Tripper's anthem
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2011-04-27 01:16:44

テーマ:India
Tripper's anthem

離れてしばらく時間が経過したというのに頭の中に焼き付いて忘れることのできない町がある。
砂埃に包まれている喧騒の町、ベナレス。
これまで旅してきた土地の中でもかなり不思議な町である。

この町には人と一緒に様々な生き物が共生していた。
野良の猿たちは古びた建物からまた古びた建物へと飛び移り、町の中の小さな花壇の中ををリス達が走り回り、細く狭い迷路のような路地では皮膚病の犬達がやる気なく寝そべっている。
まるで三日月のようなツノを左右対称に生やした野良の牛たちはその町の古びた細い路地をあてもなくただウロウロと彷徨っている。
彼ら牛たちは僕達とはまるで違った時間の流れの中を生きているような気がする。
細い路地を塞ぎ、人が通ろうとしても退けずにじっと佇むマイペースな野良牛。
彼らはその大きな瞳の奥で何を考えてるのだろうか。

Tripper's anthem

旅を始めてしばらく経つ僕も野良牛たち程では無いものの、ベナレスの居心地の良さに日にちや曜日といった感覚が溶け出し、印度的時間感覚の中で生活していた。
今日が何日で何曜日なのかも分からない。
ボロボロの安宿に泊り、そこで出会った世界国各国からやってきた怪しげな旅人達とトランプで勝負したり、一日中ダラダラと他愛も無い話に明け暮れたり、そんな日々が何日も続いた。

ひとたび宿の外に足を踏み出すとインド独特の喧騒に包まれる。
強い好奇心を持ち、妙な活気に満ち溢れ、そして商売好きなインド人。
彼らは僕達旅行者を見つけるとどのようなタイミングでも全く遠慮などせずに話しかけてくる。
「おまえはどこから来たのだ?」
「何歳だ?」
「これからどこに行くのだ?」
「何か困っているのか?」
「インドの女は好きか?」
「このシルクはとても良い物だ。特別に安くしてあげるから是非買ってゆきなさい」
「あなたの耳には耳クソがたまっているので100ルピーで耳クソを取ってきれいにして差し上げよう」
「1ルピーくれ」
少し通りを歩くだけで一般人や商人、物乞いなど何十人ものインド人に話しかけられる。
良いとか悪いとかそんな話は別にして、僕が生まれ育った日本とは違い人と人との距離感がものすごく近い。
正直面倒臭いと思うこともよくあるが、ふとした時に彼らが持つ素朴な優しさを感じることもある。

Tripper's anthem

Tripper's anthem

Tripper's anthem

この古い町はに巨大な力で渦をまくカオスが存在する。
そう、ガンジスである。
インドについてあまりよくしらない人でも名前くらいは聞いた事があるかと思う。
ガンジスはまるで聖母のような優しさでありとあらゆる物を受け入れる。
川に身を浸し祈りを捧げる人、その水で洗濯をしたり体を洗う人、その脇を流れ行く糞尿や色とりどりの美しい花々。
そして人や動物たちの死体もまた同じようにガンジスへと流される。
ガンジスの近くで死んだ者の魂は輪廻のループを抜け出し繰り返される苦悩から解き放たれるという。
そのためインド中から死期が近づいた多くの人々がベナレスへと集まってくるという。

美しいもの、醜いもの、清潔なもの、不潔なもの、命あるもの、そして命を失ったもの、人々の生活や祈り全てのものがガンジスを通してひとつになる。
ドロドロに溶けて混ざり合い、グルリグルリと目には見えない渦を巻く。
あらゆるものが全てひとつに溶け合った混沌の渦だ。
不思議な居心地の良さがそこにはあった。

インドを離れ、また別の土地を旅しながら僕は時々ふと考えてしまうことがある。
僕がベナレスで目にした光景は本当に実在するものだったのか。
それともインドの持つ独特の熱にほだされて見てしまった幻だったのではないだろうか。

