トルストイ『戦争と平和』人物事典45(341~357人目)

 

 ☆・ブクスホーデン伯爵(1750~1811年) (1-2-14)

 

 

アウステルリッツ

 ウィーン陥落時、クトゥーゾフと合流すべく、ロシアから戦地へと向かっている。アウステルリッツの左翼軍団長。金髪で長身。前日の作戦会議では、ワイローターの作戦を気乗りしない様子で聞いていた。会戦当日は、まったく登場しない。

 

 

権力闘争

 敗戦後、国境地帯への退却を提案した。カメーンスキーが元帥を辞任したあと、序列からいって総司令官になるはずだったが、ベニグセンが認めなかった。ベニグセンは、退却時にブクスホーデンを孤立させるために橋を焼き、ブクスホーデンは強力な敵の攻撃を受けてしまう。ブクスホーデンは決闘だと腹を立て、ベニグセンはてんかんの発作を起こす。一触即発の事態となっていたが、間一髪、ペテルブルグからベニグセンを総司令官に任命する使いが来て、ブクスホーデンは総司令官争いに敗北した。

 

 

・プシャズデツカ嬢(2-4-1)…槍騎兵がボルジョズフスカ嬢のために舞踏会を開くのに張り合って、ニコライら騎兵たちは、プシャズデツカ嬢のために舞踏会を開いた。ニコライは帰郷するため、参加できない。

・二人の少女(3-2-5)…アンドレイが放棄後の禿山を訪れたとき、温室の木からもいだ杏を裾にくるんで、アンドレイの前に飛び出してきた。年上のほうが、若主人に気づいて顔色を変えて、年下の少女の手をつかんで、木の陰に隠れた。アンドレイは、少女を見ていないふりをして、「彼の心を占めているもの(戦争のゆくえ)にすこしも劣らぬ正当な人間的関心(あんずをもちかえり、思うさま食べたい)」が存在することをさとり、喜ばしい、心が和むような感情にとらわれた。少女たちは、楽しそうに走って行った。

 

 ★・プフール(3-1-6)

 

1812の戦術家

 1812年のロシア軍の作戦計画作成の中心人物。ドイツの将軍戦術家たちがもつ特徴をすべて一身に集めているような人物。狂信的なまでに自己過信にこりかたまっている人物。背が低く、痩せているが、骨太で、頑丈な体つき。仕立てのわるいロシアの将軍の軍服を着ている。トルストイはこういう作戦家は無意味だと言いたい。

 ナポレオンは、「プフールが立案し、アルムフェルトが異を唱え、ベニグセンが検討し、バルクライが実践の使命をあたられながら、いずれに決するか知らず、こうしていたずらに時間が過ぎるばかりだ。ひとりバグラチオンのみが――軍人だ。彼は愚かだが、経験と見る目と、決断力がある」と言った。

 

破棄された計画

 プフールはすべての者を蔑視するほどに思い上がった、辛辣な、観念的な理論家で、言うことが難解すぎるので、ヴォリツォーゲンが、それをマイルドな言葉に翻訳する役割を担っている。低い声で、「馬鹿者」「ぶちこわしおって」などと、ぶつぶつつぶやいている。

 当時の第一の党派は、プフールを中心とした戦争理論家たちで、ドイツの諸公、ヴォリツォーゲン、ヴィンツィンゲローデらが属していた。プフールの計画に基づいて巨大なドリッサの陣地が構築された。御前会議では、鼻先でせせら笑うだけで、意見しなかったが、急に熱弁をふるい始めた。ドイツ語がわからないパウルーチが、ヴォリツォーゲンを通訳にして、フランス語で質問した。さらに、パウルーチとミショーがフランス語でヴォリツォーゲンを攻撃し、アルムフェルトはドイツ語でプフールに食ってかかった。アンドレイ伯爵は、この場で唯一自分のために何も望まず、ただ長年の労の結晶である理論に基づいて作戦が実行されることを望んでいたプフールに同情した(アンドレイはアウステルリッツでも、ワイローターの作戦に夢中になっている)。しかし、パウルーチが熱烈にアレクサンドルを説き伏せたので、プフールの計画は破棄され、バルクライにゆだねられた。ベレジナ河で、ナポレオンを捕らえる計画を作成した。

