The New Babylon(第六幕)
(第六幕)49日目。政府軍のパリ入城と「血の一週間」が目前に迫っている。
歩哨が立っている。
議長は疲れ果てて白目をむいている。
ジャーナリストも万策尽きたように紙を破る。
「コミューンは包囲され、分断されている」
「敵が入って来たぞ!」と知らせに来た若者。
ジャーナリストさんは、いら立ちをあらわにする。
議長さんは立ち上がる。そして、コートのボタンをしめる。「ここに座っているのもおしまいだ」。
市民たちが石畳を掘り返し、バリケードを作っている。ルイーズもいる。
窓から椅子を投げ落とすシーンは、レ・ミゼラブルのようだ。ピアノも登場する。
場所は変わってニュー・バビロン、おなじみのはりぼて人形が鎮座している。
ルイーズが走り込んで来て、続いてやって来た少年たちが、人形を台ごと持ち上げて持って行く。
昔はここで売り子をしていた。かつて自分が売っていたレースの布。今は傷ついた味方のための包帯。複雑な思い。
――運ばれていくお人形のようにゆらゆらとゆれるブルジョワのお姉さん。
「ブルジョワたちは、ヴェルサイユの丘から見下ろしていた。」
支配人も、おめかししている。女優さんもいる。ピクニックしながら、暴徒たちが鎮圧されていくのを見ているのだろう。
一方、バリケードでは若い男女が仲睦まじい姿を見せる。
裁縫師と職人のご夫婦。ご老人の服のほつれを縫っている。「
「奴らの血をパリに流せ!」と、ブルジョワのおばさんが葡萄をほおばりながら叫ぶ。
ラ・マルセイエーズの一節であり、冒頭ではプロイセンへ向けられた言葉だ。
――バリケードをこっそり偵察に来たドイツ人隊長(以前、煮え湯を飲まされた男)。
「フランス人!お前たちは嘘をついた!」と言っている。
バリケードの人たちは、「わたしたちはフランス人ではない!コミューンの人間だ!」と応戦する。
支配人みたいな悪い顔をしている隊長。
狂気をの表情を浮かべ、銃をぶっぱなして逃げる――
すぐさま、政府軍がやって来て、バリケードを攻撃し始める。
恋人たち――「撃って。きゃっ! 当たったわ」
ルイーズも、バビロンから持ってきた布を包帯代わりに、けがをしたおじいさんの手当てをしている。
ジャーナリストさん登場。「あなたたちの代表者たちは、みんなもうダメだ」。
恋人たち――女は、スリルを楽しんでいるように、きゃっきゃと笑っている。
男は不意に険しい顔。そして無表情に。崩れ落ちる。
女は笑っている。冗談だと思ったのだろう。
しかし、男は死んだ。
そんな……。
裁縫師の横では、銃を撃っていた夫が死んだ。針に糸を通しながら、不思議そうにのぞき込む。
そして、おもむろに夫の銃を手に、戦闘に参加する。
ジャーナリストさんも銃を手にする。
靴職人さんは言う。「パリが欲しいのか?」
恋人をなくした彼女も叫ぶ。「古いパリが?」
デパート、ニューバビロンの人形が映る。
ルイーズの前で老人が倒れる。
支配人の姿。戦闘は続く。死屍累々。ジャーナリストさんの姿。
さっきは部屋の中で茫然としていた議長が、ゆっくりと歩みを進める。
そして、ピアノに座り、悲しいメロディーを奏でる。
空っぽの椅子と、亡くなった人たちの姿が。
恋人を失った女性。ルイーズの手の中で死んでゆく老人。
敵の将軍も、蔭から見ている。
そして、悪そうな顔を……一斉射撃。
ドレクルーズは死んだ。
バリケードに置かれたバビロン人形は火に囲まれている。
靴屋さんとジャンが戦う。
ジャンは靴屋さんを突き殺す。
ルイーズが飛んで来て、ジャンの銃剣を奪い、ストックで渾身の一突き。ジャンはしりもちをつく。
人形の横で、布を手にしたルイーズ。売り子だったころを思い出して、「安いよ!」。
すぐに銃を手にして撃ち始めるが、すぐに敵に捕まってしまう。
バビロンの人形にも火が燃え移り、人形は死んでしまった(ルイーズの象徴!)。
ジャンはむくりと起き上がる。
――華やかな音楽と共に、丘の上から殺戮劇を鑑賞していた支配人たちが拍手を送っている。女優さんもいる。
ジャンは、文明から取り残された哀れなゴリラのように、火の海に立ち尽くしていた。