ドローン作っちゃう話です。田村さん視点も書きますね。
※ドローン旋回中の歌詞の独自解釈が含まれます
キーンコーンカーンコーン…
終業のチャイムが鳴る。彼女はHR中にリュックの肩のねじれを直しながら、話半分で聞き流してるみたい。
「話聞いてたか田村!」
「は、はい!聞いてますっ!」
教室がどっと笑い声に包まれる。
HRが終わると同じ部活の子と教室を飛び出して行った。廊下にも彼女の笑い声が響く。
「(今日もバイバイって、言えなかったな…)」
そんな後悔をしながら、私も教室を後にする。
私は彼女、田村さんが好きだ。好きになった理由なんて単純で、私の目を見て話しかけてくれたから。
本当にそれだけ。それだけで
「それだけで偵察用ドローンは作らないんだよ、普通」
同じ理科部に所属する夏鈴にはめちゃくちゃ呆れられてるが、私はドローンを作るのが専門分野。
藤吉は偵察用とか言ってるけど、そんなことのために作ってるわけじゃない。そう言うと、夏鈴はまた呆れた顔をした。
山﨑さんの盗聴するためにこっそり改造品作ってる夏鈴にだけはそんな顔されたくない。
下校の時間になり、試作品のドローンを小脇に抱えて校舎裏へ急いで隠れると、ドローンをゆっくりと浮かす。
このドローンはカメラを内蔵していて、スマホと映像が連動する特別仕様。20mくらいまで上昇し、いつも田村さんが通る裏門を探すと、居た。田村さんだ。
長いストレートの髪をポニーテールにして、所属してるバレー部のシャツを綺麗に着こなしている。きっと可憐って言葉は田村さんのためにあるんだと思う。
…とっても楽しそうに話してる。相手は…確か隣のクラスの…そうだ、渡邉さんだ。
2人とも美人さんだから、並んでるとオーラがすごい。
「田村さんは渡邉さんのこと好きなのかなぁ…」
そんなこと考えてる間に私と田村さんの距離は離れていく。田村さんの後ろに浮かぶドローンは1km離れると落ちてしまう。
足元に置いたカバンをひっ掴むと、ドローンの方向まで全力で走った。
「ひぃ…ひぃ……」
田村さん、歩くの、早い!
気づくとだいぶ離れてしまったから走って追いかけた。でも、短距離は得意でも長距離走が苦手な私が走って間に合うはずがない。
「やばい、落ちる!」
スマホの画面に映るドローンの視界は、ゆっくり地面に近づいていっている。あぁ、3ヶ月の努力の結晶が…
「キャッチ!」
前の方からよく通る女性の声が響く。無い体力を振り絞って声の方まで向かうと、ドローンは愛しい彼女の腕の中にすっぽり収まっていた。
「あ、ああ、あの!」
「ん?あれ、森田さんや!」
…聞き間違いかな?田村さんが私の名前を呼んだように聞こえたんだけど。
「もしかしてこれ森田さんのやった?落ちてきたからキャッチしちゃったんけど、へーき?」
間違いない、田村さんに名前呼ばれてる。認知されてる。今日が命日かもしれない。
「えっと、あの、ありがとう…ございます。」
「確か森田さんって理科部やったよな。ドローンとかも扱うんや、凄いなぁ。」
「これは、自分で、作ったやつで…」
「ドローンって作れるん!?森田さん凄い人やん!」
あぁ、そんなキラキラした瞳で見ないで…私がドローンを飛ばしてた理由は、『あなたをドローンで盗撮するため』なんです。
遠距離でも私の目の代わりを果たすものとしてドローンに出会い、改造に改造を重ねた結果、今ではカメラ機能もついてしまった代物なんです。
「ドローンを本人に見られた?」
数日後、部活で夏鈴にあったことを話した。
試作用のドローンを飛ばしたこと、それを本人にキャッチされ、あまつさえ褒められてしまったこと。
「で、結局なんて言ったのその後。」
「返してもらって、バスが来る時間だからって走ってその場を後にした。」
「数ヶ月ぶりの会話がそれ?」
うぐ…
そう、夏鈴の言う通り3ヶ月ぶりの会話が"これ"だ。自分のコミュニケーション能力の無さを恨む。
「だから、クラスでもなるべく田村さんと授業以外は半径10m以内に入らないよう行動したし…」
「え…なんで?」
「喋っちゃったから、充電期間…的な?」
夏鈴の表示は呆れを越して、もはやドン引きみたいな顔をしてた。
明日は休日だからドローンの最終調整できるかな。
バス停に近い裏門に向かう。人がいないから柄にもなく鼻歌を歌ってみたり...