 

・フョードル(2-4-9)…ロストフ家の小間使い。「あなたはチョークをとってきてちょうだい」。

・フョードル公爵(e-1)…ピエールが、ペテルブルグで新たな秘密結社を結成するために協議した相手。ピエールの思想は、「誰もが、事態はあまりに醜悪で、このまま放置しておくことはできぬ、力のかぎり阻止するのがすべての心ある者の義務だ」というものだが、ニコライには「見果てぬ夢だな」と言われた。

・プラートフ将軍(1751~1816年)(2-2-15)…ドン・コサックの領袖。軍本体から独立した行動をおこなう。アウステルリッツ後、ニコライのパヴログラード連隊が所属した。1812年の戦いでは、ヴェージマ付近でフランス軍の退路を遮断して、捕捉殲滅しようとはやる将軍たちの一人。

・プラスコーヴィヤ・サーヴィシナ(2-1-8)…年老いたばあや。マリヤの部屋に入ることを禁じられていたのに、リーザの出産と死が迫る場面で、急に入って来た。そして、マリヤが生まれたときの話を始めた。今は亡き公爵夫人がキシニョフの町で、モルダヴィア人の百姓女の手を借りて、マリヤを産んだという話をする。

・プラトン・カラターエフ⇒カラターエフ

・フランツ皇帝(1-2-10)…オーストリア皇帝。最後の神聖ローマ皇帝。ブルノでアンドレイと謁見した。会話が苦手。アンドレイに接見したとき、特徴的な長い頭で一つうなずいただけだった。アウステルリッツでは、アレクサンドル1世と一緒にクトゥーゾフのところへ行った。よく状況が呑み込めていない。

・フランツ(1-2-10)…オーストリアで外交官をしているビリービンの召使い。あえて皇帝と同じ名前がつけられている。

・フリアン……ボロジノでは、ベルネッティ将軍の指揮下で、小さな砲兵師団を率いた。ミュラーと同時に進撃して、同時に橋を渡り、ミュラーの指揮下で堡塁を目指して、他の部隊と連携するという、漠然とした命令しか与えられなかった。実際は、撃退された。ボロジノで、増援としてベルチエがクラパレードがふさわしいと言ったが、ナポレオンは、フリアンに切り替えた。

・プリャニチニコフ(2-3-5)…60歳の役所勤め。はたして彼は試験を受けないといけないのか?? スペランスキーの改革の際に、どうなるんだろうと話題に上がった。

・プレオブラジェンスキー(2-2-20)…ティルジット和約のときに、右側に位置した大隊の名前。

・ブルシエ(4-3-3)…フォミンスコエでドーロホフのパルチザン部隊に発見される。ほかの諸部隊から離れて単独行動をとっているので、殲滅は容易だと、クトゥーゾフに連絡が入る。そして、突撃のためにドーフトゥロフが派遣された。

 

 ・プルジェブィシェフスキー(1-3-12)

 アウステルリッツの軍団長。ポーランド人。ビリービンには、「プルシ……」と名前を最後まで言ってもらえない。前日の作戦会議では、ワイローターの作戦を聞いているというポーズを取った。アウステルリッツでは第三縦隊を指揮したが、まったく油断していて、クトゥーゾフにあきれられる。アンドレイがクトゥーゾフの命令を伝えに向かった部隊。その後、あっさり敵に降参した。戦後、ロシアでは裏切ったと言われている。

 

・ブロージン大尉(4-2-7)…手近なところにいたので、クトゥーゾフに怒られた。