ビクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』読書メモ⑲

 

ビクトル・ユーゴー Victor Hugo 豊島与志雄訳 レ・ミゼラブル LES MISERABLES 第三部 マリユス (aozora.gr.jp)

 

 

第四編 ABCの友

 

一 歴史的たらんとせし一団

 結社「ABCの友」と、そのメンバー紹介。

 

 ――彼らは民衆を引き上げようと欲していた。

 ――ABCの友はあまり大勢ではなかった。それは芽ばえの状態にある秘密結社だった。

 

・アンジョルラス(22歳)…革命の論理を代表するリーダー。裕福な家庭の一人息子。

 ――魅力のあるしかも恐ろしいことをもやり得る青年だった。彼は天使のように美しかった。

 ――若い娘のようないきいきした有り余った若さを持っていた。

 

・コンブフェール…革命の哲理を代表する。映画では、ガヴローシュの死の場面で登場。必死にガヴローシュを制止しようとして、その死をあれよりも悲しんだ。負傷兵を助け起こそうとしていたとき、三本の銃剣に貫かれて死んだ。

 ――「善は無垢ならざるべからず、」と彼は絶えず繰り返していた。

 ――コンブフェールを以ってする革命は、アンジョーラをもってする革命よりもいっそうのびのびとしていた。

 ――アンジョーラは首領であり、コンブフェールは指導者であった。一方は共に戦うべき人であり、一方は共に歩くべき人であった。

 ――天性の純白さによって、アンジョーラがきびしかったごとくコンブフェールは優しかった。彼は市人と言う言葉を愛したが、人間と言う言葉をいっそう好んでいた。

 ――学問はついに局面を変えるに至るであろうと考えてる者のひとりだった。

 ――コンブフェールは自らひざまずいて手を合わせ、未来が純潔さをもって到来せんことを祈り、何物も民衆の広大有徳なる進化を乱すものなからんことを祈ったであろう。

 

・ジャン・プルーヴェール…詩を愛する。社会問題を探究していた。バリケードでは歌を歌い、その後、捕虜となり、殺された。

 ――ジャン・プルーヴェールは情緒深く、鉢植の花を育て、笛を吹き、詩を作り、民衆を愛し、婦人をあわれみ、子供のために泣き、未来と神とを同じ親しみのうちに混同し、気高き一つの首を、すなわちアンドレ・シェニエの首をはねたことを、革命に向かって難じていた。

 ――博学と言えるほど学問があり、ほとんど東方語学者であった。またことに善良であった。

 ――アンジョーラのごとく、彼は金持ちでひとり息子であった。彼はもの柔らかに話をし、頭を下げ、目を伏せ、きまり悪るげにほほえみ、ぞんざいな服装をし、物なれない様子をし、わずかなことに赤面し、非常に内気だった。それでもまた勇敢であった。

 

・フイイー…孤児。歴史を愛する。

 ――彼は世界を救済するという一つの考えしか持たなかった。

 ――彼は独学で読むこと書くことを学んだ。彼のあらゆる知識はただひとりで学んだのだった。彼は寛大な心を持っていた。広大な抱擁力を持っていた。

 ――特に歴史を学んだ。ことにフランスのことのみを考えている若々しい夢想家らの寄り合いの中にあって、彼はフランス以外を代表していた。そして専門として、ギリシャ、ポーランド、ハンガリー、ルーマニヤ、イタリー、などのことを知っていた。

 

・クールフェーラック…マリウスの親友。絶えずあらゆる機会に笑うような人。ファンティーヌを一時愛したトロミエスのような人。

 ――アンジョーラは首領、コンブフェールは指導者、クールフェーラックは中心であった。他の二者がより多く光明を与えたとすれば、彼はより多く温熱を与えた。実際、彼は中心たるすべての特長、丸みと喜色とを持っていたのである。

 

・バオレル…弁護士の卵。バリケードでは、壁の教書をはがすことを断固として主張した。バリケードに入って来た市民兵を真っ先に殺し、そして、次の市民兵に殺された。ABCの仲間の中では、最もはやく亡くなった。

 ――悪友で、勇者で、金使いが荒く、太っ腹なるまでに放蕩者で、雄弁なるまでに饒舌で、暴慢なるまでに大胆であった。最も善良なる魔性の者であった。

 ――騒乱のない時には喧嘩ほど好きなものはなく、革命のない時には騒乱ほどの好きなものはなかった。

 ――十一年間も大学にとどまっていた。法律のにおいをかいだが、それを大成したことはなかった。

 

・レグル(25歳)…基本的に「ボシュエ」と呼ばれる。法学部に通っていたが、マリウスのかわりに退学になる。禿げ頭。ジョリーとコンビ。ひとりだけ南部の出身ではない。コラント亭への攻撃の直前に殺された。