そこではあらゆるものがひとつに混ざり合い、混沌の渦がベナレスという名の宇宙を形成していた。


Tripper's anthem
2010-12-16 15:16:07

祈るチベット

テーマ:China

Tripper's anthem


チベット自治区に入るためには許可証が必要で、さらに自治区内に滞在する間はガイド付きのツアーを組まなければいけないということらしかった。


中国は物価は安いが移動と観光にカネが掛かるのでなるべく節約して旅をしたかったのだが、許可証を取得してガイドを付けずに自治区内に入ると宿にもなかなか泊まることが出来ないらしく、その上警察にバレると自治区外に強制退去させられ、余計にカネがかかるとのことなので諦めて人を集めてツアーを組んでチベットを越えることにした。


宿に貼り紙をして数日間待つとすぐにチベット越えをしたい人達が集まった。


メンバーは僕を含めた日本人が6人とイギリス人が2人の合計8人。


8人でツアーを申し込んだので丁度最安の費用(7日間で約1200元、日本円で約15000円)でチベットを越えられることになった。


成都からチベット鉄道寝台列車に乗り、片道44時間かけてラサを目指す。


長時間の移動で僕らはすっかり遠足気分だ。


お茶やおかしなど食料を山ほど買い込み、窓の外を流れるチベットの壮大な風景を見て大はしゃぎした。


しかし大はしゃぎし過ぎたせいか標高4500mを越えたあたりで、僕ともう一人を除いた残りの全員が高山病でダウンしてしまった。


高山病は本当に辛いらしい。


僕達を乗せた列車は激しいアップダウンの末にようやくラサに到着した。


標高3600m地点にあるラサはチベット自治区の中心地でチベット仏教の聖地としても有名で、中国内のあちこちに散らばっているチベット人達もこの地を目指して巡礼にやってくる。


