ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典40(29~32人目)

 

~カルタショフ など~

 カルタショフ:「テウクロス、ダルダノス、イリアス、そしてトロス」

・カルタショフ…十一歳ぐらい。イリューシャのところに集まった少年たちのひとり。すぐ真っ赤になる。作者に愛され、連載中のシビリャコフという名前から、カルタショフに変更されたらしい。「トロイを建設したか知っていると言った少年」「トロイの建設者」などと語り手に呼ばれている。コーリャが訪ねてきたとき、カルタショフは「トロイを建設したのはだれか」についての知識をひけらかしたくて仕方がない様子だった。トロイの建国者についての知識は、コーリャが教師をやりこめた伝説の話題である。この答えはスマラグドフ『世界史』にしか書かれておらず、この本はコーリャしか持っていなかった。カルタショフは、コーリャがよそを向いているすきに、この本を開いて、見事にトロイの建設者について書かれているページを開くことに成功した。「ほう、じゃあ、だれが建設したんだい?」と、コーリャが自尊心を傷つけられて傲慢な口調で問うと、「テウクロス、ダルダノス、イリアス、そしてトロス」と答えて、真っ赤になった。コーリャはその顔を軽蔑をこめて一分ほど見つめて、「民族の成立といった歴史的事件を説明するには、何よりもまず、それが何を意味するかを理解しなくちゃいけない」と言って、カルタショフをやりこめた。【⇒第10編:少年たち5:イリューシャのベッドで】

 

 カルタショフ:「カラマーゾフさん、ぼくたち、あなたが大好きです!」

 イリューシャの葬儀のあと、コーリャの言葉に合わせて、「ぼくもそうさ」と叫んで、牡丹みたいに顔を真っ赤にさせた。教会からの帰り道、はげしく泣きじゃくった。「スモーク・サーモンも出るんだって!」大きな声で《トロイの建設者》は言い、コーリャに話のじゃまをしないでくれと言われ、顔を赤くした。

 アリョーシャは、コーリャがカルタショフに向かって、「きみがこの世にいるかどうか」、そんなことは知る気もないと言ったが、カルタショフ君がこの世に生きていること、その彼が、トロイの建設者がだれか答えたときみたいに顔を赤らめず、美しい、善良で、ほがらかな目で、今このぼくを見つめていることを、どうして忘れることができるでしょうと言った。そして、「イリューシャのように寛大で、勇敢な人になりましょう、コーリャ君のように賢く、大胆で、心の広い人間になりましょう。そして、カルタショフ君のように、羞恥心にとんだ、でも賢い、いとしい人間になりましょう」と言った。カルタショフは、アリョーシャの言葉に感激して、「カラマーゾフさん、ぼくたち、あなたが大好きです!」と叫んだ。【エピローグ:3イリューシャの葬儀。石のそばの挨拶】

 

・カルムイコワ…スネリギョフが住んでいる家の持ち主。【⇒第4編:錯乱5 客間での錯乱】年老いた女主人と娘で、左の部屋に住んでいる。耳が遠い。【⇒第4編:錯乱6 小屋での錯乱】 イリューシャの葬儀の日、イリューシャの靴をそろえたり、クレープを用意したりした。【エピローグ:3イリューシャの葬儀。石のそばの挨拶】

 

・クジマ・サムソーノフ⇒サムソーノフ

 

・クラソートキン⇒コーリャ…本名はニコライ・クラソートキン。コーリャは、ニコライというありきたりな名前が嫌い。

 

・グラフィーラ…ホフラコーワ邸の小間使いのひとり。イワンがリーザのもとを訪ねたことを、夫人に報告した。【⇒第11編:イワン2:悪い足】

 

・クラフチェンコ…町医者。公金の返済を迫られている中佐(カテリーナの父)が倒れたのは、正真正銘の病気のためだと言い張った(実はちがう)。【⇒第3編:女好きな男ども3 熱い心の告白――異常な事件によせて】