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2021年度 甲陽学院(1日目)
大問1:山田昇平『家族がひとつになる「暮らしのカタチ」』
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なんだか変な感じがしました。途中から、あの小学生特有の抑揚の激しい音読口調で読みたくなりました。あの音読口調が耳に残るのは、「と・思いま~す」と読むからです。著者は、「思っています」「思っています」「思っています」「思うんです」「思うんです」「気がしています」「感じています」「思います」「思っています」「思っています」「思っています」「気がします」「感じています」「思います」「感じています」と、雨あられのように思い続けた揚げ句、最後に「~思っているのは、僕だけでしょうか?」としめくくります。まるで建築ポエム!!
作文指導を受けたら、まっさきに「思います」をはずせと言われそうです。
読み終えて、何も頭に残っていなかったので、もう一度読み直します。しかし、またしても何も残りませんでした。
文章の回線がどこかでショートしているに違いない。
――僕は住空間の創り方が、人間社会のカタチそのものに深くかかわって来ていると思っています。
もう一度、一文目から読み直します。書かれている内容は単純なはずです。
・ユニバーサルデザインの住居を作りたい。ずっと住める住居がいい。
・「縁側」があった方がいい。私的空間を重視しすぎるのは問題だ。
何度読み直しても、書かれていたのは、これだけのことでした。百年住宅――住友林業のCMが頭の中を流れるだけで、なぜだか頭に何も入ってこないのです。もし次にこの社長さんが本を書くことがあるなら、「会社の宣伝を兼ねようとしないこと」が重要だと思います。
読者は、一般論に足場を置きつつ、筆者の主張をつかもうとします。一般論に対しては、これは知っていることだと横目で見ながら通り過ぎ、照準をその次に来るはずの意見へと合わせます。しかし、来るはずの意見が、待てど暮らせど来ないのでした。くら寿司で、注文した寿司が来ないなあと待っていると、実は、もう全部来ていたということもあったが、あれと同じなのだろうか。
印象に残らないのは、一般論が経験で色づけられていないからです。8割が写真で構成された「よい住宅タテル本」の前書きか何かなのかもしれません。口調はフレンドリーですが、「創り方」「カタチ」といった字面にしか、この人の個性は見当たりません。検索してみると、「おいしいおうち」代表、「株式会社創喜」代表取締役とあります。なるほど、代表したり取り締まったりしているわけか。ここで、これは意識高い系の社長による朝礼なのだと理解しました。朝礼とは、社長さんが思いの丈をぶつけて、気持ちよくなるためのものです。
――さまざまな人にとって優しく、わかりやすい空間であることが大切であると思うんです。
――大切なのは心持ちの話です。その場所に流れ出す空気感の問題です。
日が昇って来た。今日も元気にがんばろうか。
建築系の著者の本は、国語でよく登場します。だから、あの日、ひとりの国語の先生が、書店でそれ系のコーナーをうろうろしていた。そして、平積みされていたこの本を手に取り、なんとなく買ってしまった。しかし、家に帰って、ぺらぺらめくって、それでおしまいになる。なんか損した気分だけが残った。月日は流れ、入試問題を作成する時期が来た。不意に手元にあったこの本が目についた。ぺらぺらめくる。使えないこともない。じゃあ、これでいこう。わたしが甲陽の先生だったら、そんな感じ。
安くなったもんだな、甲陽さんよぅ。卍。
そんなふうに思ってた時期が、私にもありました。
問1 書き取り。
※「キカクもの」が、独特の表現なので書き取りにくい。 ※「規格もの」
問2 四字熟語の組み立て。
問3 筆者の言葉は遠回しでわかりにくいが、設問の誘導でわかる。8段落を丸写しで大丈夫。
問4どのようなことを考えて、「暮らしのカタチ」を創っていくことですかと問われても、字面がうるさくて、考えることを拒否してしまう。中井貴一か役所広司くらいの説得力のある人に、音読してほしい。
※最大のヒントは解答欄が小さいこと。こういう文章の出題されたときは、出題者の誘導だけがたより。
※この解答欄の大きさによって、そこを書いとけばいいんだなとわかる。
問5 指示語。ぬき出しなので大丈夫。
問6指示語だからとりあえず直前を見たが、キレイすぎてふわふわしている。
※出題者が「具体的に答えなさい」と誘導したくなるのも分かる。
※「~創り出している僕らは、創らなければいけない~」「創り方次第で、そこで創り出されるドラマが」と、創る創るとやけにうるさい。
※わたしの名前は創(はじめ)なのだが、「つくる」というあだ名で呼んでいた友人もいたなと思い出した。
※そういえば、体育の先生にはシノヅカと呼ばれていた。
※大正漢方胃腸薬のCMの真似をしていたせいか、「かんぽ」というあだ名もあった。
※小学生のころは、クリボーだった。
問7 「縁側」について書かれている「いいこと」を逐一集めて、解答欄に流し込め。
大問2:眞島めいり『みつきの雪』
