ビクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』読書メモ⑨
ビクトル・ユーゴー Victor Hugo 豊島与志雄訳 レ・ミゼラブル LES MISERABLES 第二部 コゼット (aozora.gr.jp)
第二部 コゼット
第一編 ワーテルロー
物語は、十九から再開されます。一~十八はワーテルローをめぐるユーゴー先生の紀行文。ここは読まなくても……。
一 ニヴェルから来る道にあるもの
1861年にワープして、ユーゴー先生のご登場。ワーテルロー紀行が始まった。いや、まだ始まっていない。紀行文の始まりを告げる「ワーテルローの戦場に来た」という「最後の一文」を引き出すための前置き。
二 ウーゴモン
ワーテルローの激戦地、ウーゴモンという土地の説明。紀行文の続き。ワーテルローの悲惨についてのあれこれ。最後にひとりの百姓が、「ワーテルローのことを話してあげましょう!」と言う。
三 一八一五年六月十八日
われわれは作者に謎の権利を与えてしまったようだ……。ここからはワーテルローの戦いが延々と描かれる。砲兵の名将だったナポレオンは、雨が降ったために力を発揮できなかったという話や、ナポレオンが当時どんな状態だったのかという話などなど。しかし、歴史を描きたいわけではないらしい。ちょっとスノッブなところがあるのは仕方ない。
――物語作者の権利の一つとして過去に立ち返り、一八一五年に、しかも本書の第一部において語られた事件のはじまる少し前まで、さかのぼってみよう。
四 A
ワーテルロー周辺の地図は、アルファベットのAを思い浮かべるとよい。1815年6月18日(アウステルリッツ当日)の夜明けのナポレオンについて描写される。
五 戦争の暗雲
11時35分になった。戦闘が始まった。午後4時ごろまでは拮抗していた。ユーゴー、歴史について語る。
―― 一つの戦争を描かんがためには、その筆致のうちに混沌たるものを有する力強い画家を要する。
六 午後四時
あそこでどうなって、ここでだれがこうして……という散漫な記述が堆積される。ウェリントンは、「最後の一人までここにふみ止まれ。」と叫んだ。
七 上機嫌のナポレオン
時間が巻き戻って、ナポレオンサイド。18日の深夜から夜明けまで。ユーゴーの紀行文が再び挿入される。断崖の上にある溝の話。
八 皇帝案内者ラコストに問う
ワーテルローに朝が来て、午後4時になった。ようやくちょっと先へ話が進んだ。ナポレオンは、戦勝の報告をさせるために、パリへ急使を送った。
九 意外事
先ほど説明があった「溝」に落ちて多くの人が亡くなった。ナポレオンの敗戦の始まり。ユーゴーが、独特な自説を開陳する。
十 モン・サン・ジャンの高地
イギリス軍が劣勢に立たされた。まだ、本題には入らない。
十一 ナポレオンに不運にしてビューローに幸運なる案内者
ユーゴー、ナポレオンの誤算について語る。プロシアのウィルヘルム大侯が、ナポレオンへの攻撃を行う。
十二 近衛兵
午後8時。「その後のことは人の知るとおり」。フランス軍は潰走を始める。死を覚悟したネー元帥の雄姿が描かれる。
――俺にあたる弾丸はないのか! おお、イギリスの砲弾は皆俺の腹の中にはいってこい!
十三 破滅
潰走するフランス軍の混乱が描かれる。ユーゴー、運命について語る。最後にナポレオン。
――崩壊した夢想をなお夢みてる偉大なる夢中遊行者であった。
十四 最後の方陣
午後9時。最後まで残った近衛兵たち。「勇敢なフランス兵ら、降伏せよ!」と告げられ、カンブロヌは、「くそっ!」と言って、それをはねのけた。
十五 カンブロンヌ
ユーゴー、「くそっ」という言葉についての持論を語る。語ることが権威であった時代の小説だ。感動体質の気まぐれ先生が、自分の感動を余すところなく嘗め回すかのように授業をする。われわれはそれをありがたく拝聴する。ユーゴーを支配しているのは、激越な感動。目で読むのではなく、音声での読み上げがちょうどいい。近衛連隊全滅。
十六 指揮官へは何ほどの報酬を与うべきか
イギリスに戦勝をもたらしたのは、ウエリントンではなく、兵士たちである。再び紀行文。
――ある戦勝の後に急速なる生長を遂ぐるものは、ただ野蛮な民衆のみである。
――ワーテルローは、第二流の将帥によって勝たれたる第一流の戦いである。
十七 ワーテルローは祝すべきか
ユーゴー、ワーテルローについての私見を述べる。ナポレオンの終焉。
――もし革命の何たるやを解せんと欲するならば、それを「進歩」と呼んでみるがいい。そしてもし進歩の何たるやを解せんと欲するならば、それを「明日」と呼んでみるがいい。明日は必ずや明日の仕事をなす、しかもそれを既に今日よりなしている。明日は不思議にも常にその目的とするところに達する。
――反革命は自ら欲せずして自由主義となった、とともにまた、それに相同じき現象によって、ナポレオンも自ら欲せずして革命家となった。
十八 神法再び力を振るう
ルイ十八世がパリに戻る。新秩序が生まれ、アウステルリッツは過去のこととなった。ナポレオンは民衆の神になった。
――ナポレオンがロングウッドの住居において臨終の苦悶を閲しつつある間に、ワーテルローの平野に倒れた六万の人々は静かに腐乱してゆき、彼らの平和のあるものは世界にひろがっていった。
十九 戦場の夜
1815年6月18日の夜に戻ってきてしまった!! 「さて再びあの不運なる戦場に立ち戻ってみよう。実はそれがこの物語に必要なのである。」(ということは、ここからでよかったのでは…)。
とはいえ、なかなか始まらない。またしても、思い出したことは言わずにはいられない。ユーゴー、勝利の後に盗人がやって来ることについて論じる。急ぐ読者は、タイトルと最後の一文だけを読めば十分だ。
戦場へ盗人としてやって来たのはテナルディエ(当時軍曹)だった。「この死人め、まだ生きてるのかな。一つ見てやろう。」と、一人の将校を死人の山から引っ張り出す。胸の上のレジオン・ドヌール勲章をもぎ取る。以下、助けられた将校とのやりとり、「君の階級は何だ。」「軍曹です。」「名前は何というんだ。」「テナルディエです。」「僕はその名前を忘れまい。そして君も僕の名前を覚えていてくれ。僕はポンメルシーというんだ。」。ポンメルシーと言えば、マリウスだ。父親だろうか。
――「君は僕の生命を救ってくれたのだ。何という名前だ?」
男は急いで低声に答えた。
「私はあなたと同じようにフランス軍についていた者です。もうお別れしなければなりません。もしつかまったら銃殺されるばかりです。私はあなたの生命を救ってあげた。あとは自分で何とかして下さい。」
「君の階級は何だ。」
「軍曹です。」
「名前は何というんだ。」
「テナルディエです。」
「僕はその名前を忘れまい。」と将校は言った。「そして君も僕の名前を覚えていてくれ。僕はポンメルシーというんだ。」