ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典95(93人目)
~ミハイル・マカーロフ~
郡の警察署長。この町に赴任して三年。長身でまるまる肥えた男。退役陸軍中佐で、やもめ暮らしの好人物。「上流社会をまとめることができる」人物。父殺しの夜、マカーロフの自宅にはイッポリート・ネリュードフ・ワルヴィンスキーの3人が偶然集まっていた。当初は、ドミートリーを温かく迎えていたが、最近は顔をひどくしかめて、会釈するだけになっていた。
家には頻繁に来客があり、正式な晩餐会を開くこともある。格別の能力があるわけではなく、無教養で権限をわきまえないいたって能天気な人物。「物事を深く考えるひまなど、彼にはいちどもなかった」。フョードルの家からマリアが来て、フョードル殺害を知らせた。現場検証を行ったところ、フョードルは即死で、封筒の中の三千ルーブルがなくなっていることがわかった。ペルホーチンが、ドミートリーがモークロエで自殺するつもりだと知らせたので、先に分署長のマヴリーキーを急行させた。【⇒第9編:予審2:パニック】
4日目深夜
マカーロフ:「年とった父親の血が、あんたの背中でおうおう嘆いとるぞ!」
モークロエでは、ドミートリーが「老人と血の件ですね……わかりました!」と言うのを聞いて、「わかりました、だと? 身に覚えがあるということだ! 親殺しの人でなしめ、年とった父親の血が、あんたの背中でおうおう嘆いとるぞ!」と啖呵を切った。捜査の邪魔になるので、ちょっと黙っておいてくれと言われる。【⇒第8編:ミーチャ8 うわ言】
グルーシェニカが、「わたしのせいで彼が殺したんです! わたしがそれほど彼を苦しめたんです。あの亡くなったかわいそうな老人も、わたしが原因です。わたしが張本人です」と叫ぶと、マカーロフは「そうだおまえが悪いんだ! おまえは狂暴で、自堕落な女だ、いちばん悪いのはおまえだ」と叫んで、イッポリートとネリュードフに怒られた。
部屋に飛び込んで来たグルーシェニカが再び連れ戻されたあと、十分ほどしてドミートリーのもとに現れ、「哀れな男への、熱い父親らしい同情」をこめて話し始める。今度は、「諸君、どうか、この不幸な男に、ひとこと話をさせてもらえんだろうか?」と、ちゃんと許可をもらっている。グルーシェニカが、「わたしみたいな年寄りの手にキスまでして、君のことをよろしくと頼むんですからね。彼女が自分から頼んだんですぞ、このわたしがここに来て、自分のことは心配しないでいいからと伝えてくれるようにね。」「彼女はキリスト教徒の心をもっている。ほんとうだ。諸君、彼女はじつにやさしい心の持ち主で、なんの罪もありません。で、彼女になんと言うものですかね、ドミートリー君、君は落ち着いて座っていられそうですか、どうです?」。「グルーシェにかの悲しみ、人間としての悲しみがマカーロフの善良な心にしみ、目には涙さえ浮かんでいた」。
ドミートリーは、「マカーロフさん、あなたは天使のようなお方です」「落ち着きます。落ち着きます。明るく振る舞います」「心のうちをすべて、あなた方に打ち明けます」と約束し、幸せの涙を流した。マカーロフはご満悦だった。尋問は新たな段階に入った。【⇒第9編:予審:】
お茶をするために出て行った。グルーシェニカを予審の部屋まで連れて来た。【⇒第9編:予審8 証人尋問、餓鬼】
事件後
モークロエでグルーシェニカをどなりつけた悔いが消えず、監獄でのドミートリーとの面会の便宜をはかっている。アリョーシャのこともこよなく愛しているので、アリョーシャの便宜もはかっている。また、ラキーチンは娘の親しい知人のひとりなので、彼の便宜もはかっている。ドミートリーに対しても、寛大な目で見るようになった。「ひょっとしたら見上げた心の持ち主だったかもしれないのに、酒と女遊びがたたって、スウェーデン人みたいに破滅してもうた!」。【⇒第11編:イワン4:賛歌と秘密】
・マカーロフの娘…夫を亡くし、マカーロフの家で暮らしている。二人の令嬢(長女はオリガ)がいる。令嬢たちは、器量も悪くなく、性格も明るいので、若者たちは、マカーロフの家に引き寄せられた。【⇒第9編:予審2:パニック】