「ふふふっ」
声の方を振り返ると田村さんがいた。
いつもドローン越しで見てる田村さんの姿のまま。
「ごめんね、森田さんも鼻歌とか歌うんだな〜と思って」
終わった。絶対引かれた。
こんな盗撮魔の陰キャ女が鼻歌なんて歌ってごめんなさい…!
「えっと、あの、ごめんなさい…」
「なんで謝るの!?ごめんは保乃の方だよ?」
はぁ…可愛すぎる。やっぱり田村さんは神様が作った最高傑作だ。部活終わりなのになんか良い匂いするし。田村さん腕長いし、指も長いなぁ。爪の形も...
「…なんだけど、って森田さん?」
「えっ!あ、ごめんなさい。ボーッしてました。」
「森田さんって○○ってバス停が最寄りでしょ?保乃も近所だから一緒に帰りたいなーって」
田村さんが、"一緒に帰りたい"…?
そろそろ幻聴も聞こえるようになったのか?
「森田さんちここなんだ〜」
「田村さんもそこのマンション住んでるんだっけ…」
「そうそう!ご近所さん同士また一緒に帰ろうね」
田村さんの背中を見送りながら深く息を吸い込む。
幻聴じゃなかった!なんかすごい近かったし!
普段なら絶対歩かない3キロの道のりも、田村さんとならいいって思ったり。…田村さんパワー、恐るべし。
それから週に一回は必ず田村さんと帰るようになった。クラスでも喋るようになったし、毎日LINEするようになったし、抱きしめてもくれるようになった。
そして
「付き合うことになりました...!」
「へぇ、よかったじゃん。捨てられないよう頑張りなよ」
「夏鈴はなんでそんなことばっか言うかな〜」
ぶーぶー言ってるひかるをからかっていると、スマホにメッセージアプリの通知が届いた。タップすると...あの子だ。
『夏鈴ちゃん。ひいちゃんから聞いてるだろうけど、付き合うことになりました!』
『良かったね。上手くやれたんだ』
『夏鈴ちゃんのおかげだよ!ありがとう(*^^*)』
...言ってなかったけど、ひかるの彼女なかなかやばいやつだよ。
保乃とは前のクラスでは友達で、1年前に盗聴器注文してきた時は好きな人に使うって嬉しそうだった。けど、半年前くらいにグレードの高いものを求めに来た時、言われたんだ。
「理科部の森田ひかるちゃんって、夏鈴ちゃん相手だとよく喋るんだね。羨ましいな〜。」
ゾクっとした。なんで理科部の様子を、バレー部である保乃が知ってる?
...もしかして、保乃の好きな人って
「私とひかるは保乃が思うような関係じゃないよ。それに、私は好きな人が...」
「ソフト部の天ちゃんでしょ。かわいいもんね。」
...どこまで知ってる?いつから聞かれてた?
こいつはやばいと思ったけど、極めつけは私に向けたあの黒く淀んだ目。田村保乃は、自分の"お気に入り"についた虫は徹底的に排除する、そういう女だ。
「ひかる、これからどうなるんだろうな...」
友達の平和を願いながら、スマホの電源を切った。