 ――彼の十八番は、何事にも成功しないことだった。それでかえって彼は何事をも笑ってすましていた。二十五歳にして既に禿頭だった。

 ――貧乏ではあったが、彼の上きげんのポケットはいつも無尽蔵だった。すぐに一文なしになってしまうが、笑い声はいつまでも尽きなかった。

 ――自分でうち立てるすべての物が、自分の上にくずれかかった。木を割れば指を傷つける、情婦ができたかと思えばその女には他にいい人があるのを間もなく発見する。始終何かの不幸が彼に起こってきた。そういうところから彼の快活が由来したのである。

 ――ボシュエはほとんど住所を持っていなかった。ある時はまったくなかった。方々を泊まり歩いた、そしてジョリーの家へ泊まることが一番多かった。

 

・ジョリー(23歳)…医学生。

 ――医学から得たところのものは、医者となることよりむしろ病人となることだった。二十三歳で彼は自分を多病者と思い込み、鏡に舌を写して見ることに日を送っていた。

 ――若さ、病的、気弱さ、快活さ、すべてそれら個々のものは、うまくいっしょに同居して、それから愉快な変人ができ上がって、それを仲間らは、音をたくさん浪費して、ジョリリリリーと呼んでいた。

 

・グランテール…懐疑家。グランテールという音は大字R。極端に醜い男だった。映画では、アンジョルラスと一緒に散った。

 ――グランテールは何事をも信じようとはしなかった男である。それに彼は、パリー学問の間に最も多く種々なことを知った学生のひとりだった。

 ――この懐疑家は、一つの狂的信仰を有していた。それは観念でもなく、教理でもなく、芸術でもなく、学問でもなかった。それはひとりの人間で、しかもアンジョーラであった。

 ――彼にはアンジョーラが必要だった。彼は自らそれを明らかに意識することなく、自らその理由を解こうと考えることなく、ただアンジョーラの清い健全な確固な正直な一徹な誠実な性質に、まったく魅せられてしまった。

 ――アンジョーラの本当の従者であったグランテールは、この青年らの会合のうちに住んでいた。彼はそこに生きていた。彼の気に入る場所はそこのみだった。彼は彼らの後にどこへでもついて行った。酒の気炎の中に彼らの姿がゆききするのを見るのが彼の喜びだった。人々は彼の上きげんのゆえに彼を仲間に許していた。

 ――常にアンジョーラに苛酷に取り扱われ、てきびしく排斥され拒絶されていたが、それでもまたやってきて、アンジョーラのことをこう言っていた。「何という美しい大理石のような男だろう。」

 

二 ブロンド―に対するボシュエの弔辞

 レーグル(ボシュエ)が、馬車に乗っていたマリウスを呼び止める。マリウスの代わりに退学になったことを話す。ブロンド―は教授の名前。家出後のマリウスは、クールフェーラックの隣室に落ち着いた。

 ――マリユス・ポンメルシー! 僕は答えた、はい! それで君は消しを食わなかったんだ。そしてそれで、僕の方が消しを食っちゃった。

 ――そして僕は愉快だ。も少しで弁護士になるところだったが、その抹殺で救われたわけだ。

 

三 マリユスの驚き

 クールフェーラックがマリウスをミューザン珈琲店に連れてきて、ABCの友の部屋に案内した。

 

四 ミューザン珈琲店の奥室

 ABCの友のほぼ全員が集まっている。酔ったグランテールがしゃべる。ジョリーとバオレルが恋の話をしている。ジャン・プルーヴェールは詩を論じる。コンブフェールとクールフェラックは政事を論じていた。

 ――僕は酒が飲みたい。僕は人生を忘れたい。人生とはだれかが考え出したいやな発明品だ。そんなものは長続きのするものではない、何の価もあるものではない。

 

五 地平の拡大

 ボシュエ(レグル)が、コンブフェールに、ワーテルローの話をする。マリウスがピクリと反応。そして、熱烈なナポレオン賛美を始める。「およそこれ以上に偉大なるものは何があるか。」。コンブフェールは、「自由となることだ。」と言った。さらに、アンジョルラスは、「母とは共和のことだ。」と言った。

 ――その簡単な冷ややかな一語は、鋼鉄の刃のように彼の叙事詩的な激語を貫き、彼はその激情が心の中から消えてゆくのを覚えた。

 

六 逼迫

 マリウスは、ナポレオンへの信仰を捨てなかった。そして、ミューザン珈琲店に行くことをやめた。ジルノルマン伯母が、マリウスの宿をかぎつけて、六百フランを置いて行ったが、マリウスはそれを送り返した。借金をしたくなかったので、ポルト・サン・ジャックの宿を引き払った。現在三フランしか持ってないっす。