「好きな札と嫌いな札を、何枚でもいいから選んで」


 課題を出され、集まったレディたちが嬉々として札を繰り始める。

 我もと、一枚一枚見ては抜き出したり、迷った末戻したりという作業に夢中になる。難しい作業だった。どの神様も、文句なく魅力的だから。

(個人的な好みというより……)

 ぱっと明るく見える札が現れた。迷わず、好きな札の山へ置く。

 そう、こんな風に惹かれるものがある札を見つけることに集中しよう。

 いつも、よくお出ましになってくださる札を涙を呑んで元に戻す。

 そして、その時がやってくる。

(……ああ、どうしよう)

 抜き出しかけた指が戸惑う。ふわっと暖かい温度を胸に感じるけれど、特別強くはない。何度も確認して、束に戻した。


「思春期! タッキーの札は選んだか?」

 肘置きにもたれかかり、何やら勢いつよく屋久杉師匠から声が飛んでくる。それに、にやっと笑って首を振ったら、なぜか師匠が絶句した。そんなに小憎らしい顔をしていただろうか。

 タッキーって? タッキーと何かあるの? とレディたちがさざめく。すかさず笑顔で沙久良さんが応対する。

「ラブがあったのっ?」

 嬉しそうに少年さんが笑顔で尋ねてくるのに、微笑んでうなづく。

「でも、何にも感じなかったから」

 そう言って、おやっと自分の中に頭をもたげた、つんとすました感じに気付いたが、正体はつかめない。

 ただ、言葉がなめらかに出ていく。

「再会する前に札見ても、本当に何も感じなかったんですよ~」

 つんつん、と音がしそうなくらいだ。和やかな雰囲気に、場の中心は自然と流れていく。その中で、ちょっと言い過ぎだよと自分で自分を諌める。

 このことは、小さなとげになって持ち帰ることになる。


 ああ、馬鹿なこと言ったな~と、暗闇で目を開く。アマヲ宅の夜である。

(……あれは、照れ隠しのような、気もする)

 言えないよ、と胸の中でため息をつく。

 少し違ったんだよ。人前でラブだと堂々と語れないよ。

 いいわけなのか、謝罪なのか。

 開けていても閉じていても、変わらない目を閉じる。