私にとって久しぶりのウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の公演鑑賞。今年は、このオケと長い付き合いのムーティが指揮をするこということもあり、とても楽しみにしていました。

 

一曲目は、シューベルトの交響曲第4番「悲劇的」。タイトルにふさわしく、実に重たく、そして深い音からスタート。細部までしっかりと表情が施され、ヴィオラやチェロの中音域までしっかりと鳴る厚みのある弦楽器が強い力で迫り、コロナ禍で一変した現状を描き出しているようで、胸を締め付けられるものがありました。

 

一方で、軽やかで表情豊かな木管楽器は強く迫る曲調の中でも夢見るような瞬間を与えてくれ、特に、木管楽器の優しい歌と、現実に引き戻されるかのような弦楽器主体の中間部とのコントラストが効果的な第2楽章は、実に感動的でした。

 

ムーティの指揮は年齢を感じさせないほどエネルギッシュなものではありましたが、そうはいっても堂々としたテンポ設定で、第3楽章はもっと前へ前へと進む力が欲しく、また、終楽章はもっと切迫感が欲しいと感じましたが、好演だったと思います。

 

ムーティの曲の情報量を最大限に引き出そうとする姿勢は、次のストラヴィンスキーの「妖精の口づけ」で見事に結実します。

今日のムーティのアプローチは、チャイコフスキーによって作曲された歌心のある旋律を気持ちよく歌わせるよりも、精密に書かれたリズムをしっかりと浮き立たせることにより、物語を描き出すものでした。今日の演奏から聴こえてきた音楽は紛れもなくストラヴィンスキーのものであり、私がこの曲に対して抱いていたイメージを大きく変えるものでした。

 

このアプローチで高性能のオケが演奏するのですから、面白くない訳がありません。抜群のリズム感、絶妙なバランス感覚と、木管楽器やトロンボーンなどに現れる難しいパッセージもやすやすとこなしてくるテクニックの高さ、このオケの豊かなサウンドで夢幻的な世界に浸るつもりが、極上のオケで20世紀の音楽を楽しむレクチャーを受けているようで、実に興味深く聴くことができました。

 

ただ、残念だったのは、個人的に一番楽しみにしていたクラリネットのソロがいまいち冴えず、それがオケにも伝染したのか、しばらく音楽が停滞したように聴こえてしまったこと。次のソロでは挽回し、演奏も輝きを取り戻したように感じましたが、それまで完成度の高い演奏であったために、実にもったなかったです。

 

後半は、メンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」。これだけ聴きなれた曲を極上のオケが演奏してくれると、あとは自分が抱いている聴かせどころのポイントをどれだけ期待以上に演奏してくれるか、各ポイントが来るのを楽しみに待ちながら聴くだけです。

 

個人的に一番素敵だと思ったのは、第1楽章後半の、温かいチェロの調べに乗って、フルートやクラリネットが柔らかく戯れる部分。実に幸せな瞬間でした。

 

そしてアンコールは、ヴェルディの「運命の力」序曲。

途方もなく強い力でねじ伏せる出だしの3音。無慈悲なまでに突き進む弦楽器に救いを求めるかのようなクラリネット。途中、美しい幻を見たかと思えば、すぐに圧倒的な力に抑えられてしまう。アンコールの枠に収まらない、どの部分も聴いていて苦しくなるほどよく表現された痛切な演奏でした。

 

「悲劇的」に始まり、悲劇的な曲で終わるコンサート。確かにまだまだ世の中は明るくはなく、その現実を浮き彫りにしたプログラミングだったのかもしれません。しかし、今日のコンサートは、決して後ろ向きなものではなく、たとえ厳しい現実が続いたとしても、それを乗り越える強い力が音楽にはある。そう感じさせるような感銘度の高い演奏だったと思います。

 

シューベルトはグイグイ進むこの演奏が好み

 

 

 

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