nabisonyoです。
当ブログにお越しいただきありがとうございます。
こちらは『麗~花萌ゆる8人の皇子たち~』の二次小説を書かせていただいています。ドラマのイメージを壊すとご不快の方はこちらでご遠慮ください。お許しいただける方は少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日は仕事が休みという木曜の6時。仕事が終わった後に梨泰院の職場近くにあるカフェに入り、案内された席へ座った。頼んだコーヒーがテーブルに置かれ、今は傷もない左腕にはめた銀色の華奢な腕時計を確認する。
約束の時間は6時半だから、まだ20分以上も待ち合わせの時間はあるのに段々と緊張してきた。
作家として活動をしたいわけじゃないわたしには、出版社からの誘いも嬉しいとか、売れるかも?という期待とか、有名になれるというものとはかけ離れ、戸惑いという気持ちがピッタリだった。この場に来てはみたけれど、断ることも選択肢に入れている。
少しでも落ち着くために半分ほど残っていたコーヒーを一気に飲み干し大きく息を吐いたところで声をかけられた。
「ヘ・スさん、ですね?」
その声にビクリと肩を震わせた。慌てて立ち上がり振り向いたけど、そこでわたしの動きは止まった。
「……ヘ・スさん?違いましたか?」
「あ……。い、え。ヘ・スです」
何とか絞り出した声で出た言葉はそれだけ。
「とりあえず座って話しましょうか。それか、顔色が悪いようなので後日でも良いですが、どうしますか?」
「え、っと。き……そう緊張してしまって。一度座らせてもらいます」
わたしがそう言うと、さっきまでわたしが座っていた椅子を引き『どうぞ』と言ってその人は促した。冷や汗が背中を一筋流れたような気がする。ゴクリと唾を飲み込み、小さく頷いて椅子に座った。そしてわたしの前に座った人が言った。
「初めまして。私はソウル出版、文芸部のユ・ジョンヒョンです。ヘ・スさんは、本名ですか?」
その問いかけにドキリと心臓が跳ねた。
わたしの目の前にいるユ・ジョンヒョンと名乗った人は、高麗時代で出会った第三皇子 ワン・ヨだったから。
わたしのことを覚えているのか、高麗のことを覚えているのか。何の意図があってわたしと会っているのか。目まぐるしく頭の中を疑問が次々に浮かんでいく。
答えられないわたしを気にしていないのか、ヨ皇子様が言った。
「ブログでの名前は本名を使わずペンネームの方が多いので。それとも本名でしたか?小説の主人公と同じ名前ですよね?」
あ。そういう、こと?
高麗の記憶は……ない?
質問に対して反応が遅いわたしに催促するでもなく、微笑む顔は高麗でのヨ皇子様と違う。改めて見るとパリッとした紺色のスーツにカッチリと上がった前髪。
重なる面影と相違点に混乱して、額に手をあて頭を支えた。
「……ペンネームです。本名はコ・ハジンと言います」
わたしがそう言うと『そうですか』と言い、ウェイターがすぐ横を通ったのでコーヒーを注文したヨ皇子様。
「コ・ハジンさん。仕事をされているとか。高麗時代に関わるような仕事ですか?当時の様子がしっかりと書かれていてまるで本当に見て来たようで、読んでいる側にも情景がよく分かりました」
質問にドキリとしたけど、答えである高麗に関わる仕事をしているわけじゃないと答える。すると意外そうな顔をして『よく調べたんですね』と感心したように言うヨ皇子様。
「私はこの話を最後まで読みたいと思っています。そして多くの人に読んで欲しい。どうですか?うちで書いてみませんか?」
「……少し、考えさせてください。仕事もしていますし」
「分かりました。これは私の名刺です。この番号に返事をください」
テーブルに置かれた名刺を受け取り、二人で席を立つ。店を出て向かい合い、ヨ皇子様からわたしに小さく頭を下げた。
「私は、小説に出て来る主人公のヘ・スの行動も気になりますが。8人の皇子たちに非常に興味があります。だから……できれば良い返事を待っています」
そう言って別れたわたしとヨ皇子様。
10mほど歩いて立ち止まり、後ろを振り向くとヨ皇子様は背中を見せて歩いていた。
「ホントに、ヨ皇子様?」