nabisonyoです。
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こちらは『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮ください。お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
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「俺たち、結婚するか?」
まっすぐな瞳で見てくるジョンヒョンさんを、いつからヨ皇子様だと思わなくなっただろう。高麗時代とは違い、穏やかで優しく、でも仕事はキッチリとこなし、必要な時に必要な言葉をくれる。大事な人としてわたしのそばにいてくれた。
「何言ってるの?ジョンヒョンさん、彼女いるじゃない。わたしにそんなこと言うよりさっさと彼女と結婚しなさいよ。今の彼女は珍しく長く付き合ってるし、大事なんでしょ?」
「あいつは、お前と同じ感じで……。まぁいい。そうだな。あいつともハッキリさせないとな」
呆れたことを言うジョンヒョンさんへ目を細めて咎めるように視線を送ると、フッと左の口角を上げて笑う姿。久しぶりにヨ皇子様の時の顔だった。
数か月後『籍を入れた』と結婚報告をしてくれたジョンヒョンさん。左薬指にはシルバーのシンプルな指輪があった。この人もここで幸せになれるなら良かったと思いながらお祝いを渡した。それから一年後、ジョンヒョンさんにも新しい家族である子供が産まれ、5年程が経った。
未だに独身のわたし。陛下を見つけることもできていない。『もしかして』という期待もずいぶん前に無くなった。
そして最後の本を出してからは化粧品の仕事だけをしている。それでも穏やかな日々を幸せだと思っている。会社に与えられた部屋から視線を窓の外へ向けると春の花が咲き、風にのって花びらが舞っている様子が窺えて。やっぱり幸せだと思えた。
そんなある日、内線が掛かってきて受付の子から話を聞くとジョンヒョンさんが来社したということだった。ジョンヒョンさんがわたしの仕事場に来ることは初めてで驚きながらも部屋へ迎え入れると、その顔は憔悴しきっていた。
「どうしたの、そんな顔して!何があったの!?」
応接用のソファに座るように促すと膝に肘をつき大きな手で顔を埋め、苦しそうな声を出した。
「すまない。まさか、こんなことになるとは」
「何?何があったのよ?」
突然謝り出すジョンヒョンさんに訳が分からず、こちらも混乱してきた。
「俺が結婚した相手は……朴という女だ」
「え?何よ、いきなり。まさか浮気でもされたの?あ、『すまない』っていうならわたしのこと疑われてるとか?」
「フッ。それならまだ良かったな。あいつは昔から知っている女で、負い目があって結婚したんだ」
そつがないジョンヒョンさんに負い目なんてあるのかと疑問に思いながらも、絶望を表したような顔をしている目の前の人の言葉を漏らさないように聞いた。
「赤ん坊が産まれて、それなりに可愛かったよ」
「うん?」
ジョンヒョンさんにしては珍しく要領がつかめない話に戸惑いながら、隣に座った。そして丸めている背中に手を当てようとした時、ジョンヒョンさんは声を発した。
「ソ……」
「え?」
「ソだったよ。成長した顔は信州に出される前のソと同じ顔をしていた。まさかと思ったよ。だけど昨日。俺を見上げる顔を見て、間違いないと確信した。今のところソに記憶はない。……すまない。ヘ・スよ。まさか俺の子としてソが産まれるだなんて」
背中に置こうと思っていた手が止まり、宙に浮く。
世界から音が消えた瞬間だった。