ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典96(94人目)

 

~マクシーモフ~

 性格など

 トゥーラ県の地主。六十ぐらい。病的な好奇心で、「場違いな会合」へ向かう四人に近づき、庵室への案内を買ってでる。長老のことを「完全無欠の騎士」だと言っている。長老の庵室へは向かわず、先に食事会の開かれる修道院へ、小走りで向かった。フョードルは、マクシーモフが、フォン・ゾーン(猟奇的に殺された好色漢)に似ていると言う。【⇒第2編:場違いな会合1 修道院にやってきた】

 

 1日目11時半

 マクシーモフ:「わたしも、ご一緒します!」

 昼食会に乱入したフョードルに、「ほら、そこに立ってるのが例のフォン・ゾーンなんです。どうだい元気にしてるか、フォン・ゾーン」と声をかけられる。道化芝居の終わり際、フョードルに、「フォン・ゾーン、なんの用事があってこんなところに居残っている! いますぐ町なかのおれの家に来い。こっちは楽しいぞ。」と誘われる。その後、フョードルが、イワンとともに馬車に乗り込もうとしていると、「わたしも、わたしもご一緒します!」と馬車に飛び込みながら叫ぶ。フョードルは、「ほうれ言わんこっちゃない!」と喜んだが、イワンは何も言わず、いきなりマクシーモフの胸を突き、「出せ!」と馭者に叫んだ。【⇒第2編:場違いな会合8 大醜態】

 モークロエでグルーシェニカと一緒にいた四人のうちの一人。何がおかしいのか大笑いしていた。【⇒第8編:ミーチャ6 おれさまのお通りだ!】

 

 マクシーモフ:「わたしは女王様に一ルーブルだけ」

 ドミートリーに「ごくげんよろしゅうございます」と甘ったるい口調であいさつした。イワンに蹴飛ばされて以来、四日間、カルガーノフに連れまわされている。ポーランド女性と結婚した話、二度目の妻に逃げられた話、ゴーゴリ『死せる魂』に登場するマクシーモフの話をする。カルガーノフがひどく夢中になって、「この人が嘘をつくのは、もっぱらみんなを喜ばせるためなんですよ。これなら卑劣とはいえないでしょう」と言う。一方、ポーランド人たちは、ポーランドの悪口を言われたことで気分を害している。さらに、ピュロンの話をしたが、「もうたくさんだわよ、どれもれも、なんていやな話だろ、そんな話、聴きたくもないわ、てっきり愉快な話が出てくると思ったのに」と、グルーシェニカが割って入った。銀行ゲームが始まるとき、隣室へ行ったドミートリーの後を追いかけ、「五ルーブル貸してください。わたしも思い切って銀行ゲームで賭けてみたいもので、へっへっ!」と言って、「ようし、そいつはおもしろい!」と十ルーブルもらった。そして、「わたしは女王さまに一ルーブルだけ、かわいいハートの女王様に、へっへっ!」と言って、見事に勝利。一ルーブル買ったことがうれしいらしく、うっとりした顔で、賭けつづけた。【⇒第8編:ミーチャ7 まぎれもない昔の男】

 

 マクシーモフ:「どなたにも悪いことはしていないつもりですが」

 酒に酔って陽気になったカルガーノフのそばにぴたりと寄り添っていた。カルガーノフが寝てしまったあとは、娘たちのそばにつきっきりだった。チョコレートをコップで二杯飲み干し、顔は真っ赤、鼻はむらさき、目はとろんだった。マクシーモフが踊り出したと聞いて、カルガーノフが見に来たが、まったく気に入らなかった。その後、ドミートリーにチョコレート菓子をおねだりする。「わたしが欲しいのは、バニラの入った……年寄りには、あれが……へっへっ!」「ないですよ、おじいさん、そんな特別のお菓子は」。つづいて、「あの、あそこの娘ですが、マリアとかいう、へっへっ、どうしたらあの娘と近づきになれますでしょうか、あなたさまのお力添えで」とささやくと、「だいそれたことを考えるもんだ!」と言われ、「どなたにも悪いことはしていないつもりですが」と悲しそうだった。グルーシェニカが酩酊すると、ひっきりなしに彼女のそばにかけよって、手と指にキスをし、彼女の気持ちを引き立てるように、歌を歌ったり踊ったりした。

 

豚の子どもが、ブーブーブー

牛の子どもが、モーモーモー

アヒルの子どもが、カーカーカー

ガチョウの子どもが、ガーガーガー

ひよこが土間をよちよち歩いてコケコッコーと言いました。

そら、コケコッコーと言いました。【⇒第8編:ミーチャ8 うわ言】

 

 マクシーモフ:「二万ルーブルでございました」

 ドミートリーと引き離されたグルーシェニカと一緒にいる。恐ろしく度肝をぬかれ、すっかり怖気づき、まるで彼女に救いを求めるかのようにぴったり寄り添っていた。【⇒第9編:予審3:第一の受難】

 部屋では、ひどく悲しそうな顔をして、グルーシェニカ相手にめそめそしており、彼女の方が老人をなだめたりすかしたりしていた。尋問に呼ばれると、「ちょこまかした小刻みな足取りで近づいて来た」。ドミートリーさんから「自分が貧乏なために十ルーブルを借りて」悪いことをした、かならず返すつもりだ、と涙ながらに打ち明けた。そして、ドミートリーの持っていた金額については、「じつに毅然とした口ぶりで」、お金は「二万ルーブルでございました」と答えた。まもなく、彼は放免となった。【⇒第9編:予審8 証人尋問、餓鬼】

 

 4日目

 グルーシェニカ:「それじゃ仕方ないわね、ここにお残んなさい」

 モークロエから帰った日、フェーニャが「奥様、あの方はお泊りになるのでしょうか?」と問うと、「そうよ、ソファに寝床を作ってやって」と答えた。マクシーモフが、「恩人のカルガーノフさまが、これ以上おまえの面倒は見切れないときっぱり申され、五ルーブル恵んでくださいました」と言うと、「それじゃ仕方ないわね、ここにお残んなさい」と憐れむように笑った。老人は、ぴくりとし、感謝の涙で唇がぷるぷる震え出した。それ以来、彼女の家にすみついた。

 

 公判前日

 グルーシェニカ:「あのね、マクシーモフおじちゃん、みんなが必要とされているのよ」

 ドミートリーの裁判前日、アリョーシャがやって来たときには、グルーシェニカと「バカゲーム」をしていた。「この人の世話もたいへんなのよ。わたしの家、まるで養老院みたいでしょう、ほんと」と、グルーシェニカは笑った。「わたしは、虫けらも同然の人間でございます」「そのご親切は、わたしよりか、もっと必要な人たちにかけられたほうがようございまして」と言うと、グルーシェニカは、「あのね、マクシーモフおじちゃん、みんなが必要とされているのよ、だれがだれより必要かなんて、どうしてわかるっていうの?」と言った。【⇒第11編:イワン1:グルーシェニカの家で】

 

 公判当日

  証人として出廷しなかった。【⇒第12編:誤審1:運命の日】