の知らせを聞いたとき、自分からさんざん頼み込んで、同行させてもらった。死体解剖のために、モークロエには行かず、フョードルのところに残った。スメルジャコフの容態にひどく興味を持ち、これほどながく激しい癲癇の発作は、めったに見られない、研究に値すると言った。ワルヴィンスキーは、スメルジャコフは朝まで持たないと言った。【⇒第9編:予審2:パニック】

 イワンに対して、スメルジャコフの癲癇は疑う余地のないものだと言った。そして、仮病ではないかとのイワンの問いを、一笑に付した。癲癇の発作が起きたのは、「おい、落ちてしまうぞ」という疑い深さがもとで生じたものだと言った。【⇒第11編:イワン6:スメルジャコフとの最初の面会】

 医師が見たのは本物の癲癇だった。仮病で事件を起こした後、翌日にほんものの癲癇に襲われたことが明らかになった。【⇒第11編:イワン8:スメルジャコフとの、三度めの、最後の対面】

 証言台では、ドミートリーが「今も昔も完全に正常な状態にある」と主張し、ゲルツェンシトゥーベとモスクワの医師の見解とまっこうから対立した。また、自分の全運命がかかっている裁判長と裁判官が座っていたので、ドミートリーが正面を見つめたのは当然だと主張し、傍聴席左側の女性たちを見るべきだというゲルツェンシトゥーベと、傍聴席右側の弁護人を見るべきだというモスクワの医師の主張を退けた。「おみごと、やぶ医者!」「まさにそのとおり!」と、ドミートリーは叫んだ。ワルヴィンスキーの見立ては、裁判官にも傍聴人にも決定的な影響をもたらした。【⇒第12編:誤審3:医学判定とくるみ一袋】

 ゲルツェンシトゥーベとともに、イワンの治療にあたっている。【エピローグ:1ミーチャの脱走計画】

 気立てのいい人情味あふれる青年だったので、個室収容という特別措置を見逃していた。【エピローグ:2一瞬、嘘が真実になった】

 

 

・ワルソノフィー長老…先代の長老。フョードルが、「洒落たものが大嫌いで、相手がご婦人でも、とびかかって杖で打ちすえた」という話をしたので、案内の僧が、「神がかり」のように見えることもあったが、人を殴ったことなんてないと答える。【⇒第2編:場違いな会合1 修道院にやってきた】 埋葬されたときも、いっさい腐敗せず、棺のなかにあってもその顔が光り輝くようであったという伝説がある。【⇒第2部 第7編:アリョーシャ1 腐臭】

 

・ワルワーラ…スネリギョフの下の娘。赤茶けてまばらな髪をした、かなり器量の悪い若い娘。きちんとした身なりをしている。スネリギョフいわく、「あれもやはり、肉をまとった天使でございまして」。アリョーシャを汚らわしそうな目つきでねめまわして、「お坊さんが寺の寄付集め会、来る場所、まちがえてんじゃないの!」と叫んだ。道化を演じる父にいらだち、「ピエロみたいなまね、いいかげん、およしなさいよ」と見下すように言う。「平民の出なんで」とくり返すスネリギョフに、「ピエロ!」と口走る。最後は、「いいかげん、おやめなさいよ!」といきりたって、どんと床を踏み鳴らした。【⇒第4編:錯乱6 小屋での錯乱】

 ペテルブルグに飛び出して、ロシア女性の権利を見つけ出すと意気込んでいる。夏に家庭教師をして十六ルーブルをためて、今月(九月)ペテルブルグに戻るつもりだったが、父がその金を取り上げて生活費にあててしまった。そして、もう帰るわけにもいかず、家族のために馬車馬のように働いている。【⇒第4編:錯乱7 きれいな空気のなかでも】

 無事、ペテルブルグに出発的した。【⇒第10編:少年たち5:イリューシャのベッドで】