僕達はこのラサから一週間かけて広大なチベット自治区を移動しネパールへと越境するのである。


チベット仏教の聖地であるポタラ宮殿や大照寺、その他にも街にある寺院をいくつか訪れた。


僧侶が唱えるお経が響きわたり、地を揺るがすような太鼓の音がこだまする院内は厳かで濃密な空気が充満しており、外とはまるで異なった時間が流れていた。


常に若者から老人までの何十人、何百人ものチベット族の人達でぎゅうぎゅうに溢れかえっていて、皆手を合わせ深く何かを祈っていた。


チベット族にとってのチベット仏教は完全に生活や考え方にその一部として組み込まれており、心の拠り所というよりも、心そのものという印象すら受けた。


Tripper's anthem


実際に見て思ったがラサは僕が想像していたよりも街全体の漢民族化、商業化が進んでいる。


いたるところに新しい店が建ち並んでいて、その多くがやはりチベット人ではなく漢民族によって経営されていた。

土地だけでなく経済も支配されてゆくチベット族。


チベット族の土地にもかかわらず物乞いをしているのは漢民族ではなく、いつもチベット族だ。


おまけに街のいたるところで軍人がライフルを片手に、チベット族が漢民族追放の為の暴動を起こさないようにと、監視と威圧の目を光らせている。


独立を許されずに中国政府に土地を奪われ、偉大なる指導者を奪われ、文化や血が薄れてゆく中で、それでも彼らは未だ祈り続けている。


彼らの祈りは何処かへと辿り着くことが出来るのだろうか。


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2010-11-28 14:19:11

鳥葬

テーマ:China

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僕は見た。


ヒト―正確に言うならば、もとは命と魂を持ってヒトとして機能していたもの、今はもう命と魂が抜けてしまっている肉の塊―が鳥たちに食べられてゆく瞬間をである。


チベットには鳥葬という文化がある。


その名のとおりで、亡くなったヒトを鳥に食べさせること処理する方法だ。


わざわざ鳥に食べさせるのは、ただ捨ててしまうよりは鳥葬にすることで、他の生命の為に少しでも役に立てられるからということらしい。


青空の下、僧侶たちが唱えるお経は小高い丘の上で響き渡っていた。


そこに運び込まれた遺体はしばらくの間、まるで歌のようなお経を聴かされ、そのあとに身体中にナイフで切り込みを入れられた。


Tripper's anthem


切り込みを入れることで鳥たちが肉を食べやすくなるからだ。


そのあいだ鳥達は遺体のそばで群れになって準備が終わるのを今か今かと待っていた。


水気が失われたようなパサパサの遺体だったが、切り込みを入れられた肉の裂け目からは意外なほどにみずみずしい臓物が覗いていた。


僕はそれをとても文章に置き換えることなんて出来ないような複雑な気持ちで見ていたが、そんな僕の感情とは無関係に遺体は着々と切り裂かれていった。


準備が終わると、近くで首を長くして待っていた数えきれないほどの鳥たちは一斉に走り寄ってきた。
羽ばたいて寄って来たのではなく皆走って寄ってきた。


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鳥たちは遺体を囲むようにして群れをつくり、そしてその鋭利なクチバシを一斉に勢いよく、そして一切遠慮せずに肉に突き刺しはじめた。


遺体に群がる鳥たちは、やはりそれを見る僕の感情とは無関係に肉をついばみつづけた。


群れの中からは鳥たちが翼を広げる音や引きちぎられる肉の生々しい音が混ざり合って聞こえてきた。


その勢いはとても激しくて、そして力強かった。


頭部をヒトの血の色で赤く染めた鳥たちは翼を大きく広げ、ギィーギィーと他の鳥を威嚇する声を出して肉を争っていた。


Tripper's anthem


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ある鳥は引きちぎった骨と肉をくわえて群れを離れ、またある鳥は他のもう一羽の鳥と争ってヒトの肉片で綱引きをしていた。


二羽の鳥に引っ張られたヒトの皮は不思議なほどに伸びていた。


十数分程度のわずかな時間で遺体は骨だけになってしまった。


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そして残った骨は全てハンマーで砕かれ、食べやすい大きさにされて鳥たちに与えられた。


そしてそれは一瞬で無くなった。


食べ損ねた細かい骨の欠片を除いた、ヒトの身体の殆どの部分があっと言う間に鳥たちの一部と化してしまったのだ。


呆然としているうちにニ体目の鳥葬が始まった。


Tripper's anthem


鳥たちは相変わらず美味しそうにヒトの肉を食べていたが、それを見ても僕はとても美味しそうには感じられなかった。


あたりまえだ。


あまりにも凄まじくて、僕はその光景から目を反らすことすらできなかった。


気づくと僕の手と足は震えていた。


身体中の血管がぎゅっと細くなったような気がし、そして吐き気とまではいかないものの胃の辺りに違和感を感じた。


おまけに僕の心臓は熱を持って、いつもの何倍もの早さで鼓動したので、何かの拍子にそのまま止まってしまうのではないかと少し心配になった。


普段が僕たちが普段していることと逆のこと、つまり食べる側と食べられ側が逆転しただけのことだというのに、どういう訳かその衝撃はあまりにも大きかった。


ただ呆然とその光景を見つめていると鳥の群れの中心部から、クリーム色に少しだけ赤色が混ざったボーリング玉ほどの大きさの球体が、ごろんごろんと重たそうな音をたてながら僕の方に向かって転がってきた。


そしてその球体は丁度僕の目の前で、尚かつ僕の正面を向いた状態でぴたりと停止した。


球体の正体はヒトの頭蓋骨だった。


Tripper's anthem


まるで笑っているかのような表情をした頭蓋骨だった。


頭蓋骨は僕に対して何かメッセージ伝えたかったのだろうか。


今の僕にはまだその意味を理解することが出来ない。


一部始終を目撃したあと、情けないことに僕はその場から逃げ出すような気持ちで宿に向かって歩いた。


帰り道、いつもなら綺麗だと感じるはずの山は何かが違って見え、僕に向かって吠える犬は何故かいつもより恐ろしく感じた。


宿に戻ってからも何だか落ち着かず、ミルクを入れた熱いコーヒーを飲んでもしばらくは安心することができなかった。


僕が目にした白昼夢のようなその光景は決して幻などではなく、まぎれもない確かな現実としてそこに存在していた。


ヒトの世界ではうまい具合にぼかしがかかっている、生きるということの最も根源的な部分を、まざまざと見せつけられた気がした。


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