ビクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』読書メモ㉒

 

ビクトル・ユーゴー Victor Hugo 豊島与志雄訳 レ・ミゼラブル LES MISERABLES 第三部 マリユス (aozora.gr.jp)

 

 

第七編 パトロン・ミネット

 

一 鉱坑と坑夫

 ユーゴー先生の社会学授業。今度は悪人階層。現在一八三二年に。物語の山場の年。

 

 ――社会哲学者らが見て取り得る第一層までは、仕事は善良なものである。しかしその一層を越せば、仕事も曖昧雑駁なものとなり、更に下に下れば恐るべきものとなる。ある深さに及べば、もはや文明の精神をもってしては入り得ない坑となる。そこはもはや、人間の呼吸し得べき範囲を越えた所で、それより先に怪物の棲居となるべきものである。 

 ――それらの労働者らは皆、最高のものから最低のものに至るまで、最賢のものから最愚のものに至るまで、一つの類似点を持っている。すなわち無私ということを。マラーもイエスと同じくおのれを忘れている。彼らは皆おのれを捨て、おのれを脱却し、おのれのことを考えていない。彼らは自己以外のものを見ている。彼らは一の目を有している。その目はすなわち絶対なるものをさがし求めている。

 ――以上述べきたった鉱坑の下に、それらの坑道の下に、進歩と理想郷とのその広大なる地下の血脈系の下に、はるか地下深くに、マラーより下、バブーフより下、更に下、はるか遠く下に、上方の段階とは何らの関係もない所に、最後の坑道がある。恐るべき場所である。われわれが奈落と呼んだのはすなわちそれである。それは暗黒の墓穴であり、盲目の洞穴である。どん底である。

 そこは地獄と通じている。

 

二 どん底

 社会にとって唯一の危険は暗黒にある。

 ――人類はただ一つである。人はすべて同じ土でできている。少なくともこの世にあっては、天より定められた運命のうちには何らの相違もない。過去には同じやみ、現世には同じ肉、未来には同じ塵。しかしながら、人を作る捏粉に無知が交じればそれを黒くする。その不治の黒色は、人の内心にしみ込み、そこにおいて悪となる。

 

三 バベ、グールメル、クラクズー、およびモンパルナス

 1830~35年まで、パリの奈落を支配したパトロン・ミネットと呼ばれた四人組の悪党。

 

・クラクズー…仮面の男。ジャヴェール曰く、こいつはだれの目にもはいらない、仲間も手下も使われてる奴やつも、彼を見たことがない。テナルディエのところへは大きな鍵を持って入って来た。

 ――暗夜そのものであった。彼は空が黒く塗られるのを待って姿を現わした。夜になると穴から出てきたが、夜が明けないうちにまたそこへ引っ込んでいった。その穴はどこにあるか、だれも知ってる者はなかった。

 ――「そんなことはどうでもいい。」と大きな鍵を持ってる仮面の男が腹声でつぶやいた。「なかなかすげえじじいだ。」

 

・グールメル(40足らず)…アルシュ・マリオンの下水道を拠点にしている。大男。ジャヴェール曰く、植物園にいる象のような大男。テナルディエのところへは斧を持って入って来た。

 ――彼の筋肉は労働を求めていたが、彼の暗愚はそれをきらっていた。まったく怠惰な強力にすぎなかった。うかとした機会でも人を殺すことができた。

 ――「どうして面を取ったんだ。」とテナルディエは怒って叫んだ。「笑ってみてえからさ。」と男は答えた。

 

・バベ…小男。ジャヴェール曰く、その辺をぶらついてるお洒落の小男。テナルディエのところへは棍棒を持って入って来た。

 ―― バベの小柄なのは、グールメルの粗大と対照をなしていた。バベはやせており、また物知りだった。身体は薄いが、心は中々見透かし難かった。その骨を通して日の光は見られたが、その瞳ひとみを通しては何物も見られなかった。

 ――「バベ、どうしてこう大勢連れてきたんだ。」とテナルディエは棍棒の男に低い声で言った。「むだじゃねえか。」

「仕方がねえ、皆きてえって言うから。」と棍棒の男は答えた。「どうもこの頃は不漁しけでね、さっぱり商売がねえんだ。」

 

・モンパルナス(20歳に満たない)…少年。ジャヴェール曰く、昔の手品師のような様子をした悪者(変装がうまい)。

 ―― 痛ましい者と言えばおそらくモンパルナスであったろう。まだ少年で、二十歳にも満たず、きれいな顔、さくらんぼうにも似たくちびる、みごとなまっ黒い頭髪、目に宿ってる春のような輝き、しかもあらゆる悪徳にしみ、あらゆる罪悪を望んでいた。

 ――いかなる浮浪の徒も、モンパルナスくらいに人に恐れられていた者はあまりない。十八歳にして彼は既に後に数多の死屍を残していた。

 

四 仲間の組織

 パトロン・ミネットの手下たち。

 

・パンショー…ジョンドレッド氏が、ルブラン氏の訪問を受けた後、密談した相手。別名プランタニエ、別名ビグルナイユ

 ――後に多くの刑事裁判のうちに現われてきて、ついに有名な悪党となった者であるが、当時はただ名が通ってるというだけの悪者にすぎなかった。そして今日では既に、盗賊強盗らの間にひとりの伝説的人物となっている。

 ――一八四三年に三十人の囚徒が白昼未曾有の脱獄をはかった時に使った排尿道が路地の下を通ってる所、ちょうど便所の舗石しきいしの上の方の囲壁の上に、パンショーという彼の名前を読むことができた。それは彼が脱獄を企てたある時に、自ら大胆にもそこに彫りつけたものである。

 ――「あれはジャヴェルだ。俺はあいつに引き金を引くなあいやだ。貴様やってみるか。」

 ――ビグルナイユはハンマーをジャヴェルの足下に投げ出した。

   「旦那は悪魔の王様だ、降参すらあ。」

 

・ブリュジョン…マリウスが警察に向かう途中で、プティー・バンキエ街の壁の後ろで密談していた長髪の男。

 

・ドゥミ・リアール…マリウスが警察に向かう途中で、プティー・バンキエ街の壁の後ろで密談していたひげの男。別名ドゥー・ミルアール。

 

・ブーラトリュエル…老人。道路工夫。モンメルフェイユの森でジャン・ヴァルジャンを見かけ、そのことをテナルディエに伝えた人物。あとでルブラン氏の一撃をくらって、身動きしなくなった。終盤でも出番がある。

――「ブーラトリュエルは死んだのか。」「いや酔っ払ってるんだ。」とビグルナイユが答えた。「すみの方に片づけろ。」とテナルディエは言った。

 

・グロリユー…放免囚徒。☆一八三二年、監獄のブリュジョンから使いが届く。その後、逮捕される。

・バールカロス…別名デュポン氏。☆一八三二年、監獄のブリュジョンから使いが届く。その後、逮捕される。

・クリュイドニエ…別名ビザロ。☆一八三二年、監獄のブリュジョンから使いが届く。その後、逮捕される。