TODAY'S
 
2021年度 同志社女子(前期)

 

大問一:藤岡陽子『跳べ、暁!』 

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 「お茶したい」という言葉が、一瞬、昭和の風を運んできた。いきなり試合後の場面から始まりますが、登場人物のキャラと役割分担がしっかりしているので、漫画みたいで読みやすく、とまどうことはありません。森絵都の『永遠の出口』のような、女子同士の友情をうまく描いた物語でした。

 

――リモが箱の中に残っていたドーナツを手に取り、「食べないなら、私がたべちゃうよ」と薫の前に差し出しだ。薫が顔を上げ、「リモにあげる」とつぶやく。

「やだよ。薫が食べて」

「いいよ、リモにあげる」

「だめだって。だってこれ薫のだから」

 リモがまた泣きだしそうになるのを見て、薫は小さく笑った。

 

 薫には、「やっぱり食べる」と言ってほしい。でも、小さく笑う。その葛藤なら、すでに自分ひとりで乗り越えてきた。そんな別れの決意が、一緒に過ごしてきた仲間を過去の人とする。そんな青春の一幕です。

 

 設問は13まである。11が一歩踏み込んだ心情になっているほかは、すべて同志社系の特徴である平易なものだった。

 

  

 

大問二:池内了『なぜ科学を学ぶのか』 

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 同志社系は、配当外の漢字を、ひらがなに直してくれます。たしかに親切ではあるのですが、かえって読みにくく感じます。「何かの飛行物体なのか、をしょう細に検討すること」「話のむじゅんが少しでも指てきされると」「ぐう然目げきされた」などなど。

 この本のシリーズは、国語の先生が問題を作るときに、まっさきに手に取るものですが、どこを取ってもいい問題が作れるというわけではありません。

 この筆者の主張は、どの本でもたいてい疑似科学批判です。「~ではない」と言うだけで、「何」なのかは教えてくれません。天声人語的なそれっぽさがあるので、読んでいるときは「なるほど、いいこと言うな、正しいな」と思うものの、読み終わって我に返ると、「それで??」となります。

 同じ部分を出題した目白研心は、原発の話の直前で引用を止めていますが、同志社女子はその部分も含めています。学校によって、原発事故の話にふれる文章を避けるか避けないのかは、考えの分かれるところですが、今回は、入れない方が正解です。切実な問題意識をもって、震災や原発事故を話題にするならいいと思います。しかし、「科学的思考をすべきだ」という主張の「具体例」として、原発の話を挙げるのは、デリカシーに欠けます。

 原発事故のときに、科学的でない自己本位の結論を出して、原因をあいまいにしようとした人たちがいたと、筆者は非難します。それはたしかに正しいと、「感覚」として、なんとなくわかります。しかし、筆者は、この現在進行中の問題を取り上げ、まるで過去の教訓のように、批判します。話題にするなら、今も自分はその問題について考え続けている人の言葉であってほしいと思います。泥船からいち早く逃げ出して、お山の高みから、「だから、危ないって言ったんだ!」と言う人の言葉であるなら、信用できないからです。結論への短絡という点では、感情的な原発反対論者も、筆者の科学的態度一元論も、「自分の主張や経験を絶対視している」点で、変わりません

 筆者も科学者なのだから、「どこに問題があったかを明示すべき科学者としての道をふみ外し、自己本位な主張をしてしまったのでしょう」などと他人事のように言わず、自分もまた、どこに問題があったのか明示できなかった科学者のひとりとして、どんなふうに科学的アプローチに失敗したのかを、具体的に示してほしい。あるいは、自分は科学者だが、この件については何もわからないのだと、正直に言ってほしい。専門分野が違えば、まったくの門外漢なんですわと。子ども相手に書かれたものだからこそ、きれいごとよりも、そっちの方が伝わると思うのです。

 牡蠣殻が岩にこびりつくように「迷信をすでに信じている人」へ語りかけ、そこから「脱会させる」ことを目的とした文章であるなら別ですが、この部分だけを読むと、「正しいものの見方」を説明しているように、見えてしまいます。

 わからないから本を開いたら、わかったつもりの人の言葉が並んでいたという感じです。この本は、科学者が書くから説得力があるのであって、「ビジネス成功の3条件」「シアワせになる人の思考法」の著者が書いたなら、「ただの一般論」で終わってしまいます。筆者が科学者として、学問と向き合ってきた姿勢をわかりやすく伝えたものだから、価値があるのです。

 出題者がこの部分を切り取ったのは、本文全体の中では、相対的に親しみやすい部分だったという理由です。この本を使うと先に決めて、使える場面を探すと、こういうことになりがちです。

 

問一 選べる。

問二 設問が漠然としている。

※筆者はずっと科学的思考が大事だと話しているので、ただ二十七字を頼りに探すしかない。しかも微妙に答えが遠い。

問三 筆者は、「個人の感情」という言葉を極端に広い意味で使っており、「個人の意見」までその中に含んでいる。本文の内容と対照すればたしかにその答えになるが、一般的な意味合いとは違うので、違和感のある答えになる。

問四 語句。案外むずかしめ。

問五 敬語。ふつうよりちょっと難しい。

問六 消去法できるが、正解選択肢があまりよくない。

問七 筆者の主張が正しければ、もし科学者がふだんから科学的思考のトレーニングをしていれば、事故のときに正しい判断ができたということになるが……。一体、どんなトレーニングをすれば、そのような千里眼が身につくのか、どこにも示されていない。

問八 この脱文が筆者自身のことを言っているのだが、これは出題者の皮肉だろうか。

問九 選べる。

問十 選べる。

問十一 漠然としている。

※「態度」を探せと言われても、ずっとそんな話をしているので、場所が絞れない。出題者もそのことがわかっているので、この問題は「態度」という語を文中から探すことで、答えを導くものになっている。それしか根拠がないので、良い問題ではない。

問十二プンプンどこで区切れるかなんて、主観にすぎない。あるいは、実際に本がどこで区切ってあったかという結果論にすぎない。

問十三 書き取り。選べる。

 

 文章選択の失敗が響いて、切り抜きもちょっと失敗して、設問もへたっぴになってしまった大問でした。本文がこれだと、きっちりした問題を作れません。目白研心の問題も、同じようにあいまいになっていた。文章選びは大事。