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大問1の本を検索すると、「よく一緒に購入される商品」として、こちらも表示されます。国語の先生や受験生が買ったのでしょう。
少女漫画の最終巻の後半からスタート。みんながハンカチを取り出しているところに、遅れてやってきた感じで気まずい。心の枯れてしまった大人は、2000年代前半の古めのJポップを聞きながら、まずは気分を盛り上げよう。西野カナ、浜崎あゆみ、そんな王道がいい。
同人誌のように、作者自身のうれしい展開が詰め込まれています。わたしがこれを書いたとしたなら、書きながら涙を流していただろうと思います。こちらも、大問1と別の意味でポエムです。読んでいてキツいと感じたなら、それはあなたが年を取った証拠。そう割り切りたい。恋のメーターを、マックスまで振り切るんだ! (たとえが昭和)。
――「行人。」
わたしは右手を前に突き出した。
行人は不意を衝かれたように固まった。あっけにとられて、少しひるんだ目をした。
腕をあげたままで、待つ。そうすると行人が「これで合ってる?」って問いかけるみたいに、おずおずと左手を伸ばしてくる。
宙でふたつの手のひらが重なる。
甲陽受験生も、この男の反応に「キュン死」してほしい。「キュン死」という死語を堂々とまかり通しつつ、絶対に「キュン死」してほしい。照れて「萌え~」などと言っては、ダメだ。おじさんだとばれてしまうから。
――わたしには引き止められない。
――知ってる。もちろん忘れないよ。
――行人が、行人でいてくれてよかった。
首をけいれんさせるように左右に小刻みに振りながら、目を閉じつつ朗読したい。もしも甲陽の先生が、「行人が、行人でいてくれてよかった」とはどういうことですか。などという設問を創ったら、無粋だっただろう。そんなことはしない。線部は「いってらっしゃい。」に引かれている。いや、魅かれているッ!!
では、甲陽が、この2つの大問を出題した意図は何だろう。
言葉には、書き手自身が色濃く反映されます。書くってこんなにも多様なんだぞ、すごいだろうと、この入試を通して、胸を張って言えます。なぜ個性的になるのかと言えば、書き手の強い思いがあるからです。ベテラン作家は、自分の思いを客観視することで、言葉をコントロールできます。しかし、社長さんも新人作家さんも、それができない。だから、その言葉は、なまなましい「わたし」として存在するのです。
おそらく社長さんは、自分の人生をこの一冊に籠めたかったはず。新人作家さんも、この作品に自分自身を賭けている。不器用な言葉でも紋切り型の言葉でも、どうしても書きたい「わたし」がいる。言葉は人なり――大事なのは語られた内容ではないときもある。そういうものだと気づくには、少し醜いことかもしれないが、一度は徹底的に向き合って、たくさんの不満を持ってみることも必要です。
親友となる人であっても、最初はぱっとしない印象だったり、きらいだと思ったりすることも多い。そして、いくつもの矢印を相手に向けているうちに、なんか自分のやってることは的外れなんじゃないかと気づく。そして、なるほど、これはいい文章だとわかってくる。そして、ごめんなさいと思う。そして、「思う」を連呼したあの人の存在だけが心に残る。それでいいのだ。
君の言葉も、いずれ個性的なものとなっていくんだよ。どんな個性をまとうかは、これからのキミシダイ。ここは断固、カタカナでなければならない。そんな入試だった。
問1 語句。
問2 すぐ近くを書く記述。
問3 すぐ近くをまとめる記述。
問4 選べる。
問5 なんだか既視感のある問題だ。「困ったように」の方を、どこまで踏み込んで書けばいいのだろう。かなり大きな解答欄が用意されている。いくつか選択肢を作ってみた。どれだろう。
ア せっかく止めてくれてうれしいんだけど、自分、もう決意しちゃってるんで……なんか申し訳ないスねって感じだから。
イ いきなり愛の告白を受けたようで、どぎまぎしたから。
ウ 止めるなら、今じゃなくて、もっと前にしてくれよーと思ったから。
エ せっかく不安を振り切って前に進もうとしたのに、不安なら行かなければいいと元も子もない正論を言われてしまい、いや、でも、それはさすがに……と思ったから。
オ いずれ戻って来るつもりなのに、まるで永遠の別れの場面のようになってしまっているから。
問6 解答欄がでかいッ! でかすぎるッ!
※昔の京大を見ているようだ。しかし、最近は、京大もスリム化が進んでいる。
※こういう問題は、どこから書けばこの大きさをうめられるだろうかと、出発点をたぐりよせることが必要。
※当然、「~な気持ち」だけでは埋められない。「~ことに対して、~な気持ち」だけでも駄目だ。しかし、心情変化前もあわせて書くと、「最初は~だから~だと思っていたが、~だと知って、~ことに対して、~な気持ちになった」というように、「なった」まで書かないと日本語にならない。文末「気持ち」におさまらない。「~ではなく」という否定の形を使っても、不自然だ。ということは、「行人がどんな思いでいるか」を具体的に書くところが、書き始めだとわかる。
※書き方は、自動的に決まるものではない。書ける内容を、解答欄や形式に合わせて、限定していくという手間が必要になる。