TODAY'S
 
2021年度 高槻中(前期)

 

大問1:山極寿一『スマホを捨てたい子どもたち』 

 

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 また……山極寿一ですね。わが母校は、山極総長の支配下に置かれて久しいですが、中・高の母校まで、乗っ取られてしまったようです。

 そもそもこの本は、具体的な問題に対して、それをなんとかしたいという思いで、書かれているはずです。なんとかしたいから、自分のもつ知識をフル活用しつつ、がんばって訴えているのです。ゴリラのおじさん、いいおじさん(のはず)。

 お母さんが、道へ飛び出そうとする子どもを、「危ない!」と制するのと同じことで、相手が未熟であればあるほど、「注意」というものは説得力がない方がいいのです。「あなたはたしかに今回は大丈夫でした。しかし、確率的にわたしがあと99回同じ注意をする間に、おそらく1回は自動車にひかれるはずです……」などと言ってカウントダウンされたら、怖くてしょうがないです。

 警鐘はあいまいな方がいいとして、問題なのは、それを国語という教科の中で取り上げることです。

★理由その1:英語の長文は、あくまでも英語力を見るものですが、非常識な見解のものは避けるべきです。公立高校入試で、変な文章が出て問題になったことが、ニュースもありました。国語の長文も同様で、出題者は「受験生がこれを知識として受け取ってよい」と判断したうえで、出題に踏み切るべきです。

★理由その2:これは論理的文章の読解問題です。論理的に読解できているかを問うのだから、そもそもその文章自体が論理的である必要があります

 筆者が、論理性を意図してフォーマルに書き、その主張が知識として穏当なものである場合だけ、出題者はそれを論理的文章として出題し、その主張を受験生に読ませるべきだと思います。

 

 今回の文章から得られた教訓は、まさに論理トレーニングの基礎としてお手本のような内容でした。

 ・「指示語」で受ける際に、これまでに述べた以上のことをこっそり含めて、どんどん極端な方向へと議論を展開しないようにする。

 ・存在命題と全称命題を混同し、議論を極端な方向に走らせないように気をつける。

 ・読者の誤解を生むようなあいまいな言葉を使わないようにする。

 

 たしかに、今回の出題部分は、これまでのケースとは違って、やっかいなゴリラは登場しません。そのかわりに、「神経細胞の間をつなぐインパルスによって、記憶も思考もすべて解釈できる。心も脳の中にある。生物学はそう断じたわけです」と、「mogi領域」に踏み込んでしまいます。脳科学を遠ざけるにせよ、近づけるにせよ、仮説であることを付記すべきです。脳科学では、今のところ、刺激によって特定の場所が活性化することがわかっていますが、それ以上の「意味付け」についての、定見はありません。

 また、こういう文脈では、ふつうなら「分析・解析」という客観的な言葉を使いますが、あえて「解釈」という主観的な言葉になっています。「解釈」なら、遺伝子云々を待つまでもなく、だれでも今すぐ、どんなものに対しても可能です。ずるいなあ……

 こういう文章を出題してしまうのは、問題作成者の脇の甘さと言わざるを得ません。

 問9では、「遺伝子アルゴリズムを解釈すれば、生物の情報はいくらでも書き換えることができる」を正解選択肢として選ばせます。しかし、この言葉がどういう意味なのか、非常に「解釈」が難しいです。たしかに、「本文に書いてある=正しい」とするのが国語の前提ですが、そのような前提が機能するためには、穏当な本文をまず選ぶというステップが必要です

 筆者にしてみれば、酔っぱらってクダをまいたら、それを録音されて、失言扱いにされた……というような心外さだと思います。この筆者の本は、もっと気楽に読むものです。元気で陽気なおじさん。ストレスフルな学校経営の傍らで書いた息抜き随筆まで、論理的文章として取り上げられ、設問なんて作られたら、しんどくてたまらないはずです。どうしても使うというなら、明星中のように、いい部分を吟味して取り出さないといけません。それは、不可能ではないはずです。

 国語として出題されてしまったら、こうして批判せざるを得ません

 

問1 接続詞。一応選べる。

※Ⅰ・Ⅱでエ・オにしぼり、Ⅲは、「つまり」でも「そして」でもいいので保留となり、Ⅳでエに決まる。

※どっちでもいいというのは、なるべく避けるべき。

※接続詞は、筆者が標識したい方向性を示すものではあるが、前後の文が必ずしも一意的な接続関係を指示するとは限らない。

問2 生物学に譲り渡した段階の話と、情報学に譲り渡した段階の話の境界があいまいなので、釈然としないが、選ぶことはできる。

問3ショボーン直前で述べた遺伝子のことだけを指しているのか、もっと一般的な意味へと拡張しているのか、どちらか判断できない。

問4 「かつて人間は心だけが独り歩きし始めたようにも見えたが」のような「変な文」を読むのは、不正解選択肢とはいえしんどい。

問5 選べる。

問6 五十字。近くを書くだけなのでだいじょうぶ。

問7 日本語が全体的に読みにくい。

問8 だいたい書ける。

問9 いろいろ疑問。

 

  

 

大問2:三浦哲郎『春は夜汽車の窓から』

 

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 読み継がれてきた国語の古典です。小学生のころに読んだものは、案外、長く記憶に残るものだなと思います。私が子どものころに読んだときには、地味で退屈に感じましたが、大人になってあらためて読むと、生き生きとしたやさしい目線が素敵でした。

 自分たちが子どもだったころに読んだ名作を、また出題することで、作品を埋もれさせないようにすることも、入試問題の役目です。入試で出題される本の出版年度の統計を取ると、だいたい10年くらいが平均となりますが、戦前の作品、二十世紀後半の作品を出題する学校が、毎年、数校あります。示し合わさなくても、どこかの学校が順に役割を果たしていくので、文化の継承とは、まさにこうして行われるんだなと、頼もしくなります。

 

問1 選べる。

問2 語句。「あんばい」がちょっと難しい。

問3 語句。

問4 およそ書けるが、どこまで書くのかはあいまい。

問5 選べる。

問6 選べる。

問7 消去法でなら選べる。

問8 だいたい書ける。

問9 選べる。

問10ショボーン話し合い形式の問題。正解とされるFさんの言葉がへたっぴ。「母親の思い出」と「幸せな旅の思い出」が直接結びついてしまい、母親の思い出が、幸せな旅の思い出あったというように、読めてしまう。

 

  

 

大問3 書き取り。普通。