【理論化学の穴】㊷「酸と塩基の基本事項」
【理系化学のバイブル】
※基本的に、この本をもとに授業をしています。この本で勉強していて、少し難しいという場合に、役に立つ授業です。
今回は酸と塩基の基本事項をいろいろと詰め込んでみました。まずはアレニウスの定義とブレンステッドの定義のちがいからです。酸は水素をもち、水溶液中で水素イオンを放出する物質とされています。水素原子ならば、陽子(プロトン)の周りを電子がまわっているため、電気的に中性でしたが、水素イオンは、要するに、むき出しの陽子のことです。原子半径が小さいことと、正電荷を打ち消す電子が存在しないことから、極性分子を引き付ける力はとても大きくなっています。したがって、水中では単独で存在せず、水1分子と結びついてオキソニウムイオンを作ります。水分子との結びつきと言えば水素結合がありますが、水素イオンが水と結びつく強さは、その比ではありません。ただし、酸と塩基の反応の際には、H2O部分は特に仕事をしないので、H3O+と書かずに、H+と省略して書きます。
アレニウスの定義に戻ります。塩基はヒドロキシ基を持っており、水酸化物イオンを放出する物質のことです。ヒドロキシ基とは、このような-OHの部分のことで、その物質を水に溶けやすくする親水基としての性質を持っています。
また、塩基性という言葉と、小学生のころに習ったアルカリ性という言葉のちがいですが、アルカリ性とは、水に溶けやすい塩基のみを指す用語なので、狭い意味の定義です。したがって、高校化学では塩基性という言葉を用います。酸と塩基が出会うと中和反応が起きて、互いの性質が打ち消されます。
しかし、このようなアレニウスの定義には、いくつか問題がありました。水溶液中での話に限定されているので、水に溶けにくい物質や、水以外の溶媒に溶ける場合が、含まれていません。また、アンモニアNH3は、OH-を放出しませんが、塩基性です。アレニウスの定義では、このことを説明できません。
これに対して、ブレンステッドの定義では、H+あるいは陽子(プロトン)を与える物質を酸、受け取る物質を塩基とされています。これによって、気相中でH+を受け取ってNH4+になるアンモニアも、塩基に含まれることになりました。また、水のように反応によって、酸になったり塩基になったりする両性元素も定義できるようになりました。
それでは、あらためて酸と塩基の豆知識です。酸はすべて分子性物質です。そして2会場の酸は、多段階に電離します。その際、1段階目、2段階目、3段階目の電離定数は、このような数値になっています。電離定数が大きいということは、1段階目の電離が最も起きやすいということです。1段階目の反応は、中性の分子からH+をとる反応なのに対して、2段階目は負電荷を帯びたイオンから、さらにH+を奪わなければいけません。正負電荷を帯びた状態では、H+を強く引き付けようとするため、H+の電離が妨げられるのです。つづいて、分子中のHの数と、電離するHの数は一致しない。CH3COOHにはHが4つありますが、CH3の部分からHが取れることはありません。このあたりは、イオンに親しんでくれば、おのずと覚えていきます。つづいて、電離したイオン同士が、静電気力で結びつくということですが、これは濃厚溶液での話です。強酸の電離度は1と考えられますが、実測値はそれより少し小さな値になります。電離したあとのイオン同士が結びついてしまうため、実際に中和反応に使われるイオンの量、これを活量と言いますが、活量は電離したイオンの数よりも小さくなるのです。一方、1mol/ℓ以下なら、強酸や強塩基は電離度1と考えることができます。また、希薄溶液ほど、弱酸であっても電離度が高くなります。電離度は、濃度に大きく左右されます。
一方、塩基では、NH3以外の物質はイオン性物質です。そして、2価以上の塩基でも、一段階で電離します。というのは、もともとイオン性結晶なので、溶けるということ=イオンになっているということだからです。したがって、溶けやすいということはイオンになりやすいということなので、水に溶けやすいイオン結晶は、すべて強塩基です。一方、水酸化物イオン濃度が10-3mol/L以下は弱塩基に分類されますが、その中にも、電離度が高く、強酸と対等に張り合うものもいます。つまり、酸も塩基も、電離度と濃度というふたつの要素が重要になっていることがわかりました。何が強酸か弱酸かは、無機化学以降になると親しくなりますが、今はなんだか遠いものを覚えている印象が強いと思いますが、一応、まずは覚えましょう。