「どうも願うことに七夕の本質があるらしい」


 中田は青いベンチに座り、求道者としての勘からそう推測した。

大人は願わずして金を払う。


笹を買うように。


子供の願いが完全なる本気、切実であることに比して、大人の


それは片手間であり上の空なものが多い。

ホワイトボード用マーカーを持った手が止まる。


「手筈は整っている」とはともみの言葉だったのではないのか。


その後も監督はマネージャーのさやか、


事業部のゆみこ、代表のあけみと記憶の糸を辿り、


おぼろげに夜の蝶を夢想しながら談話室を後にした。

監督は談話室のやわらかいソファーから「よっこらしょ」と


立ち、何気なくスラックスのポケットに手をいれと、


数枚の折れ曲がった名刺が入っていた。


りさは肩に掛かる程度の長さの茶髪だった。


長いまつげを付けていたな。


ゆかりは大柄で、高校で三年間バレーボールをやっていた。



監督は自らの記憶力を試した。

記憶力は監督業において重要な要素だ。


監督は記憶力をいじめ続ける。


みほは背が低くて、あまり喋らなかったはずだ。


ひろみはアルバイトだったから今度店に行ったときにはいないかも知れない。


ともみもアルバイトだったな。


「監督もアルバイトみたいなものですよね」とともみは言ったっけ。