ビクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』読書メモ㉚

 

ビクトル・ユーゴー Victor Hugo 豊島与志雄訳 レ・ミゼラブル LES MISERABLES 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌 (aozora.gr.jp)

 

第四編 地より来る天の救い

 

一 外の傷、内の回復

 1832年3月。ジャン・ヴァルジャンとコゼットの生活は陰鬱になっていった。貧しい者に施しをすることしか、気を晴らすすべはなかった。ジョンドレッドの陋屋を見舞ったのは、ちょうどそういうときだった。翌朝、左腕にぞっとするような火傷を負って帰ってきた。コゼットは、かいがいしく手当てをした。ジャン・ヴァルジャンは幸せだった。「実に有り難い傷だ!」。四月になった。

 

二 プリュタルク婆さんの解釈

 ガヴローシュは何も食べていなかった。オーステルリッツ村を通りかかり、爺さん(マブーフ様)と婆さん(プリュタルク婆さん)が住んでいる庭に、リンゴの木があるのを思い出す。庭をのぞくと二人の話す声が。「といって一文なしだからね。」。夜になると、二人の男が現れる。そのうちの一人はモンパルナスだった。モンパルナスが襲い掛かると、老人は一瞬のうちに彼をねじふせてしまう。「これはすごい爺さんだ」。その後、ジャン・ヴァルジャンによるモンパルナスへの3000字以上の説教。読者は、これをモンパルナスがしたように聞き流すことになる。老人は、改心せよと言って、モンパルナスに財布を握らせて、去って行った。モンパルナスが茫然として老人を見送っているところへ、ガブローシュが近づいてきて、さっと財布を抜き取った。そして、金に困っているマブーフ老人のところへ投げ込んで、走り去った。マブーフ老人は、姉エポニーヌに続いて、弟ガヴローシュにも救われたのだった。

 

第五編 首尾の相違

 

一 寂寞の地と兵営

 コゼットの屋敷の前を、美男の槍騎兵テオデュール・ジルノルマンが毎日通りかかる。さあ、どうなってしまうのか。

――マリユスは懊悩のうちに沈み込んでそこに長く留まってるという気質の男だった。コゼットは懊悩のうちに身を投じてもまたそこから出て来るという気質の女だった。

 

二 コゼットの恐れ

 1832年4月の前半、ジャン・ヴァルジャンは小旅行に出かける。お留守番のコゼットは、夜、庭に人の足音が聞こえた気がしたが、あまり気にしなかった。翌日、今度は庭に丸い帽子をかぶった影がみえた。さすがに二夜連続はまずい! 翌日、ヴァルジャンが帰って来た。そして、「ごらん、お前の言う丸い帽子の影がここにある。」と、隣の屋根の上の煙突の影を示した。しかし、数日後、別の事件が起きる!

 

三 トゥーサンの注釈

 再び、ヴァルジャンの留守中の出来事。コゼットが庭を一回りすると、先ほどはなかった大きな石がある。だれかが鉄の門に腕を差し入れておいたのだ。トゥーサンに戸締りをお願いする。トゥーサンは、コゼットを怖がらせるようなことを言い出す。翌朝、再び庭に出ると、石の下に手紙が置いてあるのに気づいた。みごとな筆跡。

――まあ考えてもごらんなさいませ、大勢の男が部屋にはいってきて、静かにしろなんかと言って、お嬢様の首に切りつけでもしましたら! 死ぬのは何でもありません、死ぬのはかまいません、どうせ一度は死ぬ身でございますもの。でもそんな男どもがお嬢様に手をつけるのは考えてもたまらないことでございます。それに刃物、それもきっとよく切れないものにきまっています。ああほんとに!

 

四 石の下の心

 それは、マリウスの書いた3500字の愛の詩だった。

――宇宙をただひとりに縮め、ただひとりを神にまでひろげること、それがすなわち愛である。

 

五 手紙を見たる後のコゼット

 ちょうど目の前を、あの美しい将校が通りかかる。しかし、手紙を読むと、それは明らかに「彼」からのものだった。3度読み直したとき、注意テオデュールが鉄門の前に戻って来て何かアピールしてるが、彼のことなんてもう目の端っこにすら入らないわ。

――コゼットはかつてこんなものを読んだことがなかった。その手記中に彼女は陰影よりはなお多くの光明を認めて、あたかも聖殿の中をのぞき見るような気がした。

――彼女は再び火が燃え出すのを感じた。彼女はその手記の一語ごとに胸を貫かれた。彼女は言った。「ほんとにそうだわ。私はこれを皆覚えている。みな一度あの人の目の中に読み取ったものばかりだ。」

 

六 老人は適宜に外出するものなり

 ジャン・ヴァルジャンが晩に出かけたとき、ついにコゼットとマリウスが出会う。

――許して下さい、私はここにきました。私は心がいっぱいになって、今までのようでは生きてゆけなくなりましたから、やってきました。

―― 彼女は彼の手を取り、それを自分の胸に押しあてた。彼はそこに自分の手記があるのを感じた。彼は口ごもりながら言った。

「では私を愛して下さいますか。」

 彼女はわずかに聞き取れる息のような低い声で答えた。

「そんなことを! 御存じなのに!」

 そして彼女はそのまっかな頬ほおを、崇高な熱狂せる青年の胸に埋めた。

――一つのくちづけ、そしてそれはすべてであった。

――すべてすんだ時、すべてを語り合った時、彼女は彼の肩に頭をもたして、そして尋ねた。

「あなたのお名は?」

「マリユスです。」と彼は言った。「そしてあなたは?」

「コゼットといいますの。」