トルストイ『戦争と平和』人物事典23(225~235人目)

 

☆・ソフィー(1-1-13)…ベズーホフ伯爵の子。マーモントフ家の三姉妹の三女。次女と同じ顔。ほくろがあるだけ。笑い上戸。ドルベツコイ公爵夫人が、ソフィーのスキャンダラスな中傷話を伯爵の耳に吹き込んだせいで、伯爵の具合が悪くなり、ピエールに遺産を渡そうなどと考え出した(と、姉のエカテリーナは考え、ドルベツコイ夫人を目の敵にしている)。聖傅機密の儀式のとき、ピエールに目をやって、吹きだしている。ナターシャと似たような性格なのだが、同じ性格の人物はふたりもいらないということで、フェードアウトしてしまった。ピエールが大金持ちになったあとは、ピエールを見るたびに、にっこりほほえみ、どぎまぎした態度を見せるようになった。その後、お嫁に行ったらしい。多くの読者は、この人の名前を覚えることなく、物語を読み終えることになるだろう。

・ソルビエ将軍…命令がありしだい近衛砲兵連隊を率いて出動できるように待機した。

・ソロコフ(4-1-11)…ピエールらを捕虜として護送する部隊の兵。憔悴しきった病人。赤痢にかかっている。ピエールが、兵士の世話をしてやらなければいけないことを伍長に伝えると、上層部があらかじめ方策を講じているから大丈夫だと言った。しかし、モスクワを退去することになったとき、伍長も大尉も、人間らしい態度を一変させる。ソロコフは、一人だけ置き去りにされる恐ろしさを悲しさを感じて、唸っている。ピエールが伍長と大尉に頼んでも、彼らは「意志に反して自分と同じような人々を殺させた、あの不思議な非情な力」に支配されてしまった。

 

 ☆・ダニーロ(2-4-3)

 

 オトラードノエの犬追い猟師。ウクライナ風のおかっぱ頭で、白髪まじりの皺だらけ。独立独歩で世のすべてを蔑んだような猟師特有の目をしている。しかし、自分の配下のお抱え猟師なので、ニコライには侮蔑と映らなかった。狩猟熱にとりつかれたニコライに、「どうした、我慢できなくなったのかい?」と、目で問いかけているようだった。

 ナターシャの前では、自分が場違いだと感じたようで、そそくさと出て行った。

 最初のアタックでは、狼を取り逃し、「ちぇっ……!」と振り上げた皮鞭でロストフ伯爵を脅しつけながら、「逃がしやがって、狼をよ! 大した猟師様だ!」と叫んだ。その後、ニコライの「かかれ!」の声を聞いて駆けつけて、馬を飛び降りて、犬たちの真ん中でオオカミの背中に腹ばいにのしかかって、狼の耳をつかんだ。ニコライがとどめを刺そうとすると、「いや、縛り上げちまいましょう」と言って、狼の首を踏みつけ、口に棒をかませた。

 ロストフ伯爵がやって来ると、「大物です、だんなさま」と言った。伯爵は、「しかしなあ、おい、お前も怒りっぽいなあ」と伯爵が言うと、ダニーロは、ただ子供のような従順な、気持ちのいい顔ではにかんだような笑みを浮かべた。

 

・ダヴー…フランスの元帥のひとり。

 

 

・ダニーロ・テレンチイチ(3-3-30)…ロストフ公爵の侍僕。モスクワ炎上の際、「あれはモスクワだよ、そのとおりだ。母なる美しきモスクワ…‥」と言ってすすり泣いた。

・タラース(1-1-11)…ロストフ家のコック。「オルローフ伯爵の家でも、今日の晩餐会のほどのものはなかった、と大口をたたいている」。

・タレーラン(3-1-1)…フランス外相。世界史でおなじみ。もう少しうまく立ち回れば、戦争を避けられたかもしれない。

・チート(1-3-12)…クトゥーゾフの年老いた料理人。「チート、麦こき仕事に行ってきな」とひょうきん者にからかわれている(「ちゃっかり者チート」の民衆小話より)。「ちくしょうめ、くたばりやがれ」。アウステルリッツ敗北後にも、同じやり取りがおこなわれている。戦いの帰趨は、下々の者には何も大きな意味を持つものではない。

 

 ☆・チーホン(1-1-22)

 

 

 ボルコンスキー老公爵の執事。生涯消えることのない悲哀の烙印が焼き付いている頬、しなびた顔。白髪頭にかつらをかぶっている。特に何をする人でもないが、いつでも影のように老公爵に従っているので、名前を見る機会は比較的多い。

 

 

 アンドレイが出征直前にやってきたとき、まどろみながら、昼寝中の老公爵のいびきに耳を傾けていた。そして、小声で公爵がお休み中だと告げた。「お前もいささか老けたなあ、チーホン」と若公爵に言われる。その後、老公爵に髪粉を振りかけて、髪を編んでいる。

 「白だ! 白!」と、老公爵は着替えのシャツの色に不満があるようだ。

 ワシーリー公爵がアナトールを連れてやってきた日、老公爵の機嫌が悪いので、「聞いてごらんなさい、どんな歩き方をしていらっしゃるか」と、建築技師に公爵の部屋へ行くのを止めたほどだった。「踵でどしどし歩いていらっしゃるでしょう、ああなるともう……」。

 リーザのお産が始まったとき、老公爵にそのことを伝えに行っている。

 

 時は流れ、老公爵は、亡くなる直前、アンドレイの忠告にしたがって、ブリエンヌを近寄らせなくなった。そんな老公爵を、チーホンだけが世話をした。そして、老公爵の死に立ち会った。老伯爵の死後、マリヤが何を質問しても、「へえ、さようで」としか言わなかった。

 

・チェルヌイシェフ(3-1-10)…アレクサンドル帝の侍従。皇帝に呼ばれてやって来たアンドレイを迎えた。フランスの小説を手にして、窓際に座っていた。会議のためにやって来たプフルールが、チェルヌイシェフと話をしている。皇帝が、プフールの理論にしたがって構築した陣地を見聞に行ったと知ると、プフールは薄笑いを浮かべた。アンドレイがトルコ戦線から来たことをプフールに伝えると、プフールはあざけるように笑った。

・チチャゴフ(4-4-10)…熱烈な退却フランス軍捕捉殲滅論者で、ギリシア、ワルシャワへの牽制攻撃を唱えたが、命じられたところへは頑として向かわなかった。11月29日、ヴィルナでクトゥーゾフを迎えたが、クトゥーゾフが譴責を受けることをすでに知っていたので、「耄碌した老人に対する慇懃無礼な態度」がきわめて露骨にあらわれていた。