ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』人物事典1(1~4人目)
~アガーフィア/アデライーダ など~
・アガーフィア…コーリャの家の女中。四十前後、でっぷり太り、顔にあばたがある。市場でどっさり買い込んだ食糧の紙袋をさげて戻って来た。ぴょんぴょん飛び跳ねるペレズフォンを、「ほらほら、わんちゃん!」とたしなめた。コーリャに「そこの女性、どうしてこんなに遅くなったんです?」「女性だって? なんだい、ちびのくせして!」「ちびのくせ、だと?」と、陽気な坊ちゃんとの冗談を楽しんでいた(ちなみに「ちび」は、コーリャの泣き所である)。【⇒第10編:少年たち2:子どもたち】
・アガーフィヤ・イワーノヴナ…カテリーナの姉。中佐の先妻の娘。軍隊時代のドミートリーの友人。仕立て屋としてかなりの腕。自己評価が低く、社交界の連中とつきあおうとしない(傲慢なカテリーナとは対照的)。「おかしな関係じゃないぞ、ぜったいに、そうだな、純粋な友だちづきあいだった」とドミートリーは言っている。ドミートリーが、アガーフィヤに、中佐に公金横領の疑いがあることを知らせ、「女学校卒のあなたの妹さん(カテリーナ)を、そっとぼくのところに寄こしてください」という条件と引き替えに、四千ルーブルを貸すと約束する。アガーフィアは、「あなたって相当悪い人ね!……相当に悪い人だわ! よくもそんなことが言えるわ!」と、恐ろしい剣幕で出て行き、アガーフィアは、このことをカテリーナに洗いざらい伝える。その後、中佐が公金を返せず、猟銃の引き金を引いて自殺しようとしているところを、アガーフィアが「絶妙のタイミング」で目撃したことで、銃は天井に発砲され、中佐はケガせずにすんだ。その日の夕方、カテリーナは、ドミートリーを訪ねている。【⇒第3編:女好きな男ども3 熱い心の告白――異常な事件によせて】
アガーフィアへの三千ルーブルの送金をカテリーナに頼まれたドミートリーが、その金をモークロエで散財してしまったことが、悲劇へとつながった(この三千ルーブルには、四千ルーブルの仕返しの意味が込められていたことが、あとで明らかになった)。【⇒第3編:女好きな男ども3 熱い心の告白――「まっさかさま」】
・アキーム…ひとりの百姓が、「モークロエからドミートリーを護送する馬車には、アキームが乗るはずだ」と言い張る。しかし、アキームは姿を見せない。その百姓は、アキームから二十五コペイカもらって飲んでしまい、今になってわめいているのだそうだ。【⇒第9編:予審9 ミーチャ、護送される】 ドミートリーの裁判で証言台に立つ。トリフォーンが、ドミートリーの百ルーブルをくすねたことを裏付けるのに、一役買った。【⇒第12編:誤審2:危険な証人たち】
・アグラフェーナ⇒グルーシェニカのていねいな呼び方。
・アグリッピナ⇒ポーランド人将校(まぎれもない昔の男)が、グルーシェニカを呼ぶときの呼び方(この呼び方をされるのがイヤ)。
・アデライーダ・イワーノヴナ…フョードルの最初の妻。名門貴族ミウーソフ家の出身。「おめでたい空想」のとりこになって、ろくでもない男と駆け落ちした。しかし、すぐさま自分は夫を軽蔑しているだけでだと気づき、夫婦は「いつ終わるとも知れない痴話喧嘩」をくり広げることになる。フョードルは、アデライーダの財産を自分の名義にするために、妻にあらゆる精神的苦痛を与えたが、つかみ合いの喧嘩でこぶしをあげるのは、フョードルではなく、「血気盛んで勇敢な、色が浅黒くて気が短い、並外れた腕力を授かった」アデライーダの方だった(この性質が息子のドミートリーに受け継がれた)。アデライーダは、とうとう耐えきれなくなり、三歳になるドミートリーを屋敷に残し、神学校出の教師と駆け落ちして、ペテルブルクに落ち着いた。その後、どこぞの屋根裏部屋で急死する。チフスにかかったとも、餓死したとも……。その知らせを聞いて、フョードルは悲しんだとも喜んだとも小躍りして喜んだとも……。【⇒第1編:ある家族の物語1フョードル・パーヴロヴィチ・カラマーゾフ】
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