ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典98(100~105人目)

 

~マルファ など~

 

・マルファ・イグナーチエワ…グリゴーリーの妻。従順でおとなしく、夫のことを尊敬している。結婚前は、ミウーソフ家の私設劇場で踊っていた。夫に怒られて以来、踊ることをやめた。農奴解放後、主人のもとを離れて、モスクワで商売を始めようと夫に持ちかけたが、夫は「自分たちの義務だから」と言って、暇をとらなかった。実生活の面では夫より分別があった。六本指の赤ん坊を葬った夜、生まれたての赤ん坊に似た声を耳にした。きっとあの子が泣いて自分を呼んでいるのだと怯えたが、夫は無言のまま庭に出て、冷静に風呂場から女性の声が聞こえることを突き止めた。【⇒第3編:女好きな男ども1 下男小屋で】

 スメルジャコフの発作がひどくなった日には、マルファが食事を用意するが、フョードルの口にはまったく合わない。「どうして発作がひどくなったのかな?」と、いまいましそうに言う。【⇒第3編:女好きな男ども3 スメルジャコフ】

 グリゴーリーの背中に薬用酒を塗る治療をおこない、ついでに自分も少し飲む。長い時間ぐっすりとお休みになると、目が覚めても、そのあとはもういつも頭痛がいたします。という治療を、明日の晩に行うことになっている。【⇒第5編:プロとコントラ6 いまはまだひどく曖昧な】

 スメルジャコフが仮病の癲癇発作を起こしたとき、何ら外傷がないのを見て、「神さまがお守りくださった」と言った。その後、フョードルの食事の用意をしたが、スープは「流しの水」も同然で、鶏肉はからからに揚げすぎて、まともに噛むこともできないありさまだった。旦那様の小言に対しては、「鶏がもともとかなりの年寄りだったし、自分は料理を学んだことがあるわけでもない」と言い返した。【⇒第5編:プロとコントラ7 賢い人とはちょっと話すだけでも面白い】

 スメルジャコフの癲癇から来る悲鳴を聞いて、夜中にとつぜん目を覚ました。無我夢中でスメルジャコフのところへ行くが、部屋が真っ暗だ。夫がいないことに気づいた。耳をすますと庭からうめき声が聞こえた。「あああ、あのリザヴェータ・スメルジャーシチャヤのときと、まるっきり同じよう!」と、混乱した頭によぎった。庭に通じる木戸が開いていたので、「きっとあの人はあそこだ」と、木戸に近づくと、グリゴーリーが弱弱しく「マルファ、マルファ!」と呼んでいた。グリゴーリーは、「殺した。……父親を殺しやがった」とつぐやいた。マルファは、混乱してただ叫びつづけるばかりだったが、主人の部屋の窓が開いているのを見て、窓にかけよってフョードルを呼んだ。窓をのぞきこむと、主人は床の上に倒れて、胸元が赤くそまっていた。恐怖に駆られて、マリアの家に駆けこんだ。グリゴーリーを介抱して、マリアとフォマーと一緒に庭に入ると、こんどは窓だけでなく、室内から庭に下りるドアも開け放たれていることに気づいた。グリゴーリーの指示で、警察署長の家へマリアを走らせることになった。【⇒第9編:予審2:パニック】

 

 

・ミーシャ⇒ラキーチン

 

・ミーシャ…ペルホーチンの家でお使いをしてくれた少年。手に金を握ったまま、いきなり家に入って来たドミートリーと、玄関で遭遇した。両替ついでに、シャンパンやらなにやらたくさんのお使いを頼まれる。「彼の血だらけの顔や、震える指で札束を握っている血まみれの両手に、ひたと見入っていた」ので、ペルホーチンは、「ミーシャ、さ、行進だ、前へ進め! 一、二!」と、わざと追い立てた。「驚きと恐ろしさのあまり少年はぽかんと口を開けて突っ立ち、ミーチャに言いつかったことなど、ほとんど何ひとつわかっていない様子だった」が、無難にお使いを果たしている。両替をした札束をもって、息を切らしながら戻って来て、プロトニコフの店では「全員総がかり」で準備をしているので、もうじき準備が整いますと伝えた。おだちんとして十ルーブルも渡そうとするので、「ぼくの家でそんなことしてもらったら困る、それに、子どもには悪い癖になります」と、ペルホーチンが止めた。奥の部屋でシャンパンを飲んでいるところを通りかかると、「君もぼくのために一杯飲んでくれ」と言われ、コップを一気に飲み干すと、お辞儀をして駆け出して行った。【⇒第8編:ミーチャ5 突然の決意】

 

・ミーチャ⇒ドミートリー・カラマーゾフ

 

・ミートリー…チェルマシニャーへ行くイワンを乗せた馭者。途中でイワンが考えを変えたので、駅へと引き返した。「チェルマシニャーに行かなかった」というフョードルへの伝言を預かった。「ほら、タバコ代だ、親父からは、たぶんもらえんだろう……」とイワンは陽気に笑い、「たしかに、いただけんでしょうなあ……」とミートリーも笑い出した。【⇒第5編:プロとコントラ7 賢い人とはちょっと話すだけでも面白い】

 

・ミウーソフ氏…アデライーダの父。ドミートリーの祖父。娘が亡くなったとき、すでに亡くなっていた。【⇒第1編:ある家族の物語2 追い出された長男】

 

・ミウーソフ婦人…アデライーダの母。ドミートリーの祖母。モスクワに住んでいる。ドミートリ―を引き取ったが、しばらくして亡くなる。嫁に出ていた娘のひとりが、ドミートリーを育てることになった。【⇒第1編:ある家族の物語2 追い出された長男】

 

・ミウーソフ婦人の娘…ミウーソフ婦人の死後、ドミートリーを引き取って育てる。【⇒第1編:ある家族の物語2 追い出された長男】