だいぶ久々にアメブロ書きました。
政略結婚森田村です。幸せであれ...



珍しく父から書斎に呼び出され、その顔は笑顔な父のものとは思えないほど曇っていた。その時点で嫌な気配はしてた、けど...

「保乃......突然やけど、保乃には結婚してもらいたいひとがおるんや」

まさか突然結婚しろ、なんて言われるとは思ってなかった。



私田村保乃の家は、そこまで裕福では無いけど、父は小さな食品会社の社長で、社員さんからも愛されていた。でも、時代の流れからか会社の経営は難しくなっていった。

父は会社を続けるため、色々なところに頭を下げて融資をお願いした。下げ続けて、下げ続けて、ようやく企業は見つかった。その企業の条件はたった1つ。分かりやすく言えば、

『そっちの娘をうちの会長の孫と結婚させる』

政略結婚の申し出だった。





御相手の企業はモリタだと聞いた時、正直驚く以前に困惑した。森田商事と言えば、社会に無知な私でも名を聞いたことあるくらい有名な会社だ。

「ど、どこでそんなお偉いさんと知り合ってきたん!?」

「それはなぁ...」

父の話を要約すると、知り合ったのは副社長を務めている兄で、以前出席したパーティーで仲良くなった?森田商事の社長に頼み込んだら、この条件で融資を了承してくれたらしい。どんな胆力とコミュ力しとんねん、化け物かよ。

「あいつのこと、今度から淀川のフワちゃんって呼ぼかな...」

「フワちゃんはええけど、お父さん。ほんとに、保乃が結婚するだけで、融資受けれるん?」

「そやけど...急なことやし、保乃が嫌ならこの話自体破談に...」

私が結婚するだけで、家族も、会社も、社員さんも路頭に迷わずに済むなら、答えなんて一つしかない。

「保乃、森田さんと結婚する」

田村保乃24歳。森田ひかるという年齢も顔も知らない男性と結婚することになりました。





あれよあれよと話は進み、さすがにお互い顔も知らぬまま夫婦になるのは...ということで、顔合わせをすることになった。
大阪でも有名なえらい高いホテルの最上階にある、えらいオシャレなレストランにお呼び出しされてさすがにヒールも震える。怖っ。

「待ち合わせです、森田さんいらっしゃいますか」

やばい、声もちょっと震えてる。緊張でギッチギチになりながら店員さんに連れられ席へ向かうと、4人がけのテーブル席には女性が2人座っていた。

「た、田村保乃です!この度はお礼してもしきれず...」

「お礼は大丈夫ですから、とりあえず座りません?」

にこやかに微笑む女性は多分お姉さんだろう
それで...この私の顔をガン見しては目が合うと背けるかわい子ちゃんは妹さん?
2人とも顔がいい。ほんと顔がいい。森田ひかるさんも顔がいいパターンよなこれ...

「それであの...ひかるさんはどちらに?」

「ひかる?あっ、そっか。田村さん今日がひかると会うの初めてでしたね。」

お姉さんは一瞬びっくりした表情を浮かべた後、私の状況を思い出したのか、納得したような口ぶりになった。

「貴女のお婿さんになる森田ひかるは、真正面にいるこの子ですよ」

真正面にいる、この子...?
いやいや、真正面にいるの妹さんちゃうの?この子が私の旦那さ...え?服装男物やけど女の子やんだって...え、旦那、さん?ほんまに旦那さん?奥さんちゃうよな、保乃が奥さんやもんな?

「混乱しますよね...」

「え...っと、女の子、に見えるんですけど」

「ひかるは女の子ですよ」

「ですよねぇ...???」

この見た目もろ女の子だけど戸籍上男性な理由は、森田商事の会長である祖父が、いずれ社長を引き継ぐはずの孫が女しか生まれず、四人目...つまりひかるさんは例え女でも男性として育てると決めたそう。
いや、普通に養子でもなんでも選択肢あったやろとは思うけど、おじいさんの目が届かなくなるまではひかるさんは男の子でおらんとあかんらしい。



顔合わせをして婚姻届を提出した1週間後、私は保母さんの仕事を辞め、引越しのために森田商事の本社がある東京に来ていた。

食事の後LINEを交換し、夫婦として暮らすまで色んなことを知っていった。
森田ひかるさん、3つ下の21歳。現在大学生で、僕っ子で、身長は150センチ、あと本人は明言しないけど内気で人見知りで恥ずかしがり屋。

LINEでは私が聞いたことにひかるさんが答えてくれる一問一答形式になってしまったけど、ひかるさんにも私の事知って欲しいなぁ...なんて考えながら、ひかるさんの家へ向かった。



 「あ、と...いらっしゃい...」

出迎えてくれたひかるさんは、緊張からか声が少し震えていた。ちなみに、ひかるさんの住んでる場所が一等地にあるマンションで私も震えた。

リビングに通され、どうしていいか分からずそわそわしていると、ひかるさんがお茶を出してくれた。

「その...保乃、さん...」

大人が余裕で4人掛けられるくらいのソファの端っこに座ってしまった私と、お茶を出したあと速攻で1番離れた端に座ったひかるさん。絶対新婚夫婦の距離感ちゃうやろ...と心の中でつっこんでいると、ひかるさんが俯きながらも口を開いた。

「ごめんなさい。いきなり結婚とか、保乃さんの迷惑でしかないですよね...。僕、あの、こんな性格で、話すのも得意じゃなくて、だから...おじいちゃんから言われても、奥さんも、友達すらあんまり出来なくて...」

この内気ちゃんのことだ。『友達になろう』でもハードルが高いのに、『奥さんになってよ』なんて言えるはずがない。

「もし、嫌なら...僕が祖父を説得するので、断っていただいても...いや、本当は...保乃さんにいてほしいんですけど...でも...」

「保乃はどこにも行かないです。ずっとひかるさんと一緒にいます。私が、ひかるさんを守りますよ。」

自分の口から出た言葉に驚いた。知り合ってまだ数週間、夫婦になるには足りないことだらけ。それでも、私の目の前で泣きそうな顔をして見つめてくるこの子を、守りたいって思ってしまった。

「ほ、ほのさん...うぅ、ありがとうございまう゛...」

「ひかるさん泣かないで〜」

私がお嫁さんとして初めてした仕事は、旦那さんの溢れ出した涙を拭いてあげることでした。