ビクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』読書メモ⑱

 

ビクトル・ユーゴー Victor Hugo 豊島与志雄訳 レ・ミゼラブル LES MISERABLES 第三部 マリユス (aozora.gr.jp)

 

 

第三編 祖父と孫

 

一 古き客間

 1817年当時のジルノルマン氏(77歳)について。この人はマリウスの祖父。ジルノルマン氏は、娘と孫を連れて、T男爵夫人のサロンに週2度参加していた。

 

二 当時の残存赤党のひとり

 ロアールの無頼漢(ジョルジュ・ポンメルシー)は、五十歳ばかりの老人だった。ヴェルノンの町の小さな家に住み、見事な庭で花を育てていた。この人は、ワーテルローで、テナルディエに救われた人物である。ジルノルマン氏とは没交渉だったが、妻の死後(1815年)、ジルノルマン氏が、子供を渡さないと相続権を渡さないと強硬に主張したため、子供(マリウス)はジルノルマン氏に引き取られた。一方、マリウスは父がいることを知らない。数か月に一度、マリウスがミサに連れて行られるときに、サン・スュルピス会堂で、柱の影から息子を垣間見て、涙を流していた。そのことをマブーフ氏は知り、二人は互いに敬意と温情を抱くようになった。マブーフ氏は、晩年まで登場する登場人物。モブキャラじゃないよ。

 ――父親は子供のために譲歩した。そしてもはや子供をも手もとに置くことができなくなったので、花を愛し初めた。

 ――あの男があの子供をながめてる所を幾度も見た、そして男の大きな頬の傷と目にいっぱいあふれてる涙とを見た。

 

三 彼らに眠りあれ

 マリウスにとって、T夫人のサロンは世間に対する知識のすべてだった。彼は、尊大な独特な人々に取り囲まれ、年齢に不似合いな沈鬱さを身につけていた。その後、さまざまな老人たちが列挙される。彼らは過激王党派だった。マリウスは、そんな人たちの中で成長していった。

 

 ――彼は王党で熱狂家で謹厳であった。彼は祖父の快活と冷笑とを不快に感じてあまり好まなかった。そしてまた父のことを思うと心が暗くなった。

 ――彼は、上品で寛容で誇らかで宗教的で熱誠で、冷熱あわせ有する少年だった。厳酷なるまでに気品があり、粗野なるまでに純潔であった。

 

四 無頼漢の死

 1827年、ジルノルマン氏は社交界から退いて、マリウスは17歳になった。ジルノルマン氏は、「お前は明日ヴェルノンへ行くんだ。」と言った。「父に会いにだ。」「病気らしいのだ。お前に会いたいと言っている。」。マリウスが到着したときに、父は亡くなっていた。マリウスの心は動かなかった。父の遺言には、「私の子のために、皇帝はワーテルローの戦場で、私を男爵に叙した。復古政府はこの爵位を否認するが、お前はこの爵位を用いるがよい。わたしの子はそれに値する」と書かれていた。また、テナルディエに会ったら、好意を表してほしいとも書かれていた。マリウスは法律学校にもどり、再びいつもの日常が始まった。

 

 ――マリユスがヴェルノンへ着いたその夕方、大佐には錯乱の発作が襲ってきた。彼は女中が引き止めようとするにもかかわらず起き上がって叫んだ。「息子はこない! 私の方から会いに行くんだ。」それから彼は室を飛び出して、控え室の上に倒れてしまった。そしてそれきり息が絶えたのである。

 ――マリユスはほとんど心を動かしていなかった、そして自分の態度をきまり悪く感じ、また当惑した。

 ――二日にして大佐は地に埋められ、三日にして忘られてしまった。マリユスは帽子に喪章をつけた。ただそれだけのことだった。

 

五 ミサに列して革命派となる

 マリウスは、ミサで理事(マリウスの父が生前懇意にしていたマブーフ氏の兄弟)に話しかけられた。「それは私の父です。」。マリウスは、祖父に三日間の外出を請うた。祖父は、「何か女のことだな。」と思った。

 

 ――あの席から私は、長年の間、きまって二、三カ月に一度は、ひとりのりっぱな気の毒な父親がやって来るのを見たのです。その人は自分の子供を見るのにそれ以外には機会も方法もありませんでした。家庭の都合上、子供に会うことができなかったのです。でいつも子供がミサに連れてこられる時間を計らって、その人はやってきました。子供の方は、父親がそこにいることは夢にも知りませんでした。おそらく父親があることさえも知らなかったでしょう。罪のないものです。父親は、人に見られないようにあの柱の後ろに隠れていました。そして子供を見ては涙を流していました。その子供を大変愛していたのです。かわいそうな人です。

 

六 会堂理事に会いたる結果

 マリウスは法律学校の図書館で、帝政時代の歴史をむさぼり読み、父の知人たちを訪ねた。父の人柄に触れたマリウスは、過激王党派の祖父を遠ざけ、革命派の父を崇拝するようになった。ナポレオンに対する考えも変化していった。祖父は、「確かにこれは調子が狂ってきたんだな。」と言った。

 

 ――革命のうちから民衆の偉大なる姿が現わるるのを見、帝国のうちからフランスの偉大なる姿が現わるるのを見た。実にすばらしいことだ、と彼は自ら内心に叫んだ。  

 ――彼のうちには一種の内的発育が起こってきた。自分の父と自分の祖国と、彼にとっては新しいその二つのものがもたらしてくる、一種の自然の生長を彼は感じた。

 ――彼は自ら知らずして、偶像崇拝の二つの部屋の中に身を置いた、一方は神性なるもの、一方は獣性なるもの。多くの点について、彼はなお誤った方向をたどっていた。

 ――モンフェルメイュに行って、昔のワーテルローの軍曹である旅亭主テナルディエをさがした。しかしテナルディエは破産して、宿屋は閉ざされ、どうなったか知ってる者はいなかった。

 

七 ある艶種

 ジルノルマン氏の甥テオデュールは、マリウスの従兄妹だったが、互いに名前しか知らなかった。マリウスがたびたび家を空けるようになったので、ジルノルマン嬢は不信感を持っている。テオデュールが兵営に戻る際、マリウスと同じ馬車になったと言うので、あとをつけさせる。テオデュールは、マリウスが父の墓に花を供えてむせび泣いているのを見た。

 

八 花崗岩と大理石

 家に戻って来たマリウスは、疲れて眠ってしまう。ジルノルマン氏は、マリウスの小箱に入っていた父ジョルジュの手紙を読む。ポケットから落ちたマリウスの名刺には、「男爵マリウス・ポンペルシー」と書かれていた。祖父と孫の対決。祖父が父の遺言を火中に投じたと思い込んでいたマリウスは、「ブルボン家なんかぶっ倒れるがいい、ルイ十八世の大豚めも!」と叫ぶ。祖父は出ていけと言う。マリウスは出て行った。

 

――しばらく彼は酔ったようによろめきながら、頭の中には旋風が渦巻いた。やがて彼は目を上げ、祖父をじっと見つめ、そして雷のような声で叫んだ。

「ブールボン家なんかぶっ倒れるがいい、ルイ十八世の大豚めも!」

――「この人のような男爵と、わしのような市民とは、とうてい同じ屋根の下にいることはできない。」

 そして急に身を起こし、まっさおになり、うち震い、恐ろしい様子になり、恐るべき憤怒の輝きに額を一段と大きくして、マリユスの方に腕を差し伸ばして叫んだ。

「出て行け。」

 マリユスは家を去った。