The New Babylon(第二幕)
(第2幕)葉巻をくわえて、酒を片手に、フレンチカンカンの踊り子さんが、「わが愛しのパリ!」と一声。
ダンスホールでは、みんなくるくる回っている。
幕が上がって女優さん(ソフィヤ・マガリル)が登場し、拍手で迎えられてセクシーポーズ。
支配人は例のそら豆のような仏頂面でワインをすすっている。
葉巻をふかす支配人のもとに、おめかししたルイーズが連れられて来る。借りて来たのお人形の猫ような表情だ。
支配人、おもむろに白手袋を外す。再び舞台女優さんが、「みんな愛を探してる!」。
ここから三組の男女の登場
1組目:じいさんに後ろから抱きつかれているアンニュイな表情の女性。
3組目:ドラキュラおじさんに嚙みつかれながらも、すごい食欲でおいしそうに肉をほおばる女性。どちらも肉食系)。
ストローでワインを飲む若い女性(たぶん歌手)と、気絶しそうにのけぞるおばちゃん。
――支配人は切り出す。「私は愛を探しています、マドモワゼル」……微妙な表情のまま無言のルイーズ。あっ、そっぽを向いてしまった。
「残念!」とばかりに、舞台の幕は下りる。ルイーズにしてみれば、だれからのお誘いなのか知らずに、ワクワクして行ってみれば、そこにはそら豆さんがいたということなのだろう。
――代議士さん(A.アーノルド)登場。赤いバラを手にして、騎士のように気取って歩いてゆく。素っ頓狂なアレンジの天国と地獄のメロディーが流れ出す。支配人がステッキを手に劇場の舞台裏へ向かうと、代議士さんが先ほどの舞台女優と熱い抱擁を交わしているところにばったり遭遇……支配人、手袋をはめる。しまった。代議士は、「私はこのマダムに、政府があなたのデパートに商品を発注することに決めたと、話していただけなんです……」と、とても澄んだ目で苦しい言い訳する。支配人は再び手袋を外し、代議士さんの手をぎゅっと握って、ぶんぶん振り回す。ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶん。
観客たちはパチパチパチパチと拍手して、酔いどれは「ご機嫌なパリに乾杯!」
みんなが陽気にフレンチカンカンを踊っている中、ルイーズはひとりテーブルに取り残されて、きょろきょろしている。
ふとっちょが「パリに乾杯!」
例のたくましい女性は相変わらずの食欲だ。
――ここで音楽は再び「天国と地獄」に。
幸せそうに踊り狂うたくさんの人たちと、きょろきょろするルイーズと、拍手する観客たち……まだ天国だ。
ジャーナリスト(セルゲイ・ゲラシモフ)のもとに、一通の知らせ(レミゼのガヴローシュ的少年が持ってくる)が舞い込む。
「パリの諸君!」―踊る人たち―「フランス軍は」―出征の映像と踊る人たち―「打ち負かされた!」―茫然とするご老人。
ジャーナリストさんは、ドラマで法廷に立つ弁護士のように、こぶしを握りしめて厳しい表情で「打ち負かされた!」-観客たちは何事かと不審げな顔。舞台袖の支配人と代議士もそちらへ釘付けに。
――「パリへ!」ドイツ騎兵隊が、暗闇の中を走る。カンカンのダンサーたちも滑稽に踊っている。ご老人は愕然としている。「パリへ!」騎兵隊が疾走する。ルイーズも緊張した面持ち。「パリへ!」ドイツ軍がやって来るぞ。
お客さんたちは、あわてて逃げ出した。代議士さんも走り去る。蹄の音を響かせながら、騎兵隊はパリへと迫る。
足を上げて踊る白い服のカンカンダンサーから、闇の中を走る馬たちの脚のクローズアップへ。
支配人は、「えっ、いっちゃうの!?」という顔で固まっている。取り残された支配人は、しばらくぼんやりしたあとで、がくっと膝から崩れそうになって、ぽとりと手袋を落とす。「それじゃあ、ウチへの注文